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No.1 1億円を取るか美女を取るか

主人公の双子の御父様と御母様の馴れ初めです。

1話目ですが飛ばして頂いて構いません。


※出てくる人物が一部異常に短気ですがカルシウムが足りてないだめです。

 古来より日本に伝わりし最強の武術あり


 それ一子相伝にて受け継がれしものなり


 その武術、名は………





「…神流流かんなりゅう剛笑拳ごうしょうけん


 広い道場で独り佇んでいる神流聖人きよとは口ずさんだ。

 彼こそ「剛笑拳」の正統伝承者なのだ。最強と歌われる剛笑拳ではあるが、残念なことに現在歌っているのは道場に飾られる掛け軸だけである。各言うこの聖人本人も歌っていない。


「俺は朝から何をやってるんだ?」

 日課の朝稽古を始めつつ、日課の自問自答を始める。



 聖人は神流家四兄弟の末っ子として生まれた。

 四兄弟は皆同じ様に生まれた瞬間から修行が始まる。勿論赤ん坊は殴り会う処か立ち上がれもしない。なので幼児期はプロが丁寧に武術のなん足るかを語る。5歳になり洗脳、もとい幼児期の修行が終わると過酷なトレーニングが始まるのだ。学校、御飯中以外は全てが修行中だ。深夜に叩き起こされることもある。そして中学生になると洗脳も解け始め、一般的思考を持ち出し、家など継ぎたくないと思う様になる。

 これが四兄弟が歩んで来た道なのだ。


 先代伝承者の父は長男に言った。

「そんなに継ぎたくないなら次男に継がせる!」

 長男は中学卒業と共にアメリカへ渡った。


 先代伝承者は次男に言った。

「そんなに継ぎたくないなら三男に継がせる!!」

 次男は漁師になると家を出た。


 先代は三男に言った。

「貴様も継ぎたくないと言うのか!この親不孝者が、出ていけ!」

 三男は行方知れずとなった。


 聖人は父に言った。

「剛笑拳なんて、恥ずかしくて継ぎたくない」

「もう一度言ってみろやっ!」

「ぎゃああああ」



 そして彼は新たな伝承者となり、今に至る。

 勿論抗った。が、何をしても先代に物理的に止められ、昨年二十歳になると同時に諦めた。

 因みに無職だ。伝承者は働かずに日々鍛練しなければならない。弟子でも取って月謝をもらえばいい話かもしれないが、仮にも一子相伝のためそう言う訳にも行かない。何故に嫌々なった割りに教えを守るのか。生まれてから中学生になるまでの多感な時期に、剛笑拳の素晴らしさを宛ら宗教の如く教え込まれた成果である。

 先代は某有名企業の社長令嬢を妻に貰い、ヒモ生活だ。鍛練を理由にヒモとなるのが初代からの教えである。最も、初代はそれが武術を極めるためにだったらしいが、その武術に対する志は受け継がれず、働かない仕来たりだけが残ってしまっていた。



「さてと、飯でも作るかな」

 自問自答も朝稽古も終えた聖人はボソッと洩らした。

 先代は夫婦で世界旅行へ行った。勿論奥さんの金で。

 そして聖人は、この無駄に広い道場と無駄に広い庭のある無駄に広い一軒家に取り残されたのだ。先代のお陰で変人扱いを受け友達もいない。つまり、ぼっち。



「今日は洋風でパンにハムエッグとサラダ♪」

 鼻歌混じりにサラダに仕上げの自家製ドレッシングをトッピングする。

 朝食を作った彼は20人は充分に入れる広さの和室に配膳していく。徐にテレビを点け、腰を下ろした。

 彼には悩みがある。

「いただきます!やっべ、今日も旨い。もしかして才能ある?俺って料理人なれたりして…なんてな……うん…だったらいいね…」

 ぼっち生活一年、日々独り言が増えている事。流石に本人も危ない人に成りかけの自覚はあるが、友達所か家族(全員音信不通)もいない彼にはどうも出来なかった。



  * * * * *




 食べ終え、洗い物を済ませた彼は新聞とある紙切れを持って和室に戻って来た。その紙切れは宝くじだ。親が最後に貰った数百万円もそこを尽きかけこれからどうしようかと考えているのだ。初代からの教えでヒモになる運命の彼は妻を捕まえなければならないのだが、出合いがなかった。最早スーパーの店員とぐらいしか話す事がなかった。

 勿論当たるとは思っていない。藁にもすがるしかないのだ。


 新聞を広げ数字を確認していく。

「………………………」

 聖人は新聞を閉じると大きく深呼吸をした。



 又同じ作業をする。

「…………………」

 そして沈黙を破った言葉は

「……当たった………1億…当たっちゃった……」


 次の瞬間

「よっしゃあああ!!!」

 彼は立ち上がり思いをぶちまけた。

「ざまぁ見やがれ!何が働かずヒモ生活だ!?ヒモなんぞなるか!どうだ、俺は当てたぞ。大体何なんだよ、毎回スーパーで顔会わす店員はよっ!昼間っからセール品をじっくり見てるだけだろ!?『ニートですか、頑張って』みたいな生暖かい目で見るな!!俺は勝ち組だ!この金を元でに競馬でも何でも一山当ててやるぞっ!」

 そこで一旦彼はもう一度深呼吸をし息を整えた。

「……危ない危ない、俺は何を言ってるんだ」

 自分に落ち着けとぶつぶつ言いながらコーヒーを注ぎに部屋を後にした。宝くじをその場に残したまま。

 その事を生涯悔やみ続けるとも知らずに。



 ここは料亭の厨房ですかと思う広さのキッチンで聖人はコーヒーのドリップに勤しんでいた。インスタントは嫌いなのだ。

 自分に料理の才能があると自画自賛しているが、強ち嘘でもなかった。彼の家事スキルは、事に料理に関しては常人のそれを上回っていた。


「よし、いい香り♪」

 出来立てのコーヒーに口を付けようとした時の事だ。和室から何かが崩れ落ちる音がした。

 普段なら泥棒か?と思うかもしれない。しかし、今日の聖人に音の正体等どうでもよかった。

 気が付くと駆け出していた。


「俺の1億ぅうううう!!」


 今日ほど無駄に広い家を呪った事はない。

 そして、たどり着いた部屋には……変なのがいた。

 呼びようがないのだ。伸長140ぐらいの肌は緑で耳や顔の形が異常な事になってる生物が3匹いる。それが広いテーブルの上に転がっていた。

 金に目が繰らんでいた聖人はこの奇妙な生物を前にして言葉を失った。


「#*※##◎※」

 1匹が起き上がり意味不明な言葉を発しながら他の二人を起こした。

「##◎×※×%!」

「*×※%×$¥#※!」

「$×%%*#!」

 立ち上がった3匹は今度は聖人に何かを叫んでくる。何を伝えたいのか全く分からない。











 しかし、それは問題ではないのだ。

 神流聖人は間違いなく金に目が繰らんでいた。奇妙な生物などどうでもよかった。何故言葉を失ってしまったのか。3匹に踏まれ、ボロボロ所か散り散りに割けてしまった宝くじが目に入ったからだ。


 聖人はおとなしいと言うわけではないが、ぼっちなだけで性格は荒くない。ましてや見ず知らず人(一応人型の生物である)に手を挙げる事などない。

 もう一度確認する。彼は金に目が繰らんでいた。



「どちくしょおおお!貴様ら許さねぇ!!」


 雄叫びと共に3匹との距離を詰める。

「%*#??!」

 敵意に気が付いたのか直ぐ様緑の来訪者達は聖人を囲おうと左右の2匹が散開した。


 しかし聖人は御構い無く真ん中に残った者にヤンキーキックを喰らわせ吹っ飛ばす。


 そこへ左右から殴り込みが掛かる。が、上半身を反らすと言う最小限の動きでそれを回避する。その体勢から右側の来訪者の腕を捕まえ、上半身を回転させ背負い投げの要領でもう1匹も巻き添えに叩き付けた。

 間髪入れずに追い討ちとばかりに…



 実はこの緑の者達は異世界から飛ばされてきたゴブリンと言う魔物だった。小柄ではあるが、その戦闘力は人間より高い。その異世界では勇者や魔法使い等一部の特異な者でしか倒せない存在だった。


 にもかかわらず、ゴブリン3匹は悶絶して踞っている。

 聖人は又もや御構い無しにゴブリン達に近づいては、鈍い音が部屋中に響かせていく。


 剛笑拳の真髄は正々堂々と正面から戦うのではなく、相手から戦闘力を剥ぐ事にある。特に敵の関節を瞬間的に外すに懸けては並ぶモノはないであろう。

 まず最初のゴブリンは只蹴ったのではなく、接触の際体の中心部を狙う事で全身の骨々にズレを生じさせた。この壺を「心の壺」と呼んでいる。これで数秒ではあるが動き始めを遅れさせることができる。その間2匹を叩き付け、直ぐ様関節と言う関節を外す、もしくは破壊し戦闘力を削ぐ。改めて最初に蹴ったゴブリンも足腰立たなくしていく。


「金返せえっ!!」


 普通に殴りあったら聖人は1匹にも勝てなかったはずである。だが、強い弱い以前に戦闘能力を奪う剛笑拳はやはりある意味最強なのである。

 しかし、強者に対しては初見に限っての事である。このゴブリン戦がそれだ。


「おらぁ!」


 威勢の良い掛け声と共に外れた関節をゴリゴリと擦り合わせる。

「!!!!??」

 声にならない悲鳴をあげるゴブリン達。腕や足は伸びきっていて曲がらない方向に曲がっていたりする。

 ここまですると、武術と言うより拷問である。


「お前達も金が無いかもしれない。でも盗みや暴力では何も解決しないんだよぉ!」


 説得力ゼロであるが本人は全く気にしていない。



 その拷問、もとい調教、もとい御説教は永遠に続くかと思われた。


 ふと、聖人は手を止めた。天井から火花が散る様な音がするのだ。


「何だこりゃ?」


 見上げるとそこには大きな穴が空いていた。中は真っ暗で先があるかさえも分からない。何も無い穴の先に、一瞬小さな輝きが見えた。目を凝らすとそれは少しずつ大きく近づいて来る。


 そして、あっと思った時にはそれが、彼女が落ちて来た。



 鎧にみを包み、西洋人でも東洋人でもない整った顔立ちの白い肌を持つ、腰まである金色の髪した美少女だ。

 そんでもって、彼女の下敷きになり止めを刺される1匹のゴブリンとその風圧飛ばされていく宝くじの破片達。



 今度こそ聖人は言葉を失い立ち竦んだ。



「………綺麗だ」




ありがとうございます



次は直ぐに投稿します


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