親というものは……
記録として残しておく。
魔王様(♀)は歌が好きだ。
天才を感じたためしはないが、人並み程度には音を外さず歌えるし、今もよく泣いて腹筋が鍛えられているせいか、声はよく通る。
だから、なのかは知らないが、歌が評価されている映像などを見ながら、そういう舞台に憧れるようだ。
基本、好きなのは女性シンガーである。しかも洋楽にやたら憧れる。
アニソンとかまったく歌わないのに、洋楽は英語が分からないままの、怪しい宇宙語で独自の世界を歌う。なんなら日本の童謡とかも"英語"と自称する宇宙語で歌いきる。
英才教育を施したがる親なら、色めきたってボーカルレッスンと英会話などを習わせるのだろうか。
まぁうちの場合は特にナニカの資料を請求したりもしないのだが、それにしても、そんなに英語の歌が好きなら、歌詞くらい覚えてみたら?とは思ったりもする。
その辺が、俺と同じアーティストが好きでも、そのアーティストの何が好きかが俺とは全然違う嫁とは、考え方が違うところだ。
俺の場合、歌は歌詞で気に入る。嫁の場合は歌をフィーリングで気に入る。
文字から入る俺と、感覚で判断する嫁の違いは面白いところで、嫁はパンと写真を撮ったかのように曲を記憶するのでフレーズなどは一瞬で覚えるのだが、細かい歌詞はいつまでも覚えない。逆に歌詞から入る俺はなかなか歌を覚えられないのだが、一度覚えるとインターネットの検索機能のように曲が染み付く。
どちらがいい、というわけではなく脳の使い方の違いなのだろう。
ともあれ、だから宇宙の言葉で歌っている魔王様(♀)に、「せっかくだから歌詞を覚えたら?」という気にもなる。
自由でゴキゲンに歌ってればなんでもいいんだろうけど、歌詞が好きで曲が好きになる俺としては、歌うなら洋楽だって字面を追いたい。
最近、魔王様(♀)はセリーヌディオンの『My Heart Will Go On』が気に入っている。
タイタニックのテーマね。興味がなければ「もう一回聞かせて」といわない娘が、何度もアンコールを要求するのだから気に入っているのだろう。歌おうとしてもいる。
俺は「せっかくだから」と、さっき、歌詞をカタカナにして一曲分写してみた。
この歌をセリーヌディオンは単語一つ一つをはっきり発音しているから、カタカナで追えば魔王様(♀)でも歌えるんじゃないだろうか。そう思いながら。
ちなみに。
かなり昔になるが、魔王様(♀)がまだ四~五歳の頃、別の歌でそれをやったことがある。
当時彼女はカタカナも読めなかったので、英語をひらがなにするという暴挙にでて、一曲分写してみた。このカタカナ歌詞を見ていて、その時の記憶が鮮明に蘇る。
「ほとんど興味を示さなかったナァ……」と……。(笑)
もっと幼かったからかもしれないし、そもそもちゃんと歌えること、それ自体には興味がないのかもしれない。嫁がそうだし。
だから、このオリジナル歌詞カードはあるいは無駄になるだろう。
親が時間をかけて用意しても、子供というものは知ったことではない。
それでも、子供のために時間を割いてしまう。
ある親は子供の才能を信じて。ある親は子供の喜ぶ顔に期待して。ある親は子供が生きやすいようにとのお節介で……。
よかれと思って、親は無駄な時間を子供に費やす。
親というものは、そういう生き物なんだろうな……。
そういや、覚えがあるわ。自分の親の、余計なお世話(笑)。
それを、愛情だったんだと気づくのは、これくらいの歳月がいるものらしい。




