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軍服を脱いだら、お見合い相手が上官でした――冷徹な大将閣下は男装少尉を逃がさない(※溺愛されています)――  作者: 玖条 レイナ


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第四十六話 必要経費

 三人はそれぞれの立場で捜査を行った。


 亜嵐は常連だという客人や同じボーイに話を聞いたり、顧客名簿などや金銭の流れを調べた。


 白銀と琥珀は店長と話しながら、店の様子をみて回った。


「…………随分と政財界の方がいらっしゃるのね?」


 琥珀が店長に尋ねる。


「おお、さすがは水野様。

 もしや水野様も政財界のご出身で?」


 水野とは、白銀たちが使った偽名である――。

 

「まさか!

 わたくしたちは少しだけ運(・)がよかっただけですわ」


「……なるほど、左様ですか――」


 店長は腕もみをして二人の案内を続ける。


(金払いがいいから政財界の人間かと思ったが、どうやら違うらしい――)


(こんな上客めったにいないぞ! 逃さないようにしなければ――)


「そ、そう言えば水野様。何かご入用なモノはございますか?

 私どもが何でも揃えてみせますよ!」


「……なんでも? それは人でも物でもなんでもいいのか?」


「はい! それはもちろん!」


(きた! ここで畳み掛ければ――!)


「まぁ、金額次第――と言うことにはなりますが……ね?」 


「……そうか」


 白銀は頷く。


「……では、あのボーイはいくらだ?」


「へ? あの新人ですか?」


「ああ、家の屋敷で使用人がいなくなってしまってね。人手が欲しい――」


「なるほど……! あの新人は今日来たばかりでまだ何も仕込めていないのですが……。

 そうだ! そこの女給はどうですか? いい娘が揃ってますよ!」


(あの新人、男にしては顔も可愛いし覚えもいい――)


(色々仕込んで男色家にでも売ろうと思っていたが――)


「…………女に興味はない――」 


(はっ! もしかしてコイツ、男色家(そっち)なのか!?)


(予定は狂ったがちょうどいい……!)


「……そうですね、二百円……ほどでしょうか?」


(ぐふ、多少盛ったがこれでどうだ――!)


(八十円で買ったから、最低百円くらいで売れてほしいが――)


「……なるほど、分かった。

 今すぐに支払おう――。姉上――」


「ええ、これでいいかしら?」 


「へ……?」


(そ、即決……だと……!?) 


「か、確認しますので、少々お待ち下さいませ――」


 店長は琥珀から金を受け取ると、慌てて事務所に戻っていった。



「…………捜査はもういいのかい?」


「ああ、参加者の顔は覚えた――」


「それにしても龍也、実は蘭を買い戻したかっただけだろ?」 


「……何を言う。潜入捜査員を回収しただけだ。

 ――必要経費だろう」


「ふふふ。そういうことにしておいてあげるよ――」



✕✕✕


 数分後――。


 店長に呼ばれた亜嵐は絶句していた。


「いやぁ、入店したばかりで申し訳ないけどね、キミの買い手が決まってね――」


「…………………………え?」


「キミは優秀だったから、私としても非〜常に残念だがね?

 ――早速だけど、例の太客のところに行ってきてよ」


(太客……? 龍也たちのことか?)

  

「ああ、その服は餞別だ! 着て帰ってくれ?

 あのみすぼらしい服で、キミを送り出すわけにはいかないからね――」


「…………は、はぁ……」   


 亜嵐は荷物をまとめるように言われた。


(くそ……、もう少し捜査したかったんだが……)


(龍也の意向ならしょうがないか――)


「……荷物、まとめ終わりました」


「うむ。では行くか――」


「……はい」



✕✕✕




「で、結局オレはいくらで買われたんだ……?」


 違法賭博場から帰宅する馬車の中で、亜嵐は不機嫌そうに白銀を睨みつける。


「…………二百円だ」  


「…………なっ! またそんな大金で……!」


「想定より安かった。むしろ、安すぎる……!」


 白銀は握り拳を震わせていた。


「亜嵐。当初、龍也は八万円でキミを買い戻そうとしていたんだよ?」


 琥珀が悪戯っぽく微笑む。


「なっ! 八万!?」


「お前の価値は、八万でも安すぎるくらいだ――」


「クス、明日の陸軍の噂はこれで決定だね!

 蘭(妹)は十五万円、亜嵐(兄)は二百円で白銀大将が買った――! ってさ!」 


「お、オレは……。商品じゃなーーーーい!!」


 帝都の夜空に、亜嵐の叫びが虚しく響いていた。



✕✕✕


 白銀邸に帰宅すると、琥珀からの贈り物が届いていた。


『そうだ。預かっていた亜嵐少尉の制服を龍也の屋敷に届けておいたよ。

 それと、蘭(・)にボクからの贈(・)り(・)物(・)も届けさせたから、楽しみにしててね』


 別れ際の琥珀の言葉が思い出される。


「…………これがお義姉様が言ってた贈(・)り(・)物(・)か?」


「…………おそらくな――」


 玄関先で二人が首を傾げていると龍生がやってきた。


「おかえりなさい! 任務どうだった?」


「…………それなりに収穫はあった」


「お、蘭ちゃんもお帰り」  


「た、ただいま帰りました」   


「あれ? 蘭ちゃん、ウサギさんじゃなかったんだね?」


「ウサギ?」


「う、うん! 稜――」


「わ、わ! なんでもないよ!

 じゃあボクはこの琥珀様からの荷物を蘭ちゃんのお部屋に運んだら帰りますねーー!!」


「龍生副官――! オレがやるから――」


「蘭、やらせてやれ。

 それがアイツの仕事なのだ――」



✕✕✕



 龍生が帰宅し、静かになった白銀邸。


 蘭は自室で琥珀から贈(・)り(・)物(・)と対面していた。


「な、なんだ……!? これは!!」


 蘭は菫色の瞳を丸くしていた。


 ウサギ、と思しき動物をかたどった黒色の長い耳がついた髪留めに、黒いピチピチした洋服。その後ろには白いしっぽがついている。


「この服、妙に薄くてたくさん穴空いてるし……。

 ん?」


 その時、ひらりと何かが落ちる。


「…………なんだこれ?」 


 それは『愛しの蘭へ』と書かれた手紙だった。

 蘭はその手紙を拾い上げる。


『拝啓 麗しの蘭様


 潜入捜査で必要になるかもしれないと思い、急ぎ仕立てました。

 もし潜入に使わなくても、一度着てみて感想を聞かせてくれると嬉しいです。


 貴女の頼りになる美しい姉 琥珀より

 

 敬具』


「な、な、な! なんだこの手紙は……!?

 着るって! オレがこ(・)れ(・)を着るのか!?」


 蘭が手紙を上に放り投げると、もう一枚出てきた。


『追伸:サラシは必ずほどいて着るように』


「………………お義姉様はいったい何を考えているんだ……?」


(でも……、預かってもらっていた軍服も綺麗に折り畳んであったし、ほつれも直されてた……)


(…………今度会った時にお義姉様にきっと着たか聞かれるよな……)


(あと、実はちょっとだけ――ほんのちょっとだけこの衣装がどうなっているのか気になる――)


「………………少し……、だけなら――」



✕✕✕



 蘭が悶々とバニーガール衣装に立ち向かっている頃、白銀は龍生の言葉を思い出していた――。


『……龍也、バニーちゃんじゃなくて残念だったね。実は少〜しだけ、楽しみにしてたでしょ!』


「くそ――! 稜のヤツ、いい加減なことを、言いおって――」


 白銀は深くため息をつく。


「俺は――、どんな蘭でも、蘭さえ無事なら関係ないというのに……」


 そして、ふと気がつく。 


「そういえば、俺としたことが蘭からの捜査情報を聞いていないではないか――!」


(明日、大将執務室で聞いてもよいが、亜嵐は俺の書生だ。今聞きに行っても問題あるまい――) 


(それにしてもボーイ姿の蘭も新鮮でよかった――)


(だが、俺には、賭博場にいた全員が蘭に色目を使っていたようにしか見えなかった――)


(何か変なことをされていないか、捜査情報のすり合わせとともに本人に直接確認しなければなるまい――)


 白銀は水を得た魚のように、蘭の部屋に向かった。



✕✕✕



「うわぁ~……、なんだこれ………………」


 蘭は鏡の前で赤面していた。


 琥珀に言われたから、という建て前と、少しの興味でバニーガール衣装を着てみたものの――。


「苦労して着てみたけど……、なんでこんなに露出が多いんだ!?」


 鏡の中の蘭は胸元と足の付け根に深いスリットが入った黒いピチピチのスーツ。頭には黒くて長いウサギ耳。そして、網目の細い網タイツを着用していた。


「………………これは、絶対に人前では着られないな――」


 蘭はクルリと周り、鏡に映る白い尻尾を見つめた。


 その時―― 


「蘭。そう言えば、賭博場での情報共有を失念していた。直接顔を合わせて情報のすり合わせをしたいのだが……、入るぞ」 


「え? 龍也――!? ちょっと――」


 ノックもそこそこに部屋に入ってきた白銀と、バニーガール姿の蘭の目が合う。 


「なっ………………!!」


 あまりの衝撃で呼吸が止まる白銀。


「わっ! わっ! わっ!

 こ、これは、琥珀お義姉様がぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」


 顔を火山のように真っ赤にして言葉を探す蘭。


「っていうか! 見るなよぉぉぉぉぉ!!!」


 蘭はベッドの枕を鷲掴みすると、白銀に投げる。


 呼吸は止まっていても、そこは陸軍大将。

 枕を華麗に掴んだまま、蘭から視線が外せない。


(蘭、お前はいつも俺の想像以上のことをして俺を狂わせる――)


「うわぁぁぁぁん! 枕返せよぉぉぉぉぉ!」


 涙目になりながら理不尽な叫びをあげる蘭であった。


「龍也のバカァァァァァァァァァ!!!」




ご覧いただきありがとうございます!


男装ボーイの亜嵐を他の男の視線から遠ざけるため、店長に大金を差し出して「即決買い取り」という強引すぎる回収を行った白銀大将!


「妹(蘭)は十五万円、兄(亜嵐)は二百円で買った」という新たなイジリの種を作られながらも、ひとまず無事に帰宅を果たした三人でしたが……!


白銀邸に届いていたのは、琥珀お義姉様からの「仕立てた衣装」と「サラシは必ずほどいて着るように」という危険すぎるメッセージ。


「少しだけなら……」と持ち前の素直さと好奇心でバニーガール衣装を身に纏ってしまった蘭ちゃんでしたが、そこへ運悪く(白銀大将にとっては絶好のタイミングで)情報のすり合わせを言い訳に突入!


あまりの破廉恥さと可愛さの衝撃に呼吸が止まる白銀大将と、顔を真っ赤にして「見るなよぉぉぉぉぉ!!!」と涙目で枕を投げつける蘭ちゃん!


理不尽な叫びと甘すぎる地獄絵図で幕を閉じた今回の46話でしたが……!


【★次回予告★】


第47話『金で買えるもの』!


翌朝、昨夜の“事件”のせいで超ご機嫌な眩しい笑顔の白銀大将と、あの格好を晒され続けて超不機嫌&殺気立っている蘭(亜嵐)ちゃん!


極端すぎる温度差に副官の龍生も「名探偵の出番では!?」と野次馬根性を燃やす中、軍の対策本部では「帝都五大美人の一人」とされる6人目の令嬢失踪が報告される。


潜入捜査の報告で堂々と手柄を挙げる亜嵐と、裏でコソコソ動く黒田中将&灰島少将を一蹴し、「大事な婚約者の兄に何かあれば困る」と強烈なクギを刺して亜嵐を守る白銀大将!


そして、事件の影に見え隠れする「顧客リストに載っていた幼馴染・皇公爵」の存在――。


真実を確かめるため、一人で立ち向かおうとする亜嵐に、白銀大将が提示した“ある約束”とは――!?


白銀大将の過保護な男気と、事件の核心へと迫るシリアス&甘い攻防をお楽しみに!


「バニー蘭ちゃんとの鉢合わせが最高すぎる!」「大将の理性が奇跡的に保たれて(?)よかった!」と思ってくださったら、下にある【ブックマーク】や【星の評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!

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