表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第1話 その女神、クソである。

 話はプロローグの三日前、瀬戸がまだ日本にいた頃である。

 ものすごい猛暑に耐えられずアイスを買いに行くが・・・

 時は3日前に遡る。


 耳をつんざくセミの聲。

 滴り落ちる汗。

 いくら窓を全開にしても入ってくる気配すらない風。


「あちぃ・・・」


 今にもとろけてしまいそうな瀬戸。

 耐えきれずエアコンのリモコンを取る。


「もう我慢できねぇ・・・あれ? ちょっと待て・・・まさか・・・?」


 ボタンを押すたび音は聞こえてくる。

 吹出口の羽も開く。

 だが、それからは冷気どころか風すら出てこない。


「あ・・・わかりました・・・もういいです・・・」


 諦めてパンツ一丁のままベッドに横たわる。

 心頭滅却すれば火もまた涼しとは口では簡単に言えるが、現実はそんなに甘くない。


「もう限界。コンビニで涼みがてらアイスでも買うか」


 近くのコンビニに行きアイスを買う。

 いつもは高くて手が出せないが、熱さを紛らわすためちょっとお高級なアイスの特大サイズを選んだ。


「あー、アチぃ。家につくまでに愛しのパゲーンダッシュが溶けちまう。走るか。」


 それは店を出てある程度したところでおきた。

 近道をするために人気のない路地裏を通った瞬間、足元がすり抜けそのまま闇へと飲み込まれた。

 

 一瞬のこと過ぎて声すらでなかった。

 気がついたらそこは真っ白な何も世界だった。


「あれ? 俺今・・・何があったんだ?」


 手元には後生大事に持っていたはずのアイスもなく、今の状況も把握できてないが、とりあえず前へ歩くことにした。


「周りに何もなくてどこに向かってるのかわかんねぇな・・・。てかそもそも進めているのか?」


 あまりの白さに頭がおかしくなりそうになっている時、前の方から何者かがやってきた。


「もしかしてあなたが瀬戸信さんですか?」


「はい、そうですがあなたは・・・?」


 目の前に現れたのはまごうことなき天使だった。


「申し遅れました、ワタクシ女神様にお使いしております天使のマルタと申します。なぜあなたがここにいるのか、説明を女神様がしてくださるので、そちらまでご案内いたします。」


 天使やら女神やらちんぷんかんぷんな瀬戸は思考停止状態で気がつけば女神の前にいた。


「やっと来たか。遅かったぞマルタ、何をしていた?」


「す、すみません女神様。思ったよりも遠くで迷っていたもので・・・」


 天使はイライラしてる女神に怯えてるようだった。

 女神は大きな人の形をした光から左右4本ずつの羽をはやしたまさに神という見た目で、その大きさに見合う巨大な椅子に座っていた。


「あ、あのー。ここはどこで、なぜ俺はこんなところにいるのでしょうか?」


「私の神聖な部屋を『こんな』ところだと!? アホ! 貴様、失礼な人間だな! まぁよいか、人間ごときには理解できないだろう・・・。」


 (この女神、神のくせしてちと乱暴だな・・・。しかもなんか俺のこと小馬鹿にしてないか?)


「えーキサマがここにいる理由だが、こちらの不手際でキサマがくたばっちまったから、一旦ここへ連れてきたんだ。」


「不手際・・・といいますと?」


「あーなんというかその・・・バグみたいなやつだよバグ。お前ここに来る前の記憶はあるか?」


「あ! そういえば、路地裏を通ってるときにいきなり地面に沈んで・・・あ、俺のアイスちゃん・・・」


 自分が死んだという事実を受け止めながら、この場所へ来る直前の出来事を思い出していた。


「そうそれがまぁバグってやつだ。本来・・・なら・・・お前は・・・地獄行きなんだが・・・」


 話している最中に何かを咀嚼しているように言葉が止まる。よく見ると女神は生前に瀬戸がかった高級アイスを頬張っていた。


「あ!! 俺のアイス!」


「ん? これか? 助かったぞ。ちょうど甘い物が食べたかったんだ。この衣の食感が何とも言えんな・・・」


 特大サイズのアイスを容れ物ごと食べる女神。


 (くそう・・・なんか異様に腹立つなこいつ・・・)


 瀬戸の遺産を食べつくすと本題に入った。


「ふぅ、うまかったぞ。それはさておき、お前の今後のことだが・・・。お前には、二つの選択肢がある。」


「二つ・・・?」


 だんだん女神を覆っていた光が消え、人間サイズになりその姿を表した。

 そして、瀬戸の近くへと歩み寄る。


 (あれ、こいつ案外美人じゃねぇか・・・)


「一つ、地獄へは行かず元の世界で生まれ変わる。二つ、とある別の世界へ転生して魔王を倒す。」


 (ん~魔王ってあれだろ? ものすごっく残酷でとんでもなく強いやつ。そんな世界この俺が長生きできるとは思わねぇ。ここは無難に・・・)


 しばらく考えた後、女神へその答えを示す。


「あ、一つ目でお願いします。来世で平凡に生きたいです。」


 不敵な笑みを浮かべて女神はこういった。


「ほほぅ・・・ま、私はいいが。では今から前の世界に転生させるが何か言い残すことは?」


 転生の儀式が始まったのか瀬戸の周りに魔法陣が現れ、体が光を帯び始める。


「あ、俺の来世って男ですか? 女ですか?」


 (もし女だったらどんな見た目になるんだろう? 美人で巨乳がいいなー!)


 そんな期待を膨らますが、現実はそんなに甘くない。


「えーと、どうやらメスみたいだな。」


 (メス? 女ってことかな・・・?)


 女神が続けて言う。


「ヒヨケムシのメスだ。」


「チョーっと待った――!!」


 魔法陣から逃げるように飛び出る。


「なんだ、またやり直しじゃないか!」


 舌打ちをして残念そうな顔をする女神。


 (ヒヨケムシってあれだよな・・・大きくてくちばしみたいなのがついてる蜘蛛・・・そんなの嫌だー!! しかもメスってことはそんな気持ち悪い虫に寄ってたかられるってことじゃないか!!)


「すみません、やっぱ異世界で魔王を倒します!!」

 

 魔王を倒せるかどうかは瀬戸にはどうでも良かった。ヒヨケムシになるよりはマシと思いもう一つの選択肢を選ぶ。


「たく、仕方のないやつだ。まぁ今回はこちらの不手際でこうなったんだ。出血大サービスであっちの世界でのステータスをお前が割り振っていいぞ。あと、向こうで魔王を倒せば次の来世も人間が約束される。ただし、倒す前にくたばったら即ヒヨケムシだから気をつけろよ。」


 (ステータス?? そんな物があるのか。まぁ魔王がいるくらいだしおかしいことはないな。魔王を倒せば次もヒヨケムシにならなくて済むのか。)


「あのー。ステータスがあるってことは、レベルや魔法使いとか戦士とかの職業みたいなものもあるってことですかね?」


「ああそうだ。たしかお前は・・・うん、戦士みたいだな・・・多分。」


 最後に不穏なことを言っていた女神だが、もともとゲーム好きの瀬戸は職業があるということを聞いた時点で興奮して聞いていなかった。

 薄いガラスのようなものを渡された。どうやらこれでステータスを振るみたいだ。


「戦士か・・・ん~迷うがやはりここはSTR極振りが安定かなー。お、レベルアップ後のステ自動振り機能もあるのかー。これもとりあえずSTR極振りに設定しておこう。」


《こちらの機能は一度設定すると、変更することができません。よろしいですか?》


「なんだ? この音声。」


「あぁそれはお前のメニューのナビゲーターだ。一応意思があるから仲良くしろよ?」


 この薄いガラスのようなものはメニューと言うらしい。


《どうぞ、よろしくおねがいします。》


「こ、こちらこそ・・・。せっかく出し名前でもつけるかー。お前は今日からナビ子な!」


 なんとも安直な名前をつける瀬戸。あまりのネーミングセンスに女神も苦笑い。


「よしっと。女神様!ステータス振り終わりました!!」


「じゃあ向こうへ送るぞ。おまけで、せいぜい悪あがきしろよ!はっはっは・・・は?」


 再び瀬戸の体が光に包まれ魔法陣が光りだし、いよいよ転生されるという瞬間。


「あ、お前魔法使いだったわ!すまん、すまん(笑)」


「え、待ってください。そんな!! あーー!!」


 瀬戸の視界が真っ黒になり、再び光を取り戻すとあたりは深い深い大森林だった。


「あのクソ女神―――!!」





ーーーープロローグまであと2日ーーーー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ