不穏
「今回のゲーム開発は順調じゃないっすか! 前回の失敗はなんだったんっすかね?」
首をかしげながら、すっとぼけたように聞いてくる星野。無自覚にやってそうなのが余計に腹が立つ。
「そりゃそうだ。曲だけどんどん持ってこられて、それに合わせたシナリオ書けなんてことないからなぁー」
「わるぅござんしたー。それにしてもこの就職活動が忙しい時期によくシナリオ完成させられましたねー。しかも、かなり力入ったシナリオ!」
「ま、まぁな…! 前回の失敗のリベンジもあって頑張ったんだよ…!」
君のような勘のいい後輩は嫌いだよ……。
………
……
…
今回ノベルゲームを作るにあたって最初に取り決めをした。
それはシナリオ優先で制作すること。
作曲家はシナリオライターの発注どおりの曲をつくり、原画家はシナリオライターの発注どおりのCGを描く。
一見当たり前のことだが、これを決めておかないと前回の二の舞だ。
努力の甲斐あって俺のシナリオはすでに完成している。だからあとは二人に発注した曲とCGの確認だけだ。
「高村さん、ここのCGなんですけど差分じゃなくて、新規でCG入れたほうが映えると思います!」
「小木曽の負担を考えて差分にしたんだけど、自分から仕事を増やしていくのか……」
「負担だなんて、全然! じゃあとりかかりますね~」
小木曽の働きは期待以上のものだった。
俺が発注したものに加えて、こうやって仕事をもってくる。
慣れない一人暮らしや、大学生活で大変だろうにどこからそんな時間がわいてくるのだろう?
睡眠時間を削ったり、授業サボったりしているんじゃなかろうか?
それはいけない。
「小木曽、そうやってがんばってくれるのは嬉しいんだけど最近無理してないか?」
「いえ、そんな! 楽しくてやってますから全然!」
小木曽は頭を大げさに振って答える。
「いや、そういう問題じゃなくて他のやるべきことをおろそかにしてるんじゃないかって」
小木曽は沈黙する。
静まり返る空間。
場に流れる気まずい空気。
「やるべきことといえばぁ……」
星野の気の抜けた声が沈黙を破る。
「来週からテスト期間っすね~僕今回全然勉強できてないっすよ~」
「そうか、就活してたから気づかなかったがもうそんな時期か……」
「やっぱ高村さん気づいてなかったっすねー。遠慮なく発注出してきやがりますからね~」
「あはは……」
「そうか、悪い……」
「反省してくださいねー。そういえば小木曽ちゃんは一般教養の授業なに取ってんすか?よかったら僕の過去問あげるっすよ?」
「!!! えっと、それは……」
妙に歯切れの悪い小木曽。まるで最初に漫画研究会のブースに来た時のようだ。
「今回は取ってないんです! その、一般…教養?の授業……」
「え! マジっすか!? それ、あとあと大変っすよ~」
「は、はぁ。がんばります!」
漂う違和感。なにかがおかしい……。
こいつ、何か隠している。俺の勘がそう告げている。
俺は小木曽を試すことにした。
すまんな小木曽、今まで伊達にモニターの向こうの悪女を攻略してきたわけじゃねーんだ。
「小木曽、今から俺が話す言葉を訳してみろ」
「えっ、えっ!?」
「チャイ語ワンチャンあるかと思ったらレジュメなくしてノーチャンだわ。うぇーいwwwwwww」
「………」
やはりか。
悪女め。
確信した。
チェックメイトだ。
「小木曽、お前大学生じゃないだろ」




