嫉妬
外へ出ても注目は美男美女の黄蝶と夢次だった。
人々の視線と囁き声が聞こえ、思わず溜息をつくと冬呀がにっこりと笑う。
「すごいですよねぇ、あの二人の影響」
「そうですね」
「なんというか……世界が違う?」
思わずその言葉に納得する。そもそも二人の関係がわからないのだがそれはあちらからすれば、こっちにも同じことがいえると思う。名前しかわからぬままなぜ歩いているのかも謎だった。
「黄蝶が最近、機嫌の良い理由がわかりました。どこでひっかけてきたのやら」
「むしろひっかけたのは夢次殿の方では」
「聞こえてるぞ」
明らかに不機嫌な声で振り返った夢次に思わず後ずさる。苦笑いで誤魔化していると、ぽかりと良い音がした。
「いたっ」
「失礼しちゃうわ」
どうやら黄蝶が冬呀の頭を叩いたらしい。叩かれた部位を撫でている冬呀に、どちらが優劣なのかは一目瞭然。
「どんな関係だ」
「幼馴染らしいです」
夢次の言葉に、先程教えてもらったことを伝えれば、なるほどと納得する。
そのまま言い合いながら冬呀と黄蝶は歩き出すので、そのあとを夢次と並んで歩くことになる。
騒いでる二人とは裏腹に無言の空気が重くて、必死に話題を探す。
浮かぶのは黄蝶と夢次の関係ばかりでもう泣きたくなる。
「なんで仕入れ先の息子といたんだ」
ぽそりと呟くような質問。彼も同じことを考えていたのだと少しほっとする。
「仕事の話をしていたらちょうどお昼になったので、一緒に食べることに。それより、どうして彼がうちの仕入れ先の息子だと知っているのですか」
軽く舌打ちする音が聞こえたのでむっとする。
「そういう夢次殿こそ、黄蝶さんとはどうして?」
「たまたま会っただけだ」
「ふぅん。それ、今朝も梅都殿に私となぜいるのかって聞かれた時、言ってましたよね」
「だったらなんだというんだ」
「べつになんでもありませんけれど」
少し皮肉っぽく言えば、彼は黙りこむ。今日はこちらが優勢ということだろうか。
まだ言い合っている二人を見ていると、ふと手を握られる。慌てて彼を見上げる。
「やきもちやいてるのか?」
「はい?」
唐突な質問。夢次はいつもの意地悪な顔だった。それでやってしまったと気付く。また負ける気がしてそれでもと反発する。
「なんでそうなるんですか。おかしいでしょう」
「そうにしか取れなかったが」
「じゃあまずあなたの常識がおかしいと思わざるおえませんね」
「素直じゃないな」
「そっちこそ!」
必死に踏ん張るのに彼には全く効かなかったようで、笑いながら頭を撫でてくる。
もう知らないと反対方向を向くが、その手は握られたままだった。
「いい加減放して下さい」
「迷子になったら困るだろ」
「なるわけないでしょう! 何年住んでると思ってるんですか」
「俺よりは短い」
「そうですね!」
人を馬鹿にする発言しかできないのかと、頭を疑いたくなる。
「仲が良いんですねぇ」
「お似合いですこと」
前を見れば二人がこちらを見て笑っている。聞かれていたのかと思うと恥ずかしくて顔を上げられなかった。
ちらと夢次を見ると、彼も別の方向を見ている。
何を思ったのか二人はそれじゃあと手を振る。
「邪魔しちゃ悪いですから。また!」
そういって小走りに消えていく二人。
一体どこに向かっていたのか結局わからぬまま。
仕事の話は終わっているので問題はないとはいえ、こんな状況に残されるのは気まずい。
そこの空気は察してほしかったなどと人には言えない。
「まぁ。仲良くお帰りですか」
聞きなれた声に振り返れば、蜜柑を抱えた朱院と清院がいた。今朝といい、なぜ皆蜜柑を抱えているのだろう。
「やるな、夢次。最初からそうすればいいものを」
「おい、どういう意味だ。清院」
慌てたように彼は手を放す。やっと解放された手にはまだぬくもりが残っていた。
ふと横を見ればそこは自分の店の前。
ガラス越しに父の姿。
腕を組み仁王立ち。憤怒の形相から思わず叫ぶ。
「ゆゆゆ夢次殿、今日はもうお帰りになられた方がいいですよ! ほら、お仕事がありますでしょ?」
「どうしたんだ、いきなりって」
夢次も気づいたらしく、それでも丁寧にガラス越しの父に向って会釈するとやっと帰って行った。
うなだれる自分の腕にそっと朱院が手を添える。
「きっと理解してくれます」
「理解されても困る……」
その嘆きは届かず、元気よく戸を開け父の気を逸らす彼女たちに溜息をつきながらそっと中に入った。
「やばいね、かなり惹かれてる」
天守閣の最上階。銀髪の男とふんわりとした髪の少女。
男は壁に背を預け、床を見ている。対して少女はきちんと男の方を見て話す。
「なんですぐ動かなかったの?仲良くなる前ならやりやすかったのに」
「だって黄泉守姫がいるだろ?」
「そっかぁ。めんどくさいなぁ」
少女は近くにあった台の上に座ると、足をぶらぶらさせる。
それを見ながら男は懐から輪っかのようなものを取り出す。僅かに射し込む光でそれは鈍く光った。
「仕方ないよ。それに僕の力、今の方が使えるからさ」
「どっち殺る?」
「もちろん黄泉守姫の半身だろ。もうすぐ消えるんだからさ、狙いやすい」
「だね」
笑い合う二人。
ころりとどこからか蜜柑が転がる。
男はそれに向けて持ってた輪を投げる。蜜柑は綺麗に半分になった。
「“役目”から解放されたら何したい?」
楽しげに語りかける少女に、やはりこちらもおかしそうに笑いながら答える。
「真面目に人間やってもいいかもしれないね。あそこより楽しいからさ」
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→壺鈴&父母
「梅納寺の息子と仲が良いんだな」
「そ、そういうわけでは……ただの友人ですから」
「前はあんなに敵対していたのにな」
「……っ!」
「憎しみは愛情の裏返しというじゃありませんか」
「ち、違います!母様! 彼とは本当に……」
「ばいのうじゆめつぐうううううゆるさんんん」
「ほほほ」
「orz」