歴史研究サークル加入!
長らくお待たせいたしました。真白の方が一段落ついたので、更新を再開します。
Twitter 始めました。これから更新報告などはこちらでさせていただきます。時間があれば探してみてください。
歴史研究サークルにはすぐに辿り着けると思っていた。なのに……!何でこんなに進めないの?!
学園の廊下は人でごった返していて、いつプチッと潰されるか分かったもんじゃない。それでも私たちは周りの人よりも速く前に進めてるのかもしれない。私の魔術で姿を隠している上に認識阻害をしているから、勧誘を全てスルーしているのだ。
「誰も私たちを気に留めていないわ。すごく楽ね」
周りをキョロキョロと見回しながら嬉しそうな声を上げるリズ。首を動かしているのが小鳥みたいでかわいい。
「見えないからね。万が一見えたとしても目立つ行動をしない限り皆私たちに気づかないの。でも私たちに用がある人には効かないんだけどね」
クスクスと笑いながらリズと離れないようにそっと手を繋ぐ。それに気付いたリズは破顔し、ギュッと握り返してくれた。
「それでもイルはすごいわ!お兄様に聞いて覚悟していたよりもずっと楽だもの」
二人でクスクスと声を殺して笑い合っていると、人ごみがザッと別れていく。どうしたんだろう。私たちも周りに倣って廊下の端に移動する。
「ラルフェズ様よ……!」
「学園一の魔術師がいらっしゃったわ」
「そういえば卒業後は魔術師団に入団が決定しているらしいぞ」
「さすが魔術研究サークル長!やはり今年も大会はあの方の優勝だな」
「それにしても相変わらずお美しい……」
「少しでもお近づきになりたいわ……!」
様々な方向からたくさんの声が聞こえてくる。その中に魔術研究サークルという言葉があった。私を狙っているとリズが話していたサークルだ。そこの長だなんて!絶対見つかりたくない!
しーっと人差し指を立ててリズに目配せする。私の意図を察したリズはコクリと頷いてくれた。
改めて私たちのいる人垣の前に歩いてくるラルフェズという人を見てみる。ミント色のロングストレートをハーフアップにした髪を靡かせて颯爽と歩く姿は、周りの人が言っていたように美しい。背は高いようで、人に埋もれている私でもはっきりと顔が見えた。ターコイズブルーの瞳は自信に溢れているようで、まっすぐと前を見ている。
と、私たちの前を通り過ぎようとしてラルフェズさんは突然立ち止まった。
「ラルフェズ?どうかしたのか?」
一緒に歩いていた人に声をかけられるも、ゆっくり首を振るだけ。何かを探すように私たちの周りを見ている。
「今私を見たわ!目が合ったのよ!」
「いいえ私よ!貴女じゃないわ。私を見てくださったのよ」
周りの女子生徒が黄色い声を上げる。お願いだから気づかないで!早くどっか行って!
心の中で必死に祈っていると、ターコイズブルーの瞳と視線がかち合った。嘘でしょ……。
絶望的な感覚に陥っていると、ラルフェズさんは首を傾げて私たちから目を離した。どうやら気付いてはないみたい。
「気のせいかな。魔力を感じたんだ」
肩を竦めて言うラルフェズさんに一緒に歩いてた人は眉を下げて困った顔になる。
「俺は感じないけど。気のせいじゃないか?」
「そうかな。まあ、今は感じないから気のせいだろうね。止まってごめん。行こうか」
あまり納得のいった風ではなかったけど、そのままラルフェズさんたちは歩いていった。しかし、まさか私の魔力が人間に悟られるだなんて。どれだけいい感度を持ち合わせているんだろう。恐らく魔人族の子供なみにはいい感度を持っているんだろうな。
「気づかれたかと思ったわ」
リズは私の隣で小さく息をついている。
「私も。冷や冷やしたよ」
互いにに顔を見合わせて安堵の笑みを浮かべる。ラルフェズさんたちが居なくなるとすぐに人ごみが元に戻る。その中をゆっくりと歴史研究サークルのある場所を目指して歩き出した。
◇◈◆◈◇◈◆
歴史研究サークル、略して歴研は、図書館の隣にある資料館の一角に部屋を構えていた。ここの人たちは新入生勧誘狩りには行かずに、黙々と活動を行っていた。
誰も私たちが入ってきたのに気づかないのか、気付いていても気にも止めていないのか。誰一人として顔を上げる人はいない。流石にこのままではどうしようもないので、思いきって声をかけてみる。
「あの……、サークル希望で来たのですが……」
私が声をかけたのは一番入り口近くで本を読んでいた人。襟元のピンバッチからして第三学年の先輩かな。小麦のような色の髪を長い三つ編みにまとめて、牛乳瓶の底のように厚い眼鏡をかけている。一回では気付いてくれず、先輩がページを三回捲り、私が七回声をかけたところでやっと顔を上げた。
「ごめんなさい、楽しくて夢中になっていたの。あなたたちはどちら様?」
膝にのせた分厚い本のページに栞を挟み、私たちに向き直った先輩は、ほつれて顔の前に垂れ下がってきていた髪を耳にかけながら尋ねた。
「私は新入生のイリアナ・シックザントです」
「同じく新入生のクラリス・キルケルトでございますわ」
小さくカーテシーを付けて自己紹介をすると、先輩は目の前で固まった。口が半開きになってるのは指摘した方がいいのかな。
「嘘……。四大公爵家のご令嬢が二人。こんな弱小サークルに……?夢なの……?」
小さく呟いた先輩の言葉に、リズと困ったように笑いあう。こんな反応をされるだろうことは、ここに来るまでの間に二人で話していた。でも、まさか本当にこんな反応をされるなんて。
「リシャーナ君、どうしたのだね?……ほう。これはこれは」
先輩の挙動不審な様子を不思議に思ったのか、小柄な髭の長いお爺さんが先輩に話しかけてきた。そして先輩の前にいる私たちを見てその長い髭を撫でる。
へぇ。この先輩、リシャーナ様って言うんだね。
「お初にお目にかかります。イリアナ・シックザントでございます」
「お初にお目にかかりますわ。私はクラリス・キルケルトでございますわ。お噂はかねがね聞き及んでおりますわ。ジャグリン先生」
どう考えても先生にしか見えなかったから、丁寧に挨拶をした。あ、決してリシャーナ先輩への挨拶が丁寧じゃなかったわけではないんだよ?学年が一つしか違わない人に丁寧すぎる挨拶するのもね、ってだけ。
それにしても、この先生はジャグリン先生って言うんだ。私知らないな。でもリズが噂で知ってるんだよね。あとでどんな先生か聞いておかなくちゃ。
「これはこれは、丁寧にどうも。イリアナ君、クラリス君。わしゃダネシス・ジャグリン。歴史研究サークルで顧問をさせてもらっておる。二人は参加希望かね?」
ジャグリン先生は目尻に皺を作りながら笑いかけてくれた。
「はい。私は参加希望です。リズは……」
「私も参加しようかと思いますわ。イルもいますし、楽しそうですもの」
他のサークルを見てから決めると言っていたけどいいのかな。尋ねるようにして見ると、リズはクスリと笑った。
「私も国に貢献したいという気持ちもあるのよ?これでも貴族の端くれですもの」
「いやはや、その意気や素晴らしい。それではお二人はこれに名前を書いてくれるかね?」
ジャグリン先生はうんうんと楽しそうに頷いた後、私に一枚の紙を手渡してきた。微弱ながらも魔力を感じる紙を見てみれば、普通のサークル参加同意書だった。なんでこんなものに魔法をかけてるんだろう。
「先生、僅かながらですがこの紙から魔力が感じられます。なぜですか?」
「ほう!気づいたのかね!いやはや素晴らしい。これはだね、契約の魔術がかけられておる。いつも気付くかどうか試しているのだよ。気付かなかったら卒業するまでこのサークルから抜けることができないようになっておっての!ほっほっほっ!」
えっと……、楽しそうで何よりです?結構すごいことをしていたんだね。今までどれくらいの人がこの魔術に……。って、部屋にいる先輩たちが皆羨ましそうな目でこっちを見ているんだけど。そうなんだね。皆この魔術の餌食になったのか。
「そうですか……。気付くことが出来て良かったです。危うく先生に騙されてしまうところでした。ですが、私は三年間抜けるつもりはありませんのでご心配無く」
そう言えばジャグリン先生は相好を崩した。
「ありがたい言葉よ。わしゃ感激じゃわい。宜しく頼むよ、イリアナ君。……ああ、そうじゃ。これを渡しておかなくては。ほれ」
そう言ってジャグリン先生がジャグリン先生が腰袋から何かを取り出して私に差し出す。受け取ったそれはブローチだった。親指の爪ほどの大きさのブローチには、本が刻まれている。その本の下には小さく『歴史研究』と彫られていた。
「ありがとう存じます。大切にさせていただきます」
左胸のところに自分で付けると、このサークルの一員になったことが実感できて、嬉しくなってきた。自然と緩んでいく頬を引き締めてお礼を言うと、学園中に鐘の音が響き渡る。どうやら新入生勧誘の時間が終わったみたい。
「さて、今から何かしようとしてもできんからの。今日は気を付けて帰りなさい」
「お言葉に甘えて失礼させていただきます。これから宜しくお願い致します」
「私も宜しくお願い致しますわ。皆様ごきげんよう」
二人で挨拶をしてサークルを後にする。無事サークルに入ることができてほっとしたのも束の間、リズが爆弾を落とした。
「イル、明日はリクリエーションね。きっといろんな人から話しかけられるわ。楽しみね」
笑顔のリズに私は曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
歴研のメンバー濃い……。特に先生が濃いです。あれ?他サークルの見学してないって……?もういいよそんなの。……すみません。予告詐欺ですorz
次話はクラスのリクリエーションです。新キャラ登場予定です。




