俺とこいつ
「お前、俺の何処が好き?」
大して興味もないが、聞いてみる。
くあっと大きな欠伸をして、隣りに転がっている裸の男が、気怠げに口を開く。
「顔とケツ」
「最低だな」
「お前は?」
「デカいブツ」
「同じじゃねぇか」
二人で笑い合う。狭いボロアパートにお似合いな、薄っぺらな布団からは、足がちょっとはみ出る。なのに、大の男二人で寝るから余計に狭い。
短く触り心地の悪そうな艶のない黒髪に、口元と顎先にうっすら髭を生やしたこの男と俺は、たまたま高校が一緒で、たまたま席が近くて、たまたま話してみただけの、なんて事ないただの男友達だったのだが、気付いたら俺の高校生活の全てにこいつが居て、更にはこうして互いに無駄に有給休暇を消費しあって、獣のようにがっつきあってる。
しかも始まりは最低なものだった。
当時こいつには彼女が居た。なのにこいつは俺に、「彼女は大切にしたい。でも性欲は抑えられない」なんてふざけた事を言ってきた。そして、挙げ句の果てには「男同士でも、気持ちよくなれるらしいぜ?」と。
ふざけんな。最初は拒否したが、ちょっとした好奇心で俺達は、新たなる扉を思いっきりこじ開けてしまったのだ。
その後どっぷりハマってしまって、俺達は暇さえあれば獣のように互いの体を貪りあった。
そしてこいつは彼女にフラれた。当然だ。しかも理由が「手を出してくれないから」だというから笑いものだ。
だが、こいつはさほど落ち込みもせず、その言葉を受け入れていた。自惚れだが、多分俺が居たからだろう。
俺は軽く伸びをして、仰向けに転がる。
「腹減った、なんか買ってこいよ」
「嫌だね」
「じゃあ、出前でもいい」
「スタミナつくもんにしようぜ」
「わーお、ヤル気満々」
にやりと笑ってやがる。全く俺もこいつもどうしようもない。
どうしようもないくらい、この日常が--。
「好きだ」
「んあ? なんか言ったか?」
「別に」
俺は出前を頼むため携帯に手を伸ばした。その手に手が重なる。
「なんだよ」
「別に」
俺達はまるで、当然のように唇を重ねた。