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トロルドは、リャーグでも1、2は争わないけれど、3、4を争うくらいに大きな島らしい。
以前にも少し触れたが、リャーグの国土はその殆どが北西の海に浮かぶ島々で、大きな島は北西部の小国よりも面積が広い。
島の面積が広いという事は、人口が多い訳で、そうなると有する戦力も増えるから、トロルドはリャーグでも非常に有力な氏族だ。
ドレアム王国でいうなら、侯爵領か辺境伯領ってところだろうか。
なんでもリャーグの王、より正確には島々を統べる盟主は、五番目までの大きな島から選出される事が殆どなんだとか。
つまりトロルドも、幾度となくリャーグを統べる盟主を輩出してきた島って事だ。
そんな有力なトロルドの氏族で、それもベテランの戦士であるガヴェーと親し気に話し出した僕には、もう他のリャーグの戦士が絡んでくるような事はなかった。
まぁ、そりゃあそうだ。
わざわざトロルドの戦士の不興を買ってまで、僕に絡む意味はない。
お陰で僕は安心して、ダラッドの戦いを見守れる。
ダラッドは、当然だけれど苦戦していた。
何しろ今まで通用した戦い方が、あまり通用しないのだ。
いや、正確には通用しているから戦いの形になっているんだけれど、それを理解するにはまだ彼には経験が足りない。
これまで多くの相手を上から蹂躙してきたダラッドは、自分の攻撃を相手が受け止められるって事自体に、どうしても戸惑いを覚えている様子。
実際、彼がこれまでに負けた相手は、主に僕と、それからダストリアのジャルモスになるけれど、どちらも力に力で対抗するってタイプじゃなかった。
故にダラッドは、技でやり込められた経験はあっても、自分の力に相手が食らい付いてくるという事に、あまりにも慣れていなさすぎる。
ただ、相手のリャーグの戦士も、流石にダラッドの体格と膂力は脅威らしく、攻撃を受け止めた後、ダラッドへの反撃がすぐにはできないでいた。
ダラッドも、相手も、お互いに苦戦してる。
要するに泥仕合だ。
それに気付けば、ダラッドが攻撃を畳みかけて勝利を掴めるんだけれど、……まぁ、今は無理か。
こうなると装備が大盾というのも良くない。
ダラッドは攻撃を受け止めた後に力で相手を叩き潰すという、待ちの戦い方しか知らなかった。
格下に対しては圧倒的に強い戦い方だが、……今のように拮抗した相手、或いは各上に対しては勝機を拾う貪欲さに欠けるだろう。
自分から攻撃できない訳じゃないんだけれど、強敵を相手に安易に攻撃をしてしまうと、そこから崩される事を、ダラッドは僕との訓練で学んでしまってる。
ダラッドを正面から打ち崩すとなると、僕もちょっと大変だからって、カウンターを多用し過ぎたか。
いや、まぁ、彼が戦い方を学び始めてからの時間を考えると、慎重に守りを固める事は間違いなく正解の一つで、その戦い方を確立するだけで精一杯だったのだけれども。
ここでの苦戦は、そろそろ次の段階に進む、いい機会になるかもしれない。
大盾意外にもう一つ、両手持ちの大斧辺りを持たせれば、防御か、攻撃か、状況に応じて武器を持ち替え、戦い方もガラリと入れ替える事ができる。
或いは盾をもう少し小さなものに変えて片手持ちにし、空いた手に斧を握るという、バランスのいい戦い方に変えてもいい。
今のダラッドの対戦相手は両手持ちの斧を振ってるが、見回せば盾と斧の組み合わせや、手斧の二本持ちをしてる者も少なからずいるから、真似る見本は色々とあった。
僕だと、ダラッドとは身体の大きさが違い過ぎるから、どうしても戦い方の見本としては適さないし。
そんな風に考えていると、やがて相手を押し潰せない焦りから守りの崩れたダラッドが、一気に攻め込まれて敗れる。
タフな彼はそれでもめげずに二人目、三人目と挑むが、先程の戦いで疲労し、また周囲のリャーグの戦士に戦い方、ついでに言えば欠点も割れたダラッドは、連続して負けてしまった。
そろそろ潮時か。
課題は見えたし、それをダラッドも意識しただろう。
勝ちは掴めなかったが、今日来た意味は十分にあった。
後はどう僕が彼を導くかだ。
一勝、もぎ取らせるだけなら手段は幾らでもある。
しかし折角ぶつかった壁を、そう簡単に超えさせてしまうのは勿体ない。
この機会で、ダラッドをできる限り伸ばすにはどうするか。
少し考えこんでると、
「なぁ、クリューさんよ。お前さん達、暫くベアドにいるなら、その間は俺達の、トロルドの戦士の館に滞在しないか?」
隣に立ってたガヴェーがそんな事を言い出した。
僕と、ダラッドが、トロルドの戦士の館に?
トロルドの戦士の館とは、彼らがこのベアドで滞在する時の拠点だろう。
先程も聞いたように、トロルドの島はリャーグで大きな力を持ってる。
であるなら、このベアドに構えた拠点も立派に違いないけれど……、一体、何故?
「お前さんに出会って歓待しなかったとなると、俺がゲアルド様にぶっ殺されちまう気がしてならねぇ。なぁ、頼むぜ。なんなら、あのでっかいのも、俺達の稽古に混ぜてやるからさ」
僕が思わず首を傾げると、ガヴェーは笑いながら、ゲアルドが怖いからだとそう言った。
冗談めかして、でも少しだけ、本気の声色で。
いやいや、たかが僕を放置したくらいで、まさかそんな乱暴な事は、……ゲアルドならするかもしれない。
ぶっ殺されるは大袈裟にしても、一発殴るくらいはしそうである。
そしてゲアルドに殴られればただじゃ済まないだろうってのは、うん、頷ける。
まぁ、これは悪い話じゃなかった。
宿代が浮くって事以外にも、色々とメリットがある。
例えばダラッドを稽古に混ぜてくれるってのもそうだ。
恐らくガヴェーは、僕がダラッドをどうやって鍛えるかを考えているのを見抜いた上で、自分達の戦い方の一端を伝えてくれると、好意で、それからゲアルドへの畏れで、申し出てくれているのだろう。
またこの先、僕とダラッドがリャーグで何をするにしても、何の伝手もないままに動くのは効率が悪い。
だがトロルドの戦士達という伝手があれば、訓練をするにしろ、仕事をするにしろ、闘技会に出るにしろ、効率よく動けるようになる。
もちろん、その対価として、何らかの用事を頼まれる事はあるかもしれないが、それを考えてもメリットの方がずっと大きい筈だ。
あと、これは仮の話になるけれど、もしもゲアルドがこの場にいたら、確かに僕をトロルドの戦士の館に誘っただろうし。
「わかったよ。ガヴェー、よろしく頼む。ただ、ダラッドは物凄く大食いだから、食べ物はたっぷりでお願いするよ」
僕が申し出を受ければ、ガヴェーは安堵したように頷いた。




