第十八話 悪魔探し
ランツァとキリエは並んで走っていた。この、アザルドという不思議な世界の中を。
しかし、景色にはほとんど変化は見られなかった。
故に彼はその疑問を彼女に話してみることにした。
「なあ、何でこんなに周りの様子が変わらないんだ? 建物とか、地面の亀裂とか、さっき見たような感じのものばっかりじゃないか。まさか、迷ってるなんてことはないよな?」
「迷ってるというか……」
そう彼女は答え、さらに続けた。
「大丈夫。同じところを通っているように見せかけているだけだから。私達のような敵を容易に近づけさせないための、ね。でも正直、彼が今どこにいるかははっきりしていないの。だから、迷ってるとも言うかもしれないけど、それはどうしようもないことなのよ。それよりも、今は悪魔をまずは探した方がいいみたいね」
「何で……?」
なぜ悪魔をこちらから探す必要性があるのか? わざわざ探さなくても、ウィリアムを助けることには全く関係ないと思うのだが……。
「何で? って、それはもちろん彼の居場所を叩き出すためよ。聞かずに探そうとしたら、どれだけ時間がかかるかわからないからね。だから、とりあえず弱そうな悪魔を探し出して、そいつから居場所を聞けばいいってこと」
確かに、と彼は心の中で納得した。
もし、このどこまで続くかわからない世界であてもなく彷徨ったならば、どうなるかは一目瞭然。
「そうだな。でも、その弱そうな悪魔ってのは、簡単に見つかるのか?」
「見つからねえよ」
突如、彼らの背後から声がした。
振り返ればそこには、運の悪いことに明らかに恐ろしげな悪魔がいた。
特に爪が恐ろしかった。長く、そしてもちろん鋭そうな鎌のような形状をした爪。それが人間と同じように十本揃っている。
他に言うならば、この悪魔は十本の爪以外は人間の体の構造とは完璧に異なっていた。
真っ白い皮膚だった。
その白い足は三本しか指がなく、こちらの爪は短かった。
あとは魚の歯を巨大化したような鋭い牙が見えるといったところか。
その悪魔はまた話し出す。
「見つかるわけがねえ。この俺がてめえらの魂を喰ってやるんだからよぉ!!」
はっ、と息を呑んだのはランツァだけ。
一方でキリエは全く動じなかった。
この恐ろしそうな悪魔を目の前にしようとも。
それをその悪魔は気に入らないといった様子で、彼女を睨みつけながら、こう言い放った。
「何だ? てめえは。この俺を前にしてなぜビビらない? もしかして、ただのアホかぁ?」
「ふっ……随分と生意気な悪魔ね」
そう言った彼女に、ランツァはそこにいる悪魔以上に驚いた。
まるで別人だった。
表情、目つきなどが、先ほどの彼女を打ち消しているかのようだった。
優しそうだった彼女を。
「まあ、ちょうどいい。ランツァ、あいつを捕まえて」
その命令口調はやはり、先ほどの彼女ではないことを示していた。
そして、彼には反抗するという言葉そのものがなかった。
彼は何か考えがあってのことだろう、と自分に言い聞かせ、従うことに決めた。
「わかった。捕まえりゃいいんだな?」
「そ。殺しちゃ意味ないからね」
「なぁにが、俺を捕まえるだ? 調子に乗るなよ、クズが!!」
案の定、悪魔はそんなことを言ってきた。
そして、ランツァは言った。
「じゃあ、俺の力を見せてやるとするか」