円
しばらくすると、私の身体は、普通サイズに戻っていた。
どうやら私を連れ込むために、サイズを縮めたらしい。
さっき見えた黒いものはどうやら机だったらしい。
柱や小物家具がすべて黒で統一され、それ以外は白。
鯨幕のような部屋だ。
部屋の広さは八畳間ほど。ここに私一人を残し、玉響媛はさっさと出て行ってしまった。
ぶん殴ると意気込んでいた私の気持ちはあっという間にしぼんでしまった。
覚えてないって何よ。
つまり、玉響媛。最初の玉響媛の記憶は、数百年のうちにすっかり摩耗し、これっぽっちも覚えていないという。
そして一番はっきりしている記憶は、不破優花として生きていたころのことだけ。
なんでそんなことをしたのか、一番自分が知りたいと言われて、私としても相手を責めることはできなかった。
覚えてなかったとすれば、いきなり妖怪や魔物に身体が変化した時パニクったのはあちらも同様だろう。
いやたった一人でそうなったとすれば、余計怖かっただろう。
最初の玉響媛もそう言う事態を想定していたのだろうか。
ふいに玉響媛が帰ってきた。壁から突き抜ける形で。
「驚かせたか?」
そう言って小首をかしげる。
普通、壁を突き抜けたら、驚くに決まってるでしょう。十数年は人として生きてきたんだろうに。そう言おうと思ったが、つぶらな瞳で見返されて、思わずおののく。
最初に生まれた数百年はスルーするとしても、アラサーなのに、どうしてこういうあどけない少女めいた仕草をするのだか。
見た目も年上には到底見えない。
「ああ、年は、こちらに来てから取ってないみたいだ」
私の視線の意味を悟ったのか、滑らかな自分の頬を撫でながらそう答えた。
年を取らない、つまりずっと二十歳。
魅力的な話かもしれない。
「あの、話を聞く気はある?」
怪訝そうな顔をして玉響媛が尋ねた。
「月無という名前に、心当たりのある手下はいたんだけどね、どういうことでそっちに関わったかいまだに謎だ」
そう言って玉響媛は腕を組む。
「事前に調べた中にはいない。
「とりあえず、お前の従兄妹達を連れ去った連中は後だ。私は別件でちょっかいをかけた輩を潰しに行くお前はここから出るな」
それだけを言って、玉響媛は再び姿を消した。
潰すね。
清純無垢な少女の顔をしていたけれど目が笑っていなかった。
なんだかわかりやすい世界な気がする。
注 鯨幕葬式の時に欠ける黒白の幕。




