"才能で生きる"ということ
小さな頃は、誰もがなにかの才能を持っている。
部活動で死ぬほど励んできたスポーツ。泣くほど頑張った習い事。意味もわからずやらされ続ける勉強。ただただ好きで幼い頃からやり続けた趣味。
……多少でも得意だったものはきっと誰もに存在する。
でも、社会に出ると、まるでそれまでの過去は夢物語であったかのように御破産して、皆、それらの才能を活かすことなく生きてゆく。
高校で甲子園まで行っても、大学で法学を学んでも、気がつけば同じ仕事場で、それらの才能を一つも使うことなく同じことを行い、会社のルールにのっとって生きている。
人間の平均化。ただ……効率のいい者だけが、人とうまくやっていける者だけが、人生をうまく渡り歩く世界が待っている。
じゃあ才能ってなんだろう。何のためにある?
これなに?二十歳までの経験って無駄ってこと?
「無駄になることなんて一つもないよ。必ずその経験が、自分の人生に活きてくるさ」
そう言う賢者の言葉もわかる。実感する部分は確かに多い。しかしそれはあくまで抽象的なものだ。
具体的に、あそこにあった、そこにあった、自分の才能ってなんなの?それ自体は役に立たないものなの?……僕にはそこが、とても疑問なのだ。
もちろん高校球児がみんなプロ野球選手になれるわけではないことくらいわかってる。ちょっとくらい人より優れていても、その「ちょっとくらい」はその世界に飛び込めば普通以下になってしまうことも分かってる。
でも、ならば何のために才能ってあるの?人よりなにかができることに、何も意味はないの?
ほとんどない。これが、今のところの僕の結論だ。
そもそも現在の日本の世の中で大事なのは実力じゃない。
舞台役者の世界で"いい役者"というのは、うまい役者じゃなくて、人が呼べる役者のことを言うらしい。
リラクゼーションマッサージの店で人気ナンバーワンは、マッサージがうまい人じゃなくて、客と一番話が弾む人らしい。
そして以前別のコラムで紹介したように、某テレビ局の局員は断言した。
「いい番組は、視聴率が取れる番組だ」と。
内容が倫理的にアレでも、心に残らなくても、"視聴率が取れる番組がいい番組"だそうだ。
だから、たとえ才能が大きく優れているからとて、活かせる世界とは限らない。
皆、自分の才能を忘れて生きていく。中学の時に一生懸命だったアレも、高校の時にひたすらだったソレも、今になってその頃の話を聞けば、まるで前世の記憶のように遠い目をする。校外でも名を馳せるほどだったスポーツマンのアイツの腹は、今では子供でも生むのかというほどに膨れ上がり、その体たらくを笑えば「今じゃ100mも走れないよ」と共に笑っていたりする。
そういうのを見て、「これはおかしいことなんじゃないか?」と思うのは僕だけなんだろうか。
振り返れば、僕のこれまでの人生は、そのことに疑問を呈し、必死に抗うものだったように思う。
自分ができること、できたことがすべて、役に立たないことだと思うことが欲張りな僕にはどうしてもできなかった。
才能で生きていきたい。天才じゃなくてもいい。実際僕にはモーツァルトのような閃きもないし、宮沢賢治のような研ぎ澄まされた感性もない。
でもだからとて、せっかく持って生まれた自分の特性を、何もなかったことにして生きていくことには疑問しかなかった。だってそれ自体が自分自身なのに。自分自身を捨てて生きることが、どうして自分を活かした人生だといえるのかと。
僕には本当に突出した才能はない。僕の才能を買ってくれる人もいるけど、諦めが悪いだけなのだ。「ちょっとできたこと」にいつまでもいつまでもがっついてしがみついているから、そりゃ、多少は慣れてうまくもなる。一つのゲームソフトで5年遊ぶことのできる子供だったのだ。
才能は突出してない。だけど、そんな凡人の僕でも、100個作品を作れば1つくらいは人に見せられるものができる。
10年続ければ、20年続ければ、打率を上げることはできる。
凡人の僕でも、ひょっとしたら才能で生きていくことができるんじゃないだろうか。
思えば、僕が現在営んでいる自営業も、自分の才能を頼みにしたものだ。
長く続けて"打率"もだいぶあがってきたように思うが、それでも年度末に確定申告書を見れば毎年絶望しすぎて笑う。「よく生きてるな」と。
長く続けても、才能一つで生きていくというのは、それほどに厳しい。
多少の才能など、犬のえさにしかならない現実。
だけどいつか、「凡人でも才能を信じ続けて生きていけば、必ずそれを活かすことができるようになるんだよ」といえる日が来るだろうか。「だから頑張れ」と人を励ますことができる人になれるだろうか。
日本という国の"平均化"のレールに抗って、そんなことに人生を賭けるにはあまりにリスキーなのだが、気がつけば僕の人生はもう、一からやり直しはできないところまできてしまった。このまま、打ち上がったロケットを切り離したような勢いだけで、どこまでやれるだろうか。
「努力は実る」といえる人になるのか。「才能なんて無駄なものだ」と呟くだけのジジイに成り果てるか。
……時間切れまで、走り続けなければならない。




