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僕は乱に身を立てる  作者: らる鳥
三章 北西部の雄

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 商人から集めた村の若者達の教導を頼まれて、僕が最初にしたのはその全員を叩きのめす事だった。

 村から出てきたばかりで大して物を知らぬ若者達が、僕を侮ったのだから仕方ない。

 巨体のダラッドはともかく、僕はそんなに大きい訳じゃないし、歳も殆ど変わらないか、場合によっては僕より年上だろうから。

 彼らが戦士としての実力を測れる筈もないので、そうした態度も無理のない話である。

 故に彼らに従順であって貰う為に、痛みと恐れを最初に刻み込んだのだ。


 ただ流石は北西部というべきか、こんな商人の私兵集めにも、戦争を経験した者がチラホラ混ざってた。

 尤もそうした戦争の経験者も、自分は周囲とは違うんだって顔をされてても全体の纏まりに難が出るので、一緒くたにして叩きのめす。

 確かに戦争に参加した者と、そうでない者の間には大きな隔たりがあるが、僕にとっては誤差でしかないと示す為に。

 それに同じ痛みと恐れを味わった方が、他の者達との仲間意識も強くなる。


 彼らに施す訓練の時間は、残念ながらあまり長くとれない。

 隊商というものは、移動をして商売をすれば利が出るけれど、一カ所に留まればそれだけで損が増えてしまう。

 馬の維持費、隊商の人員の食費や宿代や、給料だって必要だし、馬車も置き場所を借りるならそこで費用が掛かる場合もある。


 既にこの隊商は、ダストリア国内でかなり足止めを喰らってた。

 僕は商人ではなく、護衛と、他の護衛の教導として雇われたのだが、それでもある程度は隊商の利益を考えなきゃならない。

 だから商人と話し合いの結果、まずは三日間だけ、留まって本当に最低限の訓練を施して纏まって歩けるようにして、そこから先は隊商として移動をしながら、合間合間に訓練をしていく方向で纏まる。

 そりゃあ僕だって、やる以上はじっくりと腰を据えて、それこそダラッドに施したのと同じくらいの時間は若者達にも訓練を受けさせたいが、……現実的にはそうもいかないから。

 彼らを隊商の護衛として、少しでも質を上げるにはどうすればいいのか、これから暫く僕の頭はそれで一杯になるだろう。



 三日間の訓練で、とにかくバラバラになってダラダラ歩かず、周りを警戒して、何かを見つけたら報告して、いざという時には武器を構えるという最低限を教え込み、そして馬車はダストリアを出発する。

 僕からすると、それらは本当なら最初からできて当たり前の事ばかりだ。

 だけどそれは、……少し傲慢な言い方になるが、僕が様々な教育を当たり前のように受けてきたからそう思うだけで、人は教えられなきゃわからないし考えられないし応用も利かない。

 例えば、ずっと地面に座って手掴みで物を食べてきた人間は、突然生活の環境が変わっても、食卓に座って食事が供されるのを大人しく待てやしないだろう。


 それと同じように、これまでそうしてこなかった村の若者達は、隊列とまでは言わないにしても、纏まって同じ速度で歩く事すらできやしない。

 武器の構え方も知らないから、急に武器を振り回して隣の者を傷付けかねない。

 していい事、しなきゃいけない事、してはいけない事の区別も付かないのだ。


 戦争に参加した経験のある者は、既にここらの最低限は身に付いている。

 でも雇った若者達を、一つの護衛隊として育てるには、低きに合わせて教えるしかない。

 もちろん低き、といってもその資質は様々だ。

 すぐにこちらの言葉を理解して動ける者もいれば、これらを教え込んでも結局はこなせなかった者もいて、後者には残念ながら三日間の付き合いで、隊商の護衛からは抜けて貰う事になった。


 彼らにも何らかの才能はきっとあるんだろうけれど、それでも護衛や兵士には向いていない。

 新たな自分に合った道を見つける事は、何も知らぬ村の若者達には難しいのかもしれないけれど、隊商の護衛として雇い続ける訳にはいかないから。

 恨まれるかもしれないが、賊となった彼らと再会しないように願うばかりだ。

 尤も、護衛や兵士に向かないと僕が判断した彼らが、賊として大成する事もあり得ないだろうが。


 ……さて、護衛を揃える間に完全に雪も解けた街道を、隊商は進む。

 天気は良く、日差しは暖かく、ガラガラと車輪の回る音はどこかのんきで、風も柔らかくて心地よい。


「クリューさん、今日はいい日和ですね」

 隣を進む馬車の上から、僕に声を掛けてきたのは、この隊商の責任者である商人、コーディ……、ではなく、彼の娘であるシェーミだ。

 見習い商人として父に学ぶ最中の彼女は、この隊商では様々な雑用を担当していた。

 尤も雑用係と言ってもその扱いが悪い訳じゃなく、むしろ父であるコーディからはとても大切にされている。

 それは彼女の乗る馬車が、先頭でも最後尾でもなく、最も安全だと思われる真ん中である事からもわかるだろう。


「見晴らしが良いと、周囲の警戒し易いから助かります」

 単なる世間話として声を掛けてきたんだろうってくらいはわかってるけれど、相手が雇い主の娘という事もあって、僕は護衛の仕事に絡めた言葉を返す。

 シェーミは訓練で僕が叩きのめした若者達の手当等をしてくれていたから、多少は気心が知れていて、だからこうして話しかけてくれたんだろうとは思う。

 でも僕としては、まだ村から出てきたばかりの若者達を完全に掌握できてるとは言い難いから、あまり気を緩めた姿を彼らに見せたくはなかった。


 ……ただ、うん、わかってる。

 それは些か、気を張り過ぎだって事くらいは。

 この辺りは街道の周りも平野が続き、見晴らしが良いから賊に襲われる危険も少ない。

 もちろん絶対にそれがないなんて風には言えないけれど、まともな賊なら、もっと林沿いとか山沿いとか、隠れられる場所を選んで襲撃を仕掛けてくるだろう。


 隊商の目的地、リャーグまでは長旅だ。

 その道中、ずっと気を張りっぱなしでは絶対にもたない。

 だからこんな風に何もない場所では、ある程度は気を抜く、油断するのとはまた違って、必要以上に気を張らない事も大切だった。


「先は長いですから、気を張り詰め過ぎずに行きましょう。今回は不幸な出来事もあったけれど、クリューさんを紹介して貰えたから、きっといい商売ができるって、父も言ってました」

 もしかして、気を遣われてしまっただろうか。

 シェーミの言葉に、僕は気恥しくなってしまう。

 

 今回は、急に護衛の纏め役なんて立場になってしまったけれど、僕は実のところ、誰かの護衛をした経験なんて殆どない。

 いや、ワルダベルグ家では、若様の近習になれるように、いざという時にどう動くか、なんて事は教え込まれてる。

 ただそうした要人の近くに侍る護衛と、隊の全てが護衛対象である、隊商の護衛は、勝手が全く違うから。

 ……恐らく僕は、自分の経験不足を、気を張る事で補おうとしてしまっていたんだろう。


「そうですね。いい旅路にしましょう。リャーグはまだまだ遠いですからね」

 僕は意識をして唇を釣り上げて、笑みを作る。

 笑ってみれば、自然と肩の力は少し抜けた。


 遮るもののない平野を吹く春の風は、あぁ、確かに心地いい。



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― 新着の感想 ―
無能な味方はタチが悪いからなぁ…… しかも護衛が仕事だしね。
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