クラスで人気のギャルにマジレスしたら、まさかの本気で赤面逃走された件
俺のクラスには、絵に描いたような一軍ギャルがいる。
名前は星野結愛。
明るい茶髪の巻き髪に、絶妙に崩した制服、そしていつもきれいに整えられたネイル。
小柄(148cm)で誰にでもフレンドリーで、男子とも「ウケるー!」と距離感近く接する彼女は、まさにクラスの中心だ。
一方の俺、佐藤航太は、特別目立たないその他大勢のモブ男子。
いつもの社交辞令で話しかけてくれているだけだと思っていた……ついこの前までは。
「おはよー航太! 今日の髪型、なんか寝癖っぽくてウケるんだけど!」
ほら、こんな風に。
なぜか最近、星野は俺の席にやってきては、やたらと距離の近い絡みをしてくるようになったのだ。
その日の昼休み。
俺が自分の席で購買の焼きそばパンを食べていると、またしても星野がやってきた。
「ねえねえ航太、ウチのネイル新しくしたんだけど、どう? 超かわいくない?」
そう言って、星野は俺の目の前に自分の手を突き出してきた。
確かに、淡いピンク色ベースに小さなストーンが乗っていて、彼女によく似合っている。
「うん、とても綺麗だと思う。淡いピンクも星野にすごく似合ってるよ」
「ーーっ!? ぁ、ありがと……ってか、相変わらずサラッとそういうこと言うよねー!」
星野は一瞬だけ目を見開いたが、すぐにいつもの派手な笑顔に戻って俺の肩をバシバシと叩いた。
距離が近い。ぶつかる彼女の制服から、甘いシャンプーの香りが漂ってくる。
そんな俺たちのやり取りを見ていたクラスの男子(ニヤニヤ顔の悪友)が、茶々を入れてきた。
「おーう佐藤、また星野さんとイチャついてんのか? お前らマジでお似合いじゃん。もう付き合っちゃえよー」
よくある、高校生のくだらない冷やかしだ。
いつもなら俺が「バカ言うなよ」と流すところだが、今回は星野の方が早かった。
「えー? 何それウケる! じゃあウチら、付き合っちゃう?(笑)」
星野は腰に手を当て、小悪魔的な笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んできた。
「ほら、航太はどうするー?」と言わんばかりの、余裕たっぷりなギャルのノリ。
……いや、普通の男子ならここで「からかうなよ」と苦笑いして終わる場面だ。
だけど――最近の星野は、目が合うと妙にそっぽを向くし、耳が赤いことが多い。
だから今日は、ちょっとだけ本音を確かめてみたくなった。
俺は焼きそばパンを机に置き、椅子に座ったまま、まっすぐに星野の目を見上げた。
「……俺は、それでもいいけど」
「え?」
星野の動きが、ピタッと止まった。
「だから。星野が冗談じゃなくて、本当に付き合いたいって言うなら……俺は、それでもいいよ」
彼女のからかいに対する、ちょっとした意趣返しのつもりだった。
少し困ったように照れ笑いでもしてくれれば、それで満足だった。
だが、星野の反応は、俺の予想を遥かに超えていた。
「え、あ……えっ?」
星野の目が、見たこともないくらい激しく泳ぎ始めた。
さっきまでの「余裕たっぷりな一軍ギャル」のオーラが、一瞬で霧散する。
「え、ちょ……え、ガチ? ガチで言ってる……? え、だってウチ、からかっただけで、えっと……え?」
星野の顔が、みるみるうちに真っ赤になっていく。
それこそ、彼女のつけているピンク色のネイルなんて目じゃないくらい、顔どころか耳の先、首筋まで、綺麗にトマトのように染まっていく。
『ーーーはえ!?!?!?』
待って待って待って詰んだ詰んだキャパオーバー!!!
何いまの!? 航太いまなんて言った!? 「それでもいい」って言ったよね!?
それってつまり、ウチと付き合ってもいいってこと!? ガチトーンじゃん、眼差しが真剣じゃん!!!
違うの! ウチはただ、昨日読んだ少女漫画の『からかい上手なギャル』を真似して、ちょっと距離縮めよって思っただけで!
まさかこんなド直球なストレートが飛んでくるなんて聞いてない!!
男の人と付き合ったことないどころか、手だって繋いだことないのに!!
「あ、あのさ、星野?」
「ひゃいっ!!?!?!」
航太が少し心配そうに顔を近づけてきた瞬間、ウチの脳内会議は完全に爆発した。
近い、顔が良い、無理!!
「え、あ、いや! 違うの! ウチ、その……ちょっと爪いじりたくなっただけだし! そう、爪!!」
ウチは自分の両手を胸の前に突き出し、ガタガタと震える指先を必死に見つめた。
目が泳ぎすぎて、教室の景色がぐるぐる回っている。
「冗談、だし……! ほら、ウチらギャルだからさー、こういうノリとか日常茶飯事っていうか、アハハ……」
引きつった笑い声を上げながら、ウチは一歩、また一歩と後ずさりする。
ダメだ、これ以上ここにいたら、心臓のバックバク音が航太に聞こえちゃう!!
「ウ、ウチ、ちょっとギャル友とギャルトークしてくるから!!! じゃあね!!」
「あ、おい、星野……?」
俺の声を置き去りにして、星野は猛烈な勢いで教室の後ろへとダッシュしていった。
クラスのギャルのグループに飛び込んだ彼女は、机に突っ伏して、両手で顔を覆って完全に小さくなっている。
周りのギャル友達が「え、結愛どうしたの?」「顔ヤバ笑」と騒いでいるのが、ここまで聞こえてきた。
「……からかいすぎた、かな」
俺はぽつりと呟き、残った焼きそばパンを口に運んだ。
でも。
机に突っ伏したまま、萌え袖の隙間からこっちをチラッと盗み見て、俺と目が合った瞬間に「ひゃうっ」という効果音が聞こえそうな勢いで再度顔を隠した彼女を見て、確信する。
クラスで人気のギャル、星野結愛。
彼女は思った以上に――初心で、そして、めちゃくちゃ可愛い。




