A mazing Princess あぁ めいじんぐ ぷりんせす (2歳)
「わたしは迷路がやりたいです」
姫(2)が持ってきたのは、いくつもの迷路が一冊になっている絵本であった。
4歳になる魔王様(♀)とは比べ物にならないペースでお言葉を話されるようになった姫(2)は、ですます口調でこそないものの、かなりしっかりと御自分の意思を伝えてくる。
「迷路がやりたいのです!」
「あ、はいはい、わかりました。どうぞ」
「あなたと一緒にやりたいのです!!」
「は、はい! わかりました!」
ページをめくれば、春夏秋冬をテーマに構成されている迷路は四季折々の風景を映し出し、色とりどりの色彩で描かれていて趣がある。人間の絵がちょっとアレなので、
「~~の女の子を捜してみよう!」
みたいなことが書き込まれていても、どれが女の子なのか分からないこともあったりはするが。
もちろん姫(2)はそんな残念な顔面クォリティなどはお気になされない。迷路ができればいいのだ。
「どこからどこへ向かえばいいのですか?」
どこからどこへ向かえばいいのか分からないのに迷路をしたがる姫(2)。
私は見開きページの左上と、右下を指差した。
「この"スタート"と書いてある場所から、"ゴール"と書いてある場所まででございます」
「そう、簡単ね」
……とは言わないが、姫(2)はマッチ棒より短い人差し指をスタートに当てて、すーーっと真直線にその指を滑らせて、指をゴールに到達させた。
「それでは迷路の意味がありません!!!」
「え?」
「壁を通り越してはならないのです!!」
「でも、わたくしはスタートからゴールへ行きたいのです!!」
「いや、ですから、この、白い道だけを通っていくのです!!!」
「なぜですか!!!!」
なぜって……。
それを説明することが、未来の文豪と名高い矢久勝基にも難しい。
「そ、それが……迷路というゲームだからです」
「でも、スタートからゴールへ進むのでしょう?」
「そうですが」
「だから、直線に行けばいいじゃありませんか!!」
「それでは迷路になりません!!」
「なぜですか!!!」
「それが迷路というゲームだからです!!!」
堂々巡り。
「とにかく、壁には当たらないように行かないといけません」
姫(2)は、ほんの少ししてから納得したようだ。
もう一度スタートに指を乗せると、今度は指を本からぴょーんと離してゴールへ到着……
「いけませぬーーー!!!」
「壁に当たるなというからジャーンプをしたのです! なにが悪いのですか!!」
「それでは迷路の意味が(以下略)」
「……」
「とにかく、通っていいところは白い道だけなのです。姫(2)も公園とかに出かける時に、前に車とかがあっても乗り越えてまっすぐは進みませんよね!?」
必死の説得。なんとかご乱心している姫(2)の平静を取り戻さなければならない。
……そんな押し問答を繰り返し、とりあえずなんとなーーく白い道を通っているように見えなくもない道順を辿って、ようやくゴールをした姫(2)が、次のページをめくる。
そして、驚愕した。
「道が、ない!!」
なんと次のページは、浮かぶ島々をくぐり抜けて海峡を往く船の迷路だったのである。海なので、当然通路は青い。
「今度は青い道を通ればよいのです!」
「さっきは白い道しか通れぬと言ったではありませんか!!!」
「……」
嘘のように思うかもしれないが、脚色は2割くらいしかない。ほぼすべて、2歳児がライブで話した言葉だ。2歳児すげぇ……。(※ですます口調だけはイメージです)
とにかく、そのような不毛なバトルを繰り返した挙句、とうとう最後のページの迷路をジャーンプでクリアした姫(2)は、裏表紙まで自分で閉じると、すぐに本を表紙へとひっくり返し、言った。
「もう一回初めからやりましょう」
「今のでホントに楽しかったんですかーーーーー!?」
「とっても楽しいです!!」
直進とジャーンプを繰り返すだけの姫(2)の迷路。彼女はそれでも、それを三週繰り返すほどに楽しいらしい。
すっかりスレてしまい、人生のなにが楽しいのか忘れてしまった自分の心を振り返り……姫(2)が少しうらやましくも思う。




