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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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爆走、身バレロード。です

『さぁ、カルガンレティアが送るレースもいよいよ大詰め! 一位を突っ走るは何処から現れたか謎のマスクコンビ、バロン&ジャーック! しかし、他のコンビもまだまだ逆転の狙える距離です! 頑張れ、頑張れ皆!』


レースの終焉につれて実況の声にも熱が増す。アレフはそれを聞き流しながら、それよりも少し前に聞こえてきた情報を頭の中で何度も反芻していた。


「な、なぁバロンよぉ、ボスたち先回りするつもりなんじゃねぇか?」


「んー、多分そうだ。どうしたもんか」


アレフは手綱から手を、鐙から足を外し、マスターの背の上で腕を組んで本気で考え込み始めた。レースを始めてから街のそこら中で見かける小さな暗箱、もとい撮影カメラ。アレがある限りはなるべく正々堂々とこの先にあるであろう最後の障害をクリアしてみせたい。それは泥棒の仕事と一緒

目立たないならソレが一番だが、イザ目立つ場面が回ってきたら何よりも華やかに、派手に決めたい。そんな欲求


「……ジャック、お前跳べるか?」


「えぇ〜!? もう俺結構疲れたんだけど……」


「終わったら良い人参腹いっぱい食わせてやるよ」


「っしゃあ!」


マスターの足取りに再び軽やかさが宿る。ソレは物に釣られた、言わば仮初の元気であったが残りうん百mを駆け抜けるには充分過ぎる代物だと、アレフは考えた。再び手綱を握り直し彼もまた来るべきラストスパートに備えた


そして、事前に渡されたパンフレットに記されたコースが正しいなら、コレが最後の曲がり道。ここを曲がれば後は一直線。最後はスタートした所と同じ、人が最も集まっている中央広場に出るはず


「ぬぅぅぅんっ!!!」


曲がった。マスターの豪脚が唸りと悲鳴を同時に上げながら、それでもスピードだけは決して落とさずに最後の直線へと入っていく。

と、その時。高い屋根を誇る家の上から何かが降ってくるのをアレフは目端に捉えた。その何かはドォォン、と大きな音を立てて地面に着地すると、唐突にアレフとマスター目掛けて突っ込んで来た


「ハッハッハッ! こりャおもしれェ!」


この声、聞き間違えようもない


「ボスだ、遂に来やがった……!」


「フーガの腰巾着野郎はどうしたよ、アイツも居るってい、言ってたろ……」


アレフは横目で後ろを一瞥した。見えたのは複数の馬にまたがるようにして乗っかるボスの姿のみで、フーガの姿は何処にも見えなかった


「居ねぇ、恐らく何処からか不意打ちでも仕掛けてくんだろ……ってか、あのデカブツ、俺らの事気付いてねぇみたいだぞ」


そう、ボスは先程からこのレースを楽しんで走っているように見える。既にコースから一度大きく外れた事で失格になってはいるが、どの道この男にそんな細かい事通じないのは皆分かっているだろう……まぁ、つまる所今回に限ってコイツは脅威にはならないという事だ。それよりも、忍びたるフーガが突然現れる方が怖い


(さーて、どっから現れ―――っ!?)


正面を向き直ったアレフが先ず目にしたのはマスターの顔を覆っていたはずのマスクが宙を舞って何処かへ旅立とうとする、その瞬間だった。アレフは文字通り身の毛がよだつ程震え、慌ててマスクへと手を伸ばした……が、何故かマスクは自我でも持ち合わせているかのようにヒラリとアレフの手を潜り抜けた


「なぁっ!?」


「お、おいバロン! あんま上で暴れんじゃねぇよ!」


「いや、お、お前! マスクが!」


「は?あっ、あぁぁぁ!?」


どうやら今になって気づいたらしいマスターは大慌てで自分のマスクに飛び付く。しかしこれもまた無情にもマスクがヒラリと躱してしまう


それどころかアレフのマスクも顔からすっぽ抜かれ、ヒラヒラと宙を舞いだしてしまったではないか。これには流石のアレフも慌てた


(不味い! 不味い不味い不味いぃ!)


既に一人と一匹は現在レースが行われている事など頭から完璧に抜け落ちており、ただただマスクの回収に全力を注いだ。その間にボスはアレフらを追い抜き、ゴールへと突っ走り、そしてつい先程、民宿通りで追い抜いてみせたナンバーペアたちも颯爽とアレフらを抜き返していった


コレに騒然となったのは映像を見ていた観衆たち。突然現れたダークホースをツマミに酒を飲んでいた男たちは一人残らず酒を吹き出し、黄色い歓声を上げていた女性たちは例外無く甲高い悲鳴を上げた。何せ今の今まで応援していた者が実は世界に名高い犯罪者だったのだから……それも、ココは世界の法と秩序を守る「知恵の守護者」その本部を擁する都市街であり、まさかそんなヤバいのがのうのうと現れるなんて誰も予想出来なかったのである。


そしてサシャは一人頭を抱えていた。


(ま、ま、まさかこんな事になるなんて……いやいや、バレるリスクは重々承知していた。可能性はしっかりと踏まえていた……けど、だけれどもまさかこんなゴール直前で……こんなぁ)


なんてまぁ、後悔と焦り。後はその他諸々で埋め尽くされつつあるサシャではあったが、不意に自分の肩を叩かれ正気に戻ったサシャは表情をある程度作ってから後ろを振り返った。


「な、なんですカー?」


「いや、何ですかじゃ無いだろ! この状況見てわかんねえか!?」


そこに居たのは祭りの運営に携わる一人の男だった。見れば、額には汗がびっしりと浮かんでおり、足は忙しなく動いている。彼もまたこの混乱に踊る一人の犠牲者だった


彼の言い分はこうだ。レースの参加者が指名手配犯だという話があっという間に街中へと広まり、混乱が広がっている。その混乱を鎮めるために何か案を出してくれ……と、言う訳だ


(な、何かって何よぉぉ……!?)


そうして彼女も彼女で頭を抱える羽目になったのだった。


▶▶▶


街にあの大泥棒アレフが現れたという話の届いた知恵の守護者本部もこれまた大騒ぎになった。平和ボケした連中は軒並み浮き足立ち、日頃ふんぞり返ってデカい椅子に腰掛けた老父連中は揃ってひっくり返っていた。


その中でもまだマシな連中は、何とか下に指示を出し、出された数十人は急いで馬に乗って駆け出した。目指すはレースの終着点である広場


―――それを長年の勘というか、鼻で感じとったアレフはマスターにマスクは諦めてとっととゴールを目指すという事を伝えるや否や、またゴールに向けて駆け出した。


(もう一位は無理かな……ま、それでも花形が諦めるわけにゃいかねぇな!)


素性が割れた一人と一匹は、最早吹っ切れたのか何なのか今までで一番のスピードで突っ走った。それはまさに閃光、犯罪の蠢くどす黒い暗闇に差す一筋の光明。


「俺が、俺らが何者であろうとなぁ!」


「商品だけは貰ってくからなこんちくしょうめがぁ!」


マスターは自分の脚がはち切れんばかりに躍動している事を直に感じ、自然と頬が緩む。そう言えばいつ以来だろうか。こんなにも必死こいて走ったのは……アレフには言わないが、多分全盛期と比べたら随分とこの脚は衰えてしまった。けど


(まだ走れる、走れるんだ。俺は!)


奥歯を噛み締め、地面を抉るほどに深く、強く蹴り飛ばす。

ゴールまで残りおおよそ200m


前に走るは、数等の馬を使って走るボスに、ナンバーとかいうガキ。その差はおおよそ4馬身、取り返すにはあまりにも遠く、辛い距離


それでも、一人と一匹は必死こいて駆けた。脳裏にあるのは商品と、サシャと、そして宿で一人留守番をする不憫な少女、マナの事だ。あの子に何か持って帰ってやらない事には、申し訳が立たないと、親には親の意地があると


前方、その差は段々と縮まって見えた。レースを見ている観衆は減る所かむしろ増えつつある。

そりゃ、かの大泥棒が敵である守護者と一般市民を必死に追っているのだから、一度噴き出した酒も、悲鳴も引っ込んで代わりに生唾を飲み込んで最後の最後まで見守るというものだ。


二枚のマスクを片手に持ったフーガもまた屋根の上からこの熱く、激しい勝負に思わず見入ってしまうのだった。


続く

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