もうッ、ウチら付き合ってるってことでいいですよね!?
「……ね、ねえ、航太」
買い出しを終えた夕暮れ時。
夕日に染まる通学路を、重い紙袋を提げた二人が並んで歩いていた。袋の中身は、結愛が朝からずっと気になっていた新作ヘアアイロン——今日ようやく入荷したばかりの人気商品だ。売り切れ間際の店に駆け込んで、ギリギリで手に入れた戦利品だった。途中の公園を横切る近道に差し掛かると、遊具のそばのベンチで一休みする親子連れの姿がぽつぽつと見える。
時々すれ違う女子高生や街の人々が、イメチェンした航太の姿を「あの人かっこよくない?」「モデルかな?」とチラチラ振り返っていく。その視線を感じるたびに、結愛の胸はぎゅっと苦しくなった。
(うぅ……分かってたけど! 航太がカッコよくなったらこうなるって分かってたけど……っ!)
「星野、重くないか? それ、俺が持とうか」
「え、あ、大丈夫! 紙袋ひとつくらいウチでも――」
「駄目。女の子に重いもの持たせられないから」
言い終わる前に、航太がぬっと手を伸ばして結愛の荷物をひょいと持ち上げる。
その瞬間、ふわりと航太の体温と、いつもと違う爽やかな香水の匂いが鼻腔をくすぐった。
(ふぇッ……!? こ、香水……!? リオに選んでもらったの……!? っていうか手が触れた……! 近い近い近い顔が良い無理かっこいい……っ!!)
心臓がバクバクと暴れ出し、結愛の脳内はパニック状態だ。
しかし、そんな至近距離の男前に照れれば照れるほど、同時に猛烈な不安が押し寄せてくる。
自信なさげにうつむく結愛に、航太が首をかしげた。
「星野? どうしたんだ? 顔、すごく赤くなってるけど……」
「……う、ウチなんかと並んで歩いてて……変じゃない……?」
「え?」
「だって! カッコよくなりすぎて、みんな見てるし……ウチなんかじゃ吊り合わないんじゃ……ウチ、隣にいて変じゃない……?」
消え入りそうな声で弱音を吐く結愛の前に、航太がハッと足を止めた。
ハンカチを取り出すでもなく、持っていた荷物を地面に置くと、結愛の両肩を優しく、でも力強く掴む。
そして逃がさないように、真っ直ぐな瞳で正面から覗き込んできた。
「変なわけないだろ! ……あのさ、実はこれ、リオさんにアドバイスをもらったんだ」
「えっ……リオ……!?」
「うん。『結愛はカッコいい男が好きだよ』って言われて……。俺、星野にもっとちゃんと見てほしくて、星野の隣に立っても恥ずかしくない男になりたくて……必死だったんだよ。だから、星野以外の女子なんて全然見てない!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!?」
頭の中が真っ白になった。
自分のために髪型を変えて、自分のために悩み、香水までつけて、自分のこと『だけ』を見てくれていた。
リオの後押しと、航太の一途すぎる本音。そのすべてが一気に結愛の心に流れ込んでくる。
(ウチのために……? ウチと仲良くなりたくて……っ!?)
嫉妬も、焦りも、不安も、全部吹き飛んだ。
胸の奥から溢れ出す「好き」の感情が爆発し、結愛の脳内キャパシティは完全に崩壊した。
顔をリンゴのように真っ赤にし、涙目になりながら航太の服の裾をぎゅっと握りしめる。
そして結愛は、逃げるでもなく、爆音で叫んだ。
「〜〜〜〜〜〜ッッ!! もうッ、もうウチら、付き合ってるってことでいいですよね……!?」
「……え?」
「ウチは航太のことが好きですッ! 他の女子に見られるのも嫌なレベルで大好きなのッ!! だから……ウチら、付き合ってるんですよねッ!?」
夕空に響き渡る、結愛の決死の逆確認。
航太は一瞬パチクリと目を丸くした後――その整った顔を、一気に耳まで真っ赤に染め上げた。
「……っ! も、もちろん……っ! 俺は、ずっとそうなりたかった……!」
「……え?」
「星野が好きだ。付き合ってください!」
ストレートな返答。
その瞬間、結愛の我慢の限界が限界を突破した。
「〜〜〜〜〜っっ! 航太のバカぁ……っ!!」
感極まった結愛は、自分から航太の胸へと勢いよく飛び込んだ。
ドサッと大きな音がして、航太の温かい体温が伝わってくる。
「わっ……!? ほ、星野……!?」
驚く航太だったが、結愛が離れないように、背中に優しく腕を回して抱きかえした。
夕日に照らされる二人だけの世界。甘い余韻と鼓動が、静かに重なり合っていた。
◇
翌朝の昇降口。
「——で? 昨日の夕方、公園の近くで抱き合ってたお二人さんは、どういう状況なのかな〜〜〜〜〜??」
靴を履き替えていた結愛と航太の間に、ぬるりと現れたリオが邪悪な笑みを浮かべていた。
「ひゃいッ!?!? り、リオッ!? ななななんでそれをっ!?」
「ふふ〜ん、プロデューサーの目を盗めると思ったら大間違いだよ〜? で? 無事に『お付き合い』は成立したわけ?」
顔を真っ白にして固まる結愛と、真っ赤になって頭をかく航太。
リオは満足そうに二人を交互に見つめると、今度は航太の肩をポンと叩いた。
「ま、合格かな! ……あ、そういえば航太きゅん? 無事に付き合えたんだからさ……いつまで彼女のこと『星野』って名字で呼んでるつもり?」
「え……っ!?」
「次は名前呼び、解禁でしょ〜? 頑張りなよ、彼氏さん♪」
リオがニヤリとウインクを残して教室へ歩いていく。
『結愛』と名前で呼ばれる想像をしただけで大爆発を起こしそうな結愛と、急にハードルの上がった課題にアワアワする航太。
二人してまたしても林檎のように真っ赤になって固まってしまうのだった。
(第二部・完)
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