14.これからも一緒に
毎日が穏やかに過ぎていき、とうとうイザベラ王女とアルフレッドの結婚式の日がやってきた。国中がお祭り騒ぎで、とても楽しい雰囲気だ。
「ソフィアお姉様、お久しぶりです」
イザベラ王女とアルフレッドの結婚パレードを見るために、レイモンドのいとこであるメリッサが遊びに来たのだ。
嬉しそうに私に飛びついてきてくれるメリッサはとても可愛らしい。妹みたいだと言っていたレイモンドの気持ちがよく分かる。今では私にとっても、かわいい妹のような存在だ。
「私、楽しみで昨日は眠れませんでした」
王族であるイザベラの結婚式は、親友であっても参列することはできない。きっと今頃王宮で厳かな結婚の儀式が行われているだろう。
私とメリッサは、その後で行われる結婚披露パレードを見る予定なのだ。パレードの道路沿いはすでに人が溢れているので、少し離れた見やすい場所で見ることにした。
「ウォーレンにもボディーガードとして一緒に来てくれるよう頼んだんですけど、忙しいみたいで無理でした。あっ、始まりますね」
メリッサが興奮したように飛び跳ねる。音楽が鳴り響き、歓声と共にパレードが始まった。
「綺麗ですね」
メリッサが瞳を輝かせながら、興奮したような歓声をあげる。
本当に綺麗……
群衆に手を振るイザベラ王女を見ると、胸に熱いものがこみあげてきた。
婚約当初はまだ素直になりきれなかったイザベラ王女も、最近は惚気話が出るようになってきた。
最後に会った時には、アルフレッドからプレゼントされた指輪をして嬉しそうに笑っていたっけ。
よかった……
目頭が熱くなる。イザベラ王女とアルフレッドの幸せそうな様子を見れて本当に嬉しい。
あっ!!
パレードの中にレイモンドの姿を発見する。騎士団長の一人であるレイモンドは、国王夫妻の馬車を先導しているのだ。
「レイモンドお兄様、素敵ですね」
レイモンドの姿を見つけたメリッサも興奮しているようだ。
本当に素敵だ。あまりに素敵すぎて、また涙が出そうになってくる。
レイモンドがこちらを見た。
えっ?
私がここにいるってわかるのかしら?
まわりにはたくさんの人がいて、レイモンドの位置からは私のことは分からないだろう。でもなぜだか、レイモンドは私を見て微笑んだ気がした。
☆ ☆ ☆
「ソフィー、まだ起きてたの?」
イザベラの結婚式の晩、レイモンドが帰って来たのはだいぶ遅い時間だった。
「なんだか興奮して眠れなくて……昼間の結婚パレードがとても素敵だったから」
レイモンドの着替えを手伝い、二人で長椅子に腰掛けた。
「イザベラ王女、とても綺麗だったわね」
「結婚式の時のソフィーほどじゃないけどね」
いつものことながら、レイモンドは嬉しいことを言ってくれる。ふふっと口元に笑いがこみあげてきた。
「レイもとても格好良かったわ」
お世辞抜きで、レイモンドは本当に素敵だった。レイモンドが前を通る時、女性達の黄色い叫び声が多く聞かれた。レイモンドがこれだけ人気だと、嬉しい反面、誰かにとられやしないかと不安でもある。
「本当に格好良かった?」
「えぇ。本当に格好よくて……また好きになっちゃったかも」
心なしかレイモンドが赤くなった気がした。
「ソフィー、渡したいものがあるんだ」
レイモンドがポケットから小さな箱をとりだし、私の手にのせてくれた。
「開けてみて」
中には綺麗なネックレスが入っていた。
「これ、私に?」
「そうだよ。結婚一周年のお祝いに」
思いもよらない言葉に、びっくりして目が丸くなる。
「……もしかして、忘れてた?」
レイモンドの言う通り、すっかり忘れていた。そう言えば私達の結婚式も秋だったんだ。
「本当は先週の記念日当日に渡したかったけど、今日の準備でしばらく帰れなかったからね」
遅れてごめんって謝られたけど、謝るのは私の方だ。私なんて、イザベラ王女の結婚式のことで頭がいっぱいで、自分の結婚記念日のことなんてすっかり頭から抜けおちていたんだもの。
「ごめんなさい。私何も用意してなくて……」
「そんな顔しないで。さぁつけてあげるから、後ろを向いて」
首を前に倒し、髪の毛を横に流す。レイモンドが私の首にネックレスをつけてくれる。レイモンドの指がかすかに首に触れ、緊張してしまう。
「ありがとう。とっても嬉しいわ」
「よかった」
そう言ってレイモンドは嬉しそうに笑っているけど、全然よくない。
「私……いっつもレイにしてもらってばっかりだよね……」
結婚記念日すら忘れてしまっていた自分が情けない。こんなんじゃ、レイモンドに愛想つかされても文句は言えない。
「そんなことないよ」
落ち込む私を慰めるように、レイモンドが私の頭に優しく触れた。
「でも……」
「それじゃあ結婚一周年のプレゼントとして、私のお願いを一つ聞いてもらおうかな」
レイモンドの笑顔に、一体何をさせられるのかと身構えたが、レイモンドのお願いはびっくりするくらい簡単な事だった。
「本当にこんなことでいいの?」
私達二人の座る長椅子の前に置かれたグラスを眺める。
「もちろん。最高のプレゼントだよ」
結婚一周年のプレゼントとしてレイモンドからお願いされたのは、『私の酔った顔が見たい』というものだった。
前に何度か一緒に飲もうと誘われたけど……そんなに私の酔った顔が見たかったのかしら?
ウキウキしながらグラスを用意するレイモンドを見て苦笑する。
「これは、さくらんぼのお酒ね」
久しぶりのお酒は、甘くとろりとしてとてもおいしかった。
「よくわかったね。甘い方が飲みやすいと思って用意していたんだ。これならソフィーも飲めるだろう」
「本当に。美味しいから飲みすぎちゃいそうで怖いな」
レイモンドと二人きりでゆっくり話すのはいつ以来だろう。近頃のレイモンドは、イザベラの結婚式準備で帰れない日も多かったのだ。
「ねぇレイ? パレードの時なんだけど、私がどこにいたか分かった?」
私の質問にレイモンドはもちろんだと笑った。
「感動して涙ぐんでいるソフィーは、とても可愛いかったよ」
やっぱり。レイモンドと目が合ったと思ったのは、私の気のせいではなかったのだ。
「ソフィーのことなら、どこにいてもすぐに見つけられるよ」
レイモンドの瞳は熱を帯びている。
体中が熱いのは、レイモンドのせいなのか、それともお酒のせいなのか分からなくなっていた。
「あふっ」
不意に大きな欠伸が出てしまう。
「ごめんなさい」
謝る私の頭をぽんぽんっと叩きながら、レイモンドがクスリと笑った。
まだ寝たくない……もっとレイモンドと話していたい……
私の気持ちに関係なく、瞼はさがってきてしまう。
「あふっ」
もう一度大きな欠伸が出た。
なんだかふわふわする……
夢なのか現実なのか分からないまどろみの中で、レイモンドの優しい声が聞こえる。
「おやすみ、ソフィー」
髪の毛を撫でてくれるレイモンドの大きな手が気持ちいい。
おやすみ、レイ。大好きよ。
来年の結婚記念日は絶対忘れないからね….
あらまぁ…
部屋に入ったサラは思わず微笑んでしまった。
サラに気がついたレイモンドは人差し指を口の前に当て、シーっというポーズでにっこり笑った。
ソフィアはレイモンドの膝を枕にし、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。ソフィアの髪の毛を優しく撫でるレイモンドはとても幸せそうだ。
「毛布をお持ちしますね」
小さな声で囁いて、サラは音を立てずに部屋を出て行った。
静かな部屋で、レイモンドはソフィアの顔を思う存分ながめていた。
可愛いなぁ……
本当にお酒を飲むと赤くなって寝てしまった。本当に可愛すぎて、他の男には見せられないよ。
「もう私の前でしか、お酒を飲んだらダメだよ」
ソフィアを起こさないよう小さな声で呟いた。
またソフィアの新しい一面を見ることができた。レイモンドはそのことがとても嬉しかった。
まだこれからもソフィアのことを知っていけるはずだ。これからもずっとずっと一緒なのだから……
「おやすみ、ソフィー」
穏やかな顔をして眠るソフィアの柔らかな髪に、レイモンドはそっと口づけた。
最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。




