数字②
「カウントダウン?」
レオルディア侯爵の言葉は意外すぎたのか、パオロの顔には困惑の表情が浮かぶ。
「一体、何のカウントダウンなのですか?」
「悪意に対して『譲歩する』カウントダウンだ」
さっぱり意味が分からず、パオロの困惑はさらに強まる。
「お前は、アインベルク卿が侮辱に対して、何の反応も示さないことに対して、不思議に思わないのか?」
「いえ、ただ単に上の身分の者に対して反抗することができないだけと思っております」
「だろうな、アインベルク卿という男を正しく把握しておれば、侮辱など決してできぬ」
レオルディア侯爵の言葉はパオロには意外すぎた。一体、叔父はアレンの何をしっているというのだろうか?
「パオロよ・・・。アインベルク卿のカウントダウンは、ゼロになればこれ以上堪えない。容赦なく潰すという意思表示だ」
「は?容赦なく潰す?奴の爵位はたかだか男爵、仕事は墓守とアンデットの駆除、領地もなく、政治権力もほとんどない。そのような者になにが出来るというのですか?」
「ふむ、頼もしいなパオロよ」
舌打ちを堪えるような声にパオロの動揺は強まる。
「お前は、つまりアインベルク卿と戦って勝てるというわけだな」
レオルディア侯爵の嘲るような言い方に反発を覚える、あのような小僧ごときに負ける気はさらさらない。
「叔父上は、あの程度の小僧に私が負けると思っているのですか?」
「リッチ3体を一人で斃すような男に勝てるとは、パオロも腕を上げたものだな」
え?
・・・叔父上は今、何と言った?
リッチ3体を一人で斃す?
そんな事の出来る人間が存在するはずがない。リッチ3体を斃すには、一体に500人必要と考えて1500人は必要だ。
「・・・まさか、あの小僧は出来るとでもいうのですか?」
「もちろんだ、しかも片手間にやってのける男だ」
「そんなバカな!!!!そんな事出来るわけがない!!しかも片手間ですと?」
「実際に昨夜、アインベルク卿は国営墓地に表れた中位以上の悪魔、リッチ3体を斃している」
否定しようとしたが、叔父の顔を見て、事実であると直感的に悟った。レオルディア侯爵は少なくともそう信じている。
「もし、アインベルク卿を逮捕、もしくは誅するとすれば少なくとも、国軍全てを動かす必要がある」
一言も発しないパオロに対し、レオルディア侯爵はさらに続ける。
バカな・・・国軍総動員して、あの小僧に当たらなければならんということか?
「信じぬなら信じぬでも良いぞ。パオロよ。私は事実を言っているにすぎん。犬が竜より大きいと信じるのもお前の自由というものだ」
淡々と述べる叔父の言葉にパオロは絶句する。しばらく2人の間には沈黙が流れる。決して短くない時間をかけてパオロが叔父に質問する。
「では、叔父上、あの小僧がそこまでの力を持っているのなら、なぜ力を持って侮辱する者をすぐに殺さないのですか?」
パオロにとって、そこが引っかかっていた。力があるならなぜ振るわない?侮辱されてまで、行使しないのはおかしい。行使しないのではなく出来ないのではないかという思いが強まる。
「それは、アインベルク卿が爵位を継ぐのに国王陛下に対して出した条件のためだ」




