第16話 旅の道連れ(ふたりめ)
「君達の旅に、私も一緒に連れていってくれ!」
「は、はぁ…?」
リシャールが頭を下げた。
いきなりの事に、ボクは目を丸くした。
それは妖精族の森を出た翌日の朝だった。
「いきなり何を言い出すの?!」
「虫のいい話だと言うのは分かっている。私にはもう帰る場所は無いんだ。だから…」
リシャールは整った顔をくしゃくしゃにしながら懇願した。
最初に出会った時の高慢な所は見る影も無い。
「う、うーん。でもねえ…」
ボクはヒスイを見た。
いくらリシャールが“改心”したとは言え、土鬼族の村を襲撃し一族を殺した存在なのだ。
「え、俺なら良いよ?」
いいんかい!?
やんわり断ろうとしたけど、これじゃ断れないじゃないか!
「それにおねーちゃんなら、楽しく旅できそうだからね!」
「は…? お、おねーちゃん!?」
ボクはビクッとしてリシャールを見た。
「き、君…。おんななの!?」
「あ、ああ…。言ってなかったが…」
確かに整った顔だし、長髪で女性にしても美しい顔だ。
だけど男装だし、名前も男の名前だ。
口調も男性そのものだったし…。
「私の家は、妖精族の里…グランアルブルでは名家でな。だが中々男の子供が生まれなかったんだ。別に女だから家名を継げない訳じゃないが、両親はプライドがあったのだろうな…」
まぁ、貴族と言うものはそう言うものなのだろうな。
所謂プライドの塊とも言える。
高慢な性格はそうして形成されたのだろう。
「だがそんなことはもうどうでもいい。私は里も、家も捨てたんだ。だから、頼む。」
リシャールが再び頭を下げた。
一緒に連れて行く義理は無いけど、ここで撥ね付けるのも可哀そうかな。
「あー、分かった。一緒に来て良いよ。」
ボクは渋々ながら承諾した。
「本当か!? やったぁ!」
リシャールは横にいたヒスイをぎゅーっと抱きしめた。
むす…。
ボクは不機嫌になった。
「ヒスイは、どこでリシャールが女だって気付いたの?」
「ん、あー。リディが見張りしてた時に、俺、リシャールに抱き枕にされて…」
なるほどね。
ぎゅっと抱きしめられたら、いくら隠していたとしてもふくらみを感じたのね。
どうせボクなんて貧しいですよ…。
「はいはい! いい加減ヒスイを放してね!」
「あ、ああ…!」
リシャールがビクッとしてヒスイを話した。
ボクはすすっとヒスイを自らの隣に引き寄せた。
「そ、そのリディ…。面倒ついでにもう一つお願いがあるのだが…」
「お願い? 何?」
「私も、貴女と契約して欲しい。」
「は、何で君なんかと…?」
ボクは不機嫌な顔で答えた。
「ヒスイから聞いた。土鬼族の一部は君と契約して、最上位人鬼に進化したのだろう。私は弱い。貴女達との戦いで思い知らされた。」
「なるほど、君は力が欲しいと。確かにボクと契約して魔力を分け与えれば、君の力は増えるかもしれない。だけど、それで自分の力を増やそうなんて安易な考えじゃないのかい?」
土鬼族の場合は所謂、持たざる者だった。
それに船が難破して食料も無かったボク達を助けてくれた恩返しの思いもあった。
だがリシャールは妖精族だからボクや今のヒスイよりは弱いのかもしれないが、持たざる者では無い。
「駄目だろうか…。別に貴女の従者でも良いんだ…」
リシャールは一気にしょんぼりとした表情になった。
うーむ、女性だと分かったらそれっぽく見えるものだな。
「あーもう! 分かったよ。今夜契約の儀式を行うとする。あと土鬼族の時も言ったけどボクは誰かを従えるとかそう言うのは好きじゃないから、君も友達のやつだ。良いね?」
「あ、ああ…!よろしく頼むよ。」
めんどくさいので“お友達契約”をしてあげることにした。
リシャールが嬉しそうな顔をしているから、良しとしよう。
その後、ボクはリシャールに対する儀式を行った。
リシャールにボクの血から生まれるあま~い魔力水を飲ませ、一晩待つのだ。
前にも言ったように、すぐに効果が出るものでは無いのだ。
そして翌日。
「お、おはよう…!」
「うえ? リシャール?」
そこには恥ずかしそうな仕草のリシャールが立っていた。
髪は金髪のままだが、肌の色が褐色に変化していた。
髪の毛を結んで無く、長い金髪はとても美しい。
そして上着を脱いだ軽装だったので、見事なスタイルの体が姿を現していた。
…うらやましい。
ボクは魔力検知を発動した。
リシャールの魔力は大幅に増幅しているようだ。
そして魔族の闇属性を反映しているらしい。
高位黒妖精族に進化しているようだ。
「うわー! 凄いね、リシャール。とても強そうな感じするね!」
ボクの横でヒスイが感嘆の声を上げた。
「そ、そうかな? 確かに自分でも魔力が大きく上がった気がするな。」
リシャールは拳をぎゅっと握った。
「私は本当は魔法が得意だから、必ず二人の役に立ってみせるよ。」
「あ、君、魔法使いだったの?」
「あ、うん。流石にあの時の人間のような神級魔法は使えないけど、いくつかの属性の上級魔法や回復魔法も習得してるよ。」
なるほど。
ボクやヒスイは直接攻撃系だから、援護してくれる人がいるのは心強いかも。
「ふむ、期待するとしよう。さて、そろそろ出発の準備をしようか。」
ボクは立ち上がり、ヒスイとリシャールに準備を促した。
「ようし、今日も元気に行ってみよー!」
「ああ、よろしく頼む。」
二人も装備を整え始めた。
旅の道連れが一人増えた。
どんな旅になるのかは分からないが、どうにか有意義なものにしていきたい。




