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異聞録:東京異譚  作者: 背負う地区顎と
人の章

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32/230

前編 其の十一

黒幕で在る屋本は息も絶え絶え―

それは、正に死に向かう様だった―

…だが

十一



―夜11時26分―


―港区芝、私立御厨中高等学校グラウンド―

挿絵(By みてみん)



黒い男「…早く出てこいよ」


動かなくなった屋本の身体を見下ろしながら、吐き捨てる様に言う。


動かなくなった屋本の身体がビクビクと不規則に痙攣したかと思うと、傷付き、欠損した箇所からうぞうぞと大小様々な百足が這い出てくる。


這い出てきたかと思うとガサガサと不快な音を立てて集まりだす。


それは蜷局(とぐろ)を巻いた30m程の巨大な百足を形成していった。


そしてその大きな顎を開き、眼下の屋本に食らいつく。


そのまま持ち上げると、第一小顎、第二小顎を使って器用に屋本の身体を口内へ含んでいく。


全身の骨や筋肉を砕き、大きな歯板で屋本の身体を磨り潰し、ごりごりという嫌な音と共に体内に取り込んだ。


口内に含みきれなかった身体の一部…食いカスの手首や足首がアスファルトにボトボトと落ちた。


食い終わるとギチギチと顎を動かしながら威嚇をした。


と同時に長大な尻尾で右側から吹き飛ばされた。


その衝撃で中庭まで吹き飛ばされる。


ガサガサと枝を折りながらスグリの中に突っ込んだ。


そこへ大百足が身体を這わせ巨大な頭をスグリの林に突っ込ませると、足を第二小顎で掴み、校舎壁に振り回して二度三度叩き付けた。


そして、元いたグラウンドに放り投げる。


地面に叩き付けられながらも体勢を整えた。


大百足が黒い男の前に来ると、再び"自分の方が有利だ"とばかりに顎をギチギチ動かしながら威嚇する。


黒い男「…」


背中の"閻魔"を左の腰元まで下ろし、地に足を着け、腰撓(こしだ)めに落とし、左手で握った"閻魔"の柄に右手を添えて居合いの形を取る。


そして丹田から右手に"力"を込め始める。


するとその空間自体が"重く"なる。


その重い空間を拡げていき、大百足全体を覆うほどになると、瞬間的な深呼吸と共に、下っ腹に力を込める。


黒い男「…お前は死ぬ…()()()で…!」


そう静かに述べると、右手で瞬速の抜刀を行う。


その瞬間、大百足の動きが止まった。


手元が一瞬動いたかと思うと、然程(さほど)抜刀したとも思えない刃を、ゆっくりと納刀した。


そして、鞘に"カチン"と収まると、30m程あった長大な大百足が、全身から大量の青黒い血を噴き出すと共に、バラバラの不定型な破片になって、グラウンドにドサドサと落ちてきて転がった。


そのバラバラになった状態に興味は無いとばかりに後ろ姿で携帯を取り出しスライドさせ何処かに電話しながら、その場を後にする。


黒い男「…えぇ、龍脈に巣くう大百足は始末しました 後始末は宜しくお願いします…」


エージェントA『ああ…感謝する これで東京の気脈は護られた 次はまた、追って連絡する…』


黒い男「了解です…じゃ」


エージェントA『ああ…』


そう言って、電話が切れた。


携帯のスライドしている部分を戻し、腰のサイドバッグに仕舞う。


??「!いたぞッ! コッチだ! 待て!!」


と、同時に、見知った声が掛けられた。


溜息を吐きながらその声の方向を見遣ると、見知った短髪眼鏡と、メッシュ巫女だった。


トシ「待つんだッ!」


スズ「…」


スズの表情は浮かばない。


相変わらずこの眼鏡は状況も理解せず鬱陶しい。


トシ「迎えに来たぞ! もうそんなムリしないで良いんだッ!」


黒い男「…はァ?」


明後日の方向からの言葉に、頓狂な声が出てしまった。


トシ「そんな…アイツ等を斃す為だからって…無理してまで戦わなくたって…俺達が助けるから!」


何を言っているのだこの男は…自分がイヤイヤこんな考え方と戦い方をしているとでも思っているのだろうか。


―イヤ、多分そうか…自分に都合良く、自分達に被害が及ばない間に独りで請け負う―とでも漫画的に考えているのだろう。


相も変わらず浅はかな事だ…


鼻で笑ってしまう。


何処までも都合が良く真っ直ぐでエゴなことだ―


そう心の中で認識すると、口を開く―


黒い男「…オレは―…自分の意思でお前等と決別した… 勘違いするな これ以上邪魔するなら…"殺す"ぞ」


その最後には敵視する明確な冷たさがあった。


それを向けられると思っていなかったトシは、眼を見開いて驚愕している。


トシ「!な―ッ…! …それは…!」


続けようとした言葉が在るのだろうが遮る。


黒い男「間違っているか? なら―そこに転がってる死体は何だ?」


言われて二人が眼を遣る先には大百足の破片に埋もれた沙耶の死体だった。


百足が集まる際に流れに飲まれてここまで来たのだろう。


もう、()()は、()()()原形を留めていなかった。


トシ「! それは―ッ…!」


スズ「ッ…!」


トシは絶句し、スズは眼を逸らす。


黒い男「それがお前の軽々しく言った"絶対"の結果だッ! …逃がしたあのガキになんて説明する気だ? "()()護るって言ったのに無理だったんだ でも頑張ったんだよ"―とでも言う気か? 都合の良い解釈で自分を納得させて! 無駄な希望を与えて助けた気になって…! わかんねぇのか?!"絶対"は無ぇッ! オレ達のやることは責任重大だ! そんな事も解らねェクセに…! オレに説教垂れんじゃねぇッ!!」


最後は、確実な批判が籠もっていた。


トシ「!…」


その言葉に、トシは言葉が出なかった。


黒い男「オレは、選択してる…! 都合良くも解釈しない…! その決意はしてる…! 半年前に、大罪を狩った()()()からな…!」


言われた通りだった。


結局半年前も今も、何も関われず、蚊帳の外で物事が進み、終わったときに出てきて講釈を垂れているだけ…


その事実にトシ自身の()()()が打ちのめされ、揺らぎ、罪悪感から()()()眼を背ける。


黒い男「!…」


その様に、怒りが溢れ、侮蔑(ぶべつ)の眼差しを向けてしまう。


黒い男「そんなんで人が救えるか…!」


(きびす)を返し、二人の元から去ろうと歩み出す。


スズ「ごめんなさい…っ!」


精一杯のそのスズの叫びは漸く絞り出した言葉だった。


黒い男「…今更謝ったって…あの時の事実(半年前)は変わらない…!」


そう振り返らずに冷たく突き放され、スズは言葉を失う。


黒い男「…お前等は…ずっと同じ事の繰り返し…! 何も変わってない…! お前等は邪魔だ…! もうスッこんでろ!」


吐き捨てる様に述べ、夜の闇に消えていった。


残った二人と大百足の破片を、月明かりが照らしていた―

3月1日―

唯一人生還した虚川真美は、朝礼に参加していた―

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