第五話 幕の内弁当と、不器用な味噌汁
龍生が笑顔で立ち去ってから、二人は無言で食堂に置かれた幕の内弁当を眺めていた。
「白銀、お前いつもこんな豪華な弁当食べてるのか?」
「……いや。稜が気を利かせて買ってきただけだ」
「いつもは外食か――、珈琲だけだな」
「げっ」
(龍生副官が言ってた通り、コイツ本当に珈琲しか飲まないのか――?)
「……なんだその声は――」
「……お前の食生活に絶望している声だ!」
蘭は白銀を一瞥し、小さくため息をついた。
(仕方ないなぁ……)
「おい、白銀。
着替えてくる」
「……ああ」
「……いつまでも振袖でいるのは疲れた――」
✕✕✕
トントントン――。
台所から小気味よい音が聞こえてくる。
蘭は振袖を脱ぎ、龍生に持ってきて貰ったトランクから軍で着用しているシャツとズボンを取り出した。
(ちょうどサラシも巻いてるし、袴に着替えるの面倒くさいし、今日はこれでいいか)
髪を無造作に一本で縛り、亜嵐少尉の姿になる。
(やっぱりこの恰好がしっくりくるな!)
着替え終わった蘭は、台所に向かう。
(さっきの弁当、美味そうだったけどやっぱり汁物がないと落ち着かないな……)
(龍生副官が買ってきてくれた食材で汁物でも作るか――)
蘭は手慣れた手つきで大根をいちょう切りにしていく。
(二人で食べるんだから、そんなに作らなくてもいいな)
二人で――。
ふと出た言葉に、蘭は一瞬手を止める。
(考えるな、考えるな、考えるな!)
(オレは今! 大根を切ることに集中するんだ!!)
蘭は鍋に大根を放り込み、頃合いを見て適当に味噌を溶いた。
(……まあ、食えればいいだろ)
お玉で汁を掬い、味見をしようとした時。
背後から声が掛けられた。
「……何を作っている?」
「うわぁああ! びっくりした!!」
「見てわかんねーのか? 大根の味噌汁だよ、味噌汁」
「龍生副官に言われたからな! 仕方なく作ってやってんだ!」
「……そうか」
白銀が近づいてくる。
そして、小皿を持つ蘭の手を握り、そのまま飲み干した。
「…………っ……!」
「……悪くない味だ……」
「……そうかよ!」
白銀の視線が、蘭の姿を静かに追う。
いつも見慣れているはずの軍服――。
しかし、上着は着ておらず、線の細さが目立つ。
それに、軍では上まできっちり締め上げられているボタンが閉まっておらず、襟元からは白いサラシと女性特有の膨らみが見えた。
「……なんだよ? やっぱりもっと薄味の方が良かったとか言うんじゃないだろうな?
今日は疲れた。これで我慢しろ!」
プイっと顔を背ける蘭。
蘭の首筋から覗く白い肌に、白銀は一瞬息を呑んだ。
「……ってかいつまで手を握ってる! すぐに離しやがれ!!」
こうして、白銀と蘭は龍生が買ってきた弁当と、蘭お手製の味噌汁で晩餐を迎えるのだった。




