002 傭兵『ムメイ』
長続きさせたいです
ノーフェイスとして、百人斬りならぬ百五十六人斬りを達成した次の日、俺はムメイとして現在の最前線の一つである『サンコウ』という、街中に至る所に木々が生い茂り、それを活用している街の広場にいた。
ちなみに『白黒』では、日本が舞台となっている。スタートは現実の『千葉県』に当たるところから始まる。
んで、ここは『山口県』に当たる。
今日は傭兵として雇われた。『白黒』では、県境に【エリアボスモンスター】、地方が変わる境目に通常の【エリアボスモンスター】ではなく、【レイドボスモンスター】が出現する。
今回、九州地方に差し掛かるということで、一戦力としてお呼ばれしたというわけだ。
レイドの上限は50人。パーティーの上限は5人なので、最高で6チーム参加することができる。
俺は臨時パーティーに入ることになっている。臨時パーティーは、普段ソロの人たちで組まれたパーティーで、チームワークなど皆無の人たちである。
俺と違う点は、みんなが自主的に参加しているところだろうか。
「今回、総勢50人によるレイドボス【クラーケン】討伐のリーダーを務めさせてもらう、『錦の御旗』のギルドマスターのホウライです。今まで集めた【クラーケン】のパターンを配るので、頭に入れてください。それでは5分後に出発したいと思います」
普通、このような【エリアボス】又は【レイドボス】討伐は各ギルドがこぞって競争するように挑む。
なのに今回は、掲示板を使って募集、各ギルドの精鋭が集まってのレイド戦。これは何かあるな……
配られた紙に書いてある攻撃パターンを頭に入れ、装備の最終確認をする。
今回使う武器は『血桜』という刀で、その特徴は相手の血又は体液を吸収して耐久値を回復するというもの。初見の相手や、硬い相手などにはこれを使う。
短い脇差の方は、いつも使用しているのと同じ『開闢』というものだ。
他にも、大きな体を持つ相手用の太刀や、威力が高い刀などあるが、初見などで慎重にいきたい。
「ムメイさん、今日はよろしくお願いしますね」
後ろを振り返ると、先ほど演説をしていたホウライがいた。
「勿論貰った分だけは働きますよ、それにしてもホウライさんが俺を雇うのは初めてじゃないですか?いつも『錦の御旗』でクリアしちゃうじゃないですか」
「はははっ、やっぱりムメイさんは気づいちゃいますか。どうです?ギルドに入りません?貴方のためなら副ギルの席でも用意しますよ?」
「またまた冗談を……こんな多くのギルドの複合レイドなんてイベント以来……いや、初めてじゃないですか?」
「うーん……冗談じゃないんですが、まぁこの話の続きはまた今度にでもして、そうですねぇ……ここだけの話、一つのギルドだと損害が大きすぎるんですよね。なので、他のギルドに声を掛けて今回は協力という形になりました」
ということは、何かしらの状態異常もしくは大規模攻撃などによりポーションなどがメチャクチャ使われるってことか?
だとしたら、それを予告しないと意味が無いよな……一応始まる前も終わった後も、気を抜かないようにしとくか。
「なるほど……っと、そろそろ時間か。ホウライさん行きますか」
「ええ、そうですね。じゃあ出発しよう!」
ホウライさんを中心に『錦の御旗』を先頭に、南方面を進む有名ギルドが数多く続いていく。
俺は真ん中のちょっと後ろという、安全面では最高の場所に配置された。ここにはヒーラーが多くいるのでその護衛だそうだ。
今回前金で貰った報酬は、驚愕の2億C。成功報酬も2億Cなので、今回だけで4億Cという大仕事だ。
ここまで時給のいい依頼はなかなか無い。なんでも、各ギルドが割り勘で出しているらしい。
まあ、俺の情報は高いからそれも含まれてるのだろう。
『白黒』には【職業】が存在し、最高で3つのジョブに就くことが出来る。
『無敗』のムメイは【剣士】の【最上位職業】である、【剣聖】である事は分かっているが、残り2つは分かっていない。『無敗』に勝って名声を得ようとするものは数多くいるので、ムメイの情報というのは高く売買される。
ムメイの凄いところは、一対一では負けたことが無い『無敗』という異名を1つのジョブだけで、さらに言うと【最上位職業】を使い、得たことである。
ジョブは、【下位職業】、【上位職業】、【最上位職業】、【特殊職業】と分けられている。
【特殊職業】が【最上位職業】より完全に優っているかというと、そうではないが、【最上位職業】より下回る事はほぼ無い。
【特殊職業】というのは、一人のプレイヤーが1つしか就けない職業であり、ムメイ程強いプレイヤーであると【特殊職業】に就けていておかしく無い。
なので、他のプレイヤーはムメイは【特殊職業】に就いているのに関わらず、それを使わなくとも勝っていると推測している。
それは事実である事に違いないが、正確には使いたくても使えない。使うとノーフェイスであることがバレる可能性があるという事だが。
当然、戦いは3つのジョブの全てを使い戦うのが定石とされている。……誰もが奥の手は隠し持っているが。
道中のモンスターは他のプレイヤー、遠距離手段を持ったプレイヤーが攻撃し、近距離でトドメを刺す。
そのようなスタイルで進んでいる。お陰でムメイには全く仕事が無く、ただ単に歩いているだけである。
そうして15分程進むと、隊列が止まった。
「これより先はボスエリアだ!ここで最後の休憩を5分ほど取り、ボスに挑む。長丁場になると思うから心してくれ!」
近くの石に腰掛けると、女子プレイヤーと少数の男子プレイヤーがこちらに来た。
「あ、あの!ムメイさん、一緒に写真撮って貰っていいですかっ!?」
『無敗』だなんだと言われ始めてから、こういうのが増えた。前から少しはあったものの、急激に増えた。
『白黒』ではキャラメイクは髪色、眼色、肌色しか変えることができないため、身長や顔などはそのままだ。
俺は容姿は両親のおかげで、整っている方だと思うがゲームの中だと装備などと相まって、よりカッコイイ……らしい。(友人談)
「ああ、いいよ」
苦笑いにならないように気をつけながらそう言うと、女子達はキャーッといいながら、一人ずつ写真を撮っていった。……後何人いんだこれ……
「あ、あの!どうしたらムメイさん見たいに強くなれますかっ!?」
これは男子プレイヤーからの質問だ。こうやって聞かれたところで、所詮は個人差があるし、スキルやジョブなど選択肢は幅広いため、時間を掛けて見極めなければ分からない。
なので……
「とりあえず、ゲームを好きになることかな。楽しまないと長続きしないし、意欲も湧かないしね」
と言って、やり過ごすのがいつもだ。ってか、ボス戦前にリラックスしすぎじゃね?
「さて、そろそろ時間だから行こうか」
こうして傭兵としてのファンサービスを終え、本当の傭兵の仕事に向かうのであった。
……決して、写真撮るのが面倒になったわけじゃないからね?本当だからね?
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