数字③
「あの小僧から恐れ多くも陛下へ条件ですと?」
爵位を継ぐにあたり、許しをもらう立場のアレンが国王陛下へ条件を出したというのか?もし、そうならアレンは爵位を継ぎたくなかったと言うことになる。むしろ国王陛下がアインベルク家をつなぎ止めようとしたということか?
「アインベルク卿は、爵位を継ぐ前に陛下と謁見し、爵位の返上を申し出たのだ」
「爵位を返上ですと?」
「そうじゃ、アインベルク家の風当たりの強さはわかっておるな」
もちろんだった。何しろパオロ自身がアインベルク家を見下しているのだ。アンデットに関わる家といわれ蔑まれている。
「アインベルク卿にしてみれば、貴族達に蔓延するそんな空気は到底、許すことは出来ないだろう。アインベルク家の国家への貢献は計り知れぬのに蔑まれる空気はな」
「しかし、ではそこまで貢献しているのというのなら何故、爵位を上げないのです?」
「もちろん、公爵位を打診したことは数知れぬ、だが当のアインベルク家がそれを拒否するのだ」
「なぜ・・・そんなことを・・・」
「分からぬ・・・だが、アインベルク家の当主が代替わりするたびに公爵位を与えようとするが、歴代当主はみな拒否しておる。当然、当代のアレンティス=アインベルクも公爵位を拒絶しておる」
絶句するしかない。人臣として栄華を極める事も可能というのに、それを拒絶するのは貴族社会の常識ではあり得ないのだ。
「それでは、我が国はアインベルク家をつなぎ止めるために、あの小僧に条件を出させて男爵家を継いでもらったというわけですか?」
「半分は当たりでもう半分ははずれじゃ。つなぎ止めると言うところは正解じゃが、男爵家を継いで欲しかったのではない。墓守を継いでもらいたかったのだ」
「墓守ですと?」
「あの国営墓地を管理する墓守は、アインベルク家以外には不可能なのだ」
「何か特別な理由があるのですか?アインベルク家以外に出来ない理由が」
「単純に実力の問題じゃよ。この国のほとんどの者は気付いておらぬが、アインベルク家が墓守を辞めてしまえば、常にあの国営墓地には一個師団を常駐せねばなるまい」
あまりにも常識外の言葉である。もし、これまでの話が本当ならアインベルク家の者は人知を越えた化け物ということになる。
「話を戻すぞ、アインベルク卿は陛下に、理不尽な嘲りや蔑みは100回まで見逃す。それ以上は我慢しないでよいという条件をだしたのじゃ。我慢しないとは相手を潰す事と儂は考えておるが、確かな事は分からぬ」
100回目になるとどのような行動をとるのか現段階では正確な所はわからないというわけか・・・。
「そして、今日、お前が一つカウントを進めたというわけじゃ、国王陛下、宰相殿、儂の三人はアインベルク卿をつなぎ止めるため、理不尽な嘲り、蔑みを極力排除しておる。だがすべてを防ぐことは出来ん」
叔父上は、アレンを手放したくないのだろう。戦略的にもあの小僧の存在は重要だと考えているのだろう。いや、今までの話からあの小僧は危険人物中の危険人物に思える。ではなぜ処分しないのか?
「叔父上、一つ質問がございます」
「なんじゃ?」
「あの小僧は危険人物中の危険人物ではないのですか?暗殺という手段もあるのではないですか?」
「暗殺じゃと?では暗殺が失敗した場合、アインベルク卿はどう動く?」
「え?」
「自分を殺そうとするのは、貴族のうち誰かと考えるじゃろう。そして、貴族を皆殺しにすると決断し行動したらどうする?」
「まさか・・・」
「アインベルク卿の為人では可能性は低いかもしれぬ、だが、やるかもしれぬ。そして実際にやり遂げるだけの力を持っておる」
まさか、そこまで・・・と思うが、実際にやり遂げる実力があるのなら、危険性は皆無でない。
「わざわざ、竜を怒らせる必要はどこにある?」
国家の最高指導者の一人がそうつぶやいた事が事の重大さを示しているように、パオロには思われた。自分はとんでもないことをしたのかもしれない。少なくとも国家の最高指導者達の不況を買ったのは確実だった。
その事実に気付き恐ろしくなるが、現段階ではどうすることも出来ない。せめて次に会ったときには、絡むようなまねはしないでおくことにしよう。
パオロが退出した後、レオルディア侯爵は甥に告げなかったもう一つの理由を口にする。
「アインベルク卿に敵意のこもった目で見られるのは堪える。結局、儂はアインベルク卿が気に入ってるのじゃろうな」
恐れよりも・・・はるかに恐ろしいのは、それだ。
レオルディアにとってそれは本当に避けたい事だった。




