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「なぁ、クリュー、ちょっといいか? お前さんに頼みがある」
そんなある日、訓練が終わった帰り際に、僕はガヴェーに呼び止められた。
僕はその言葉に、やはり来たかと思いつつも、頷き足を止める。
何かの頼み事、仕事の依頼をされるであろう事は、ここに来た時から予想はしていた。
ガヴェーがこの館に招いてくれたのは、好意が半分、ゲアルドの話を聞きたかったのが半分といったところだろう。
けれどもそれだけでただ飯を食わせ続けるには、僕らは……、というよりも、ダラッドは些か以上に食う量が多い。
何しろ、彼と同じく大柄なリャーグの戦士達が目を丸くして驚くくらいに、ダラッドは大飯喰らいなのだ。
「もちろん。世話になってるしね。何でもとはいかないが、できる事なら引き受けさせて貰うよ」
寧ろ仕事の一つや二つ頼んでくれなければ、ここに居辛くなってくる。
ダラッドがトロルドの戦士達から戦い方を学び終えるまで、もう暫くはここに居なきゃならないから。
「助かる。頼みというのは、まぁ、なんだ。ここ暫く、俺達があまり北西部の国々に戦いを仕掛けてないって話は、恐らく聞いてるだろう?」
ガヴェーがそう切り出した話に、僕はもう一度頷く。
すると彼はやはりかといわんばかりの顔で、一つ溜息を吐き、
「そう、旅人のお前さんの耳に入るくらいに、リャーグが大人しいって噂が広まってる。これはつまりリャーグが舐められてるって事で、放置できる話じゃない」
それから声に僅かな怒りを滲ませた。
ガヴェーの怒りは僕に向けられたものじゃないけれど、僕の心を臨戦態勢に切り替えさせるには十分で、それが彼にも伝わったのだろうか、
「あぁ、いや、クリューをどうこうするって話じゃねぇ。いや……、でも無関係ではないか。今、余所者が闘技会に参加して優勝が狙えそうだとなると、周りが躍起になって潰そうとしてくる可能性がある。俺達の客人であってもな」
彼は一旦首を横に振って見せた怒りは僕に対してのものじゃないと弁明するが、けれども話自体は僕にも無関係じゃないという。
まぁ、確かに、リャーグが大人しいという話が広まっている、要するにリャーグの威信が低下してる中で、余所者が闘技会に参加してくれば、それはリャーグを舐めての参加だと思われても仕方ない。
僕とダラッドはガヴェーにトロルドの戦士の館に招かれ、彼らの客人となったけれど、それでも他の多くのリャーグ人にとっては、単なる余所者でしかないのだから。
それにリャーグの威信が低下してるという話は、北西部にとってもあまりいい事ではなかった。
というのも北西部は、リャーグという脅威があるからこそある程度の秩序が保たれてる。
例えばリャーグへと続く大きな街道が通る国に対しては、戦で物流が止まらぬようにとの配慮がされていたという。
またリャーグと距離が近い国々では、互いの争いは滅多になく、リャーグからの防衛には積極的に協力し合う。
これはリャーグを脅威に思うからこその配慮、協力が生む秩序であり、北西部の国々がリャーグを脅威に思わなくなればあっという間に崩れてしまうものだ。
実際、少し前にリャーグへの街道を有する小国、カシューシアが隣国のマモラスに攻め込まれ、物流が止まってた。
マモラスとしてはできる限り素早くカシューシアを制圧し、物流を再開する心算ではあるのだろうけれど、それでもその行動は、今のリャーグなら少しの間なら物流が止まっても侮らないだろうとの判断、つまりは侮りがあった筈。
「だからここらで、俺達はどこかの国を一発か二発くらいは殴らなきゃならない。特に街道から来る荷を止める戦をした、マモラスかカシューシアか、バーバラントかルパンダを」
でもそのマモラスの判断は甘かったと言わざるを得ない。
だって、こうしてしっかりとリャーグ人のガヴェーは、荷が止まった事に怒っているのだから。
リャーグが、先の大戦で大きな被害を受け、弱っているのは確かだろう。
それに加えて盟主の座を巡る争いに戦力を温存したいから、動きを控えていた。
これらは紛れもない事実ではあるが、だからこそリャーグは、それによって生まれた侮りを払拭しようと、過激に動こうとしている。
「この役割を、盟主の座を巡る争いに加わらないトロルドが中心となって担う事になった。これにクリューも協力して欲しい」
名前の挙がった国々は、北西部の国々でも南東の方だから、そこにリャーグの戦士が襲撃を仕掛けてきたとなると、与える衝撃は大きい筈だ。
けれどもその分、移動は大変になるだろう。
ある程度は川を使って船で移動をするにしても、所詮は川じゃあまり大きな船団は組めないし、連れていける人数も限られる。
そうなると移動距離を少しでも少なくする為に、狙うはマモラスかバーバラント王国がいい。
リャーグへの物流が止まった元凶はマモラスなのだから、ガヴェーに攻め込む相手を選ぶ権限があるのなら、マモラスを狙うように進言してみようか。
僕の心情的にも、ルパンダを狙うというのはあまり気が進まないし。
「トロルドが中心になるといっても、他の島の戦士達も参加はするから、ここで活躍すれば俺達だけじゃなく、他の島の戦士から話を聞いた多くのリャーグ人が、クリュー達を仲間だと認める事になる」
なるほど。
別にそれでリャーグの闘技会でメダルを譲って貰えるって訳じゃないだろうが、少なくとも無駄に敵視される事はなくなる訳か。
幾らリャーグの戦士が精強とはいえ、遠く離れた場所への遠征では何が起こるかわからない。
僕はルパンダ、カシューシア、バーバラント王国を通ってリャーグに来たし、ダラッドはそもそもバーバラント王国の出身だ。
地理をわかっている者の協力は、大きな意味を持つんだろう。
「わかった。さっきも言ったけれど、協力するよ。世話にもなってるしね」
簡単な仕事ではなさそうだが、僕はもう一度頷き、ガヴェーの申し出を引き受けた。




