憧れのレーベル
作家デビューのためにこうしなさい的な文章を、ショーケースの中のトランペットに憧れる少年のようなまなざしで見ていると、たまにこういう文言がみられることがある。
『憧れのレーベル~~』
~~の部分は、"に投稿しなさい"だったり、"の傾向を見て"だったり、とにかく自分の目指したい出版社に照準をつける……という話の時、この『憧れのレーベル』という言葉はよく目にする表現だ。
だけど、プロになりたい奴に聞きたいんだけど、『憧れのレーベル』『デビューしたい出版社』なんてあります?
いやもちろん、中小より大手がいいとか、ちゃんと宣伝してくれる体力のある出版社がいいとか、あるとは思う。しかし、例えば大手を横並びにした時、あなたには「出版社はここでなければいやだ」という理由はありますか?
例えば、「『めっちゃ売れた物語(仮名)』が出たあのレーベルに憧れる!!」とか思うのだろうか。
でもそれ、『めっちゃ売れた物語(仮名)』はその出版社じゃなければ鳴かず飛ばずであるものだったのだろうか。仮にそうだとしてもそれを計る術はない。どれほど出版社の力で引き上げたか分からないのだから、その『めっちゃ売れた物語(仮名)』と肩を並べる意味をあまり感じない。
あれかな。同じレーベルでデビューできたらその筆者に会えるかもしれないから!ってくらいファンならアリなのか。
一方で、「あの出版社は新人にも親切で、ちゃんとサポートしてくれるから!!」とかが理由の場合……
……それ、その情報、どこで知るの?
普通、出版社の内実などデビュー前のアマチュアは知る由もない。そんな状態で「A社よりもB社に憧れる!」みたいなのはあるのだろうか。
私はこの、『憧れのレーベル』『デビューしたい出版社』というのがどうもしっくりこない。出版社の筆者に対する本当の態度は契約書を取り交わす段階まで分からないと思うし、心ゆくサポートが受けられるかも、それは出版社がどうというより、自分をメンドウ見てくれる編集者によるんじゃないかと思ったりもする。
例えば出版社御三家を並べて、書店のコーナーの区画の広さにそれほどの差があるとも思えないし、それよりも水面下の営業方針を、今の時点での私たちが知ることはない。のではないか……?
いったいみんな、何をもって『特別デビューしたい出版社はここ!』と思うのだろう。
私は、私をアツくさせてくれるパートナーであれば大手でも中小でもどこでもいい。金なんざ後からついてくるものだから、内情が厳しければ大した実入りがなくてもいい。相棒と呼べる編集者とタッグを汲んで、世間に物語を送り出していきたい。みたいな事を思っているし、そういう考えって、作家という名の芸術家(他の要素が無能(笑)。ただ純粋に描いてるのが楽しい人)の中には結構多いんじゃないかと思ったりもする。
しかし、そういう純粋な気持ちを食い物にするケースもまた横行しているようで、出版作品の扱いを巡って、結構ひどい話も聞く。
現在プロで活躍されているとある女流作家さんのエッセイで、「デビュー作の印税が支払われないので出版社に乗り込んでいったら、なぜかこっちが悪かったかのように鼻で笑われた」と書いてあったこともあった。
契約書をよく読まずに泣きをみた話も聞いた。そもそも、コンテストではなにも語らず、「受賞の取り消しはできません」とだけ釘を打ち、いざ受賞すると、思いもかけない(不当な)条件が課せられているモノもあるようだ。
うちの子に限って(笑)、そんなことはないと信じたい気持ちは分かるが、アマチュア作家なんてほとんどが出版業界に対する素人で、出版社はすべての法律を知った上でこちらと対面するプロ集団である。
そう思えばこちらも「なんでもいいから」とも言ってられなくなってしまうが、繰り返すけど、だからとて出版社の"正体(内実)"が今の時点で分かるわけでもない。
だから、どうしてみんな、『憧れのレーベル』を設定できるんだろうか。
私はそれがどこでも、拾われればそこで全力を尽くすけど、そこがいい場所であるかどうかは……一生に一度、新築のマイホームを購入した場所の近隣住人の質がどうであるかぐらい……運の要素が強いのだろうなと思ったりもする。
『デビューしたい出版社』……俺を本気でアツくさせてくれる場所。オマエらのために命預けたいと思える場所……。
さぁ、どこだよ。




