円
いつまでもへたれこんでてはいけないと思った。だから再び立ち上がり、適当な方向に向かって歩きはじめた。
いつの間にか砂漠に出ていたので、適当に歩いていたら、また別の場所に出ないかと思ったから。
不意に空気が歪んだ。異様な空気を感じて上を見上げれば、フラフープのような環が私めがけて降ってきた。
歪んだ空気が生んだいくつもの環は、重なり合いそのまま私を内部に取り込んで檻になった。
丸い檻の鉄格子となったそれを掴んでゆすぶったがびくともしない。
大きく息をはいたはずなのに私はごぼごぼと気泡を吐いた。
いつの間に水没した? それにここ、どこ?
そう思った時には私は自ら掬いあげられていた。
さっきまでの砂漠はきれいに消えて。檻の鉄格子越しにはベージュとピンクのもので視界が覆われていた。
いや、細長いそれ越しに、また別の景色が見える。
黒くて平たいもの?
そして視線を巡らせて、私は信じられないものを見た。
かつて見た、天井いっぱいの顔。
あのときと同じように私の頭上にそびえたつその顔。
玉響媛が私を見下ろしていた。
そしてよくよく見れば、ベージュとピンクは玉響媛の指だ。檻は、玉響媛の手の中に小さな毬のように納まっている。
玉響媛は静かに私を見下ろしていた。
玉響媛のもう一方の手が、ガラスの箱を持ち上げていた。
ガラスの中に私を閉じ込めた檻を下ろすと、シャラシャラと音を立てて、檻が解けていく。
先ほどまではあれほど頑丈だったはずの檻は、細かな水滴になって散っていった。
あまりのことに茫然としていたが、あわてて我に返る。
今、ここに玉響媛がいる。一番大事なのはそこだ。
私を見下ろすその顔に視線を合わせる。
というか、なぜこんなに巨大化しているんだろう。
麻巳子さんの話によれば、少なくとも身長体重は普通の女の子だったはずだ。
珠魂とどっちが大きいだろうかとしばらく考えていた。
「どうして一人でいたんだ」
鈴を鳴らすような声が聞こえてきた。
珠魂のように重低音ではない。ということは、もしかして私が縮んでいるってこと?
無言で玉響媛を見ていると、いきなり箱を揺らされた。
思わずたたらを踏む。
「答えなさい」
うかつに無視もできそうにない。
「一人のほうが、身軽だと思って」
ある意味、本音だけれど、さらに怪訝そうな顔になる。
言ってしまったほうがいいだろうか、月無のことを。
「月無が言った」
一度口に出してしまえば、あとは一気呵成だった。
「月無は、お前がもともと私の先祖だと言った。そして子孫の血脈に取りついて、行き帰ったと」
なんとなく困ったような顔をしている。
困惑そのものというような。
「それで、月無というのは何」
やっぱり、月無が玉響媛を一方的に知っているだけだったようだ。




