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リーディア  作者: シュタイン
第一章 復讐を担う者
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第七話 急襲

 行動を開始する前、悠江(ゆうえ)叶未(かなみ)達が準備と休憩をしていた頃。


「そいや、拳陽(けんよう)さん。今更ッスけど、依頼がきたとはいえ何で精神操作持ちを正規の軍が制圧しないんスか?禁忌指定レベルになってくると上層部が黙ってないと思うんスけど」


 拳陽はガントレットを手入れする手を止めて答える。


「ああ、そこも隊長は教えてなかったのかい…。そうだね、悠江君の言うとおり本来なら依頼が来たとしても禁忌指定ほどの事態は正規軍が相手をするね…。一応は軍属といえど存在そのものがグレーな僕達は普通の犯罪者相手ならいざ知らず、精神操作のように危険でありながら希少性の高い相手は本来、表に任せる案件だ…。精神系の能力を持つ犯罪者は貴重な封武の作成を刑務作業に組み込むことがあるからね…。それを遊ばせておくほど国も余裕はないから…」


「ウチで殺させてる場合じゃないってことッスね。まぁムズいですけどこっちは他人(ヒト)の私怨を背負ってやってて、あっちは御国のためッスからね。でもじゃあなおさら、なぜウチが動けたんスかね?」


「まぁ一つは四災人が動いたからだろうね。あれは放っておくと甚大な被害を生むからね。もう一つは、多分君の考えている通りのことだと僕は思うよ…。上もそして隊長もおそらく確認ができなかったからこそ戸惑っただろうね…。僕の方でも調べたけれど、あれは…」


「俺はほとんど直感的なものでしたけどね。でも正直、今時あり得るのかって思ってますよ。俺らでさえ()()はあるのに」


 悠江が自分の考えた可能性を肯定されて信じられないといった顔を浮かべ、その一方でこれまで能力の隠蔽が露見しなかったことにも腑に落ちたようだ。おそらくは下手な隠蔽よりもよっぽど、完璧で更に捜査の手すら及びにくい想像が難しい一手。

 悠江は意図的なら恐ろしいことだと感じた。細工の跡さえないのなら最初からそのつもりで生まれてきたとさえ言えるのだから。

 異線(レイル)はある程度の遺伝性はあるものの生まれてきた子供がどのような能力を持っているかについては予想がつきにくいことが多い。そのため、水の能力を持つ者同士が結婚しようが水の能力を持った子が生まれてくるとは限らず、反対に炎や全く関係ない能力を持っていることさえある。

 もしも、何かしら別の思惑が絡んでいたならこの一件で終わるはずがない。悠江は少し頭痛を感じながら眉間をほぐす。


「今は僕達に出来ることをしよう…。これ以上の事は今考えることじゃない…」


 拳陽は体調の悪そうな笑みを浮かべながら悠江を諭す。彼は雑兵として命令を忠実に遂行することを信条としている。現場判断が通常の部隊より更に必要な彼らの隊においても、最優先目標を見失わず的確な判断での行動を常に意識し実行している。

 隊内でも軍人として過ごした時間が長いため、自然と皆アドバイスを求める相手になっている。

 だからこそ、悠江も彼の言葉を聞いて今やるべき自分の仕事に意識を傾け他の事柄は後から考えることにした。


「そうッスね。さっさと終わらせて競馬行きたいッス」


「それはほどほどにね…」


───────────────────────────────────────────────


 叶未(かなみ)はトランポリン状になった霧を勢いよく両足で踏み込み空洞の終点地から天井に向かって飛び出す。真っ直ぐ上に飛べば教祖がいる二階の部屋に飛び出す計算となっている。

 悠江は上に向かって右手を突き出して、天井を分解しながら突き進む叶未の後を追いかけるように霧を踏み、跳躍する。

 空洞のすぐ上は教団の大広間になっており、洗脳された教団員が多くいる。突如として大広間の中央の床に穴が空き、高速で広間の天井に向かう飛来物が時間差で二つ現れ、その場にいた教団員は全員がそちらを向いた。

 教団員が阻む間もなく二人は天井に衝突しそうになり、先に飛び上がった叶未は尚も右手を突き出して分解を続けようとする。

 叶未は進み続けて天井にぶつかる間際に教祖の部屋を円形に囲む結界に気付く。結界は階下の大広間天井にまで及んでおり、そのまま行けば二人は結界に激突してしまう。


「大鎌『喰罪(しょくざい)』」


 飛びながら、左手を広げて一言呟きつつ手の中に大鎌を顕現させる。それは国軍が封武をキーホルダー化させて持ち運ぶ技術であらかじめ縮小化していたもので、叶未専用の封武である。

 単純な切れ味でも並の封武を凌駕し、練度の低い防御型の異線敷く者(レイラー)なら簡単にその防御を突破できる。

 そこに叶未のその辺の軍人を上回る剛力と技術が合わさることで鎌は最大の威力を発揮する。

 教祖の部屋に張られた結界もグレネードランチャーによる攻撃もある程度は耐える性能をしているぐらいには強力なもので、簡単に破れるものではない。

 だが、叶未の前ではそれも意味はなかった。


「よっこいせ!」


 少々、間抜けにも取れる掛け声とは裏腹に結界に向かって強力な鎌による一撃が見舞われる。結界はガラスが割れるような音と共に破壊される。

 同時に勢いを無くして宙に留まってしまった叶未をすかさず悠江は霧で押し上げる。再び勢いを取り戻して天井に飛び上がった叶未は結界が破壊され、無防備になった天井を右手を突き出して破壊する。

 

 勢いのままに飛び、教祖の部屋の床を分解しついに叶未は教祖をその両の(まなこ)に捉える。

 部屋には端の方に机と椅子が有り、そこに少しばかり腹の出た男があからさまに怪しいと分かる法衣を着用して座っている。写真の特徴と一致したため叶未はすぐさま教祖だと認識した。

 その反対側の扉の側には大柄でスーツを着込んだ筋肉質の男が立っていた。男は叶未の姿を確認するやすぐに臨戦態勢を取り、異線(レイル)を発動する素振りを見せる。

 

「見ぃつけた!」


 叶未は部屋を一瞥(いちべつ)して、一瞬護衛と思われる大柄な男を警戒するが教祖へと狙いを集中させる。

 護衛の男は背中を向けている叶未をそのまま攻撃するつもりで腕から金属製の鎧のようなものを繋ぎ合わせ、伸ばして突き刺そうとする。


「させないッスよ」


 部屋に銃声が響き渡る。護衛の男の攻撃を遅れて突入してきた悠江が右手に構えた拳銃で妨害する。悠江は部屋に突入してすぐに状況を把握し、自分の役割を瞬時に理解した。

 霧で攻撃を予測して正確に数発撃って、攻撃を阻んだ。

 護衛の男は忌々しげに悠江を睨みながら両手から無数の鎧を生やし、触手のように伸ばし悠江に構わず叶未に狙いを定め腕を突貫させる。

 

 実体を持つ霧を操る悠江は、その触手のような鎧を霧の壁で防いで得意げな笑みを浮かべる。

 

 悠江と護衛の男が瞬きの間の攻防をしている中で叶未は背後を一切気にすることなく教祖を見据え、宙に浮かぶ瓦礫を足場にして教祖の元へ飛び込む。

 広い部屋の中で容赦なく大鎌を振り上げ、その凶刃を教祖へと迫らせる。教祖は慌てた様子で逃れようとするが、叶未の刃が首へと迫りかけた時。


「ハッ!」


 教団の二階部分全てが爆ぜた。


───────────────────────────────────────────────


 同刻。拳陽たちが教団の二階が大きく破損する様子を観測した。


「何?爆破!?」


 葉音が慌てた様子で反応する。事前に悠江から穴を掘って奇襲をかけることは聞いていたが、二階全てが損壊する事態になっているとは思ってもみなかったため、驚きを隠せない。

 

「葉音さん、彼らなら大丈夫…。建物が壊れたのはおそらく向こうの仕業だろうから、僕達は教団員が二人の邪魔をしないように妨害しつつ教祖の逃走ルートを警戒しておこう…」


 拳陽から二人は問題ないことを説かれた葉音は一度冷静になり、一つ頷き意識を戦闘へと切り替える。


「確かに。この程度でやられているわけないですよね。分かりました。できる限り怪我を避けつつ、教団員を足止めしましょう」


 その場で少し舞い、右手の中にエメラルド色の扇子を顕現させる。それはどこか神秘的ですらあり、自然界をそのまま映し出したような儚さすらあった。

 周囲の空気は扇子に支配され、夜の自然をそのまま自らのものにしていた。


「ここでは()()()()()()()()()()()手間が省けるわね」


 教団の敷地を徘徊していた教団員がぞろぞろと南側へ向かおうとしている。数十人はいるであろうそれらを足止めするために拳陽は動き出す。

 

「僕は少し衝撃を抑えないと怪我をさせてしまうかな…?」


 拳陽は白銀色(しろがねいろ)のガントレットを顕現させて肩を回しながら歩み出す。

 

「重傷者と死者は出さないように気をつけたら十分でしょう。この数を無傷で無力化は難しいですし」


「それもそうだね…。それに襲撃も始まったし派手な行動をしても問題ないだろうね…」

  

 二人の存在に気付いた教団員達がそれぞれの異線(レイル)を使って一斉に攻撃を仕掛ける。炎や水、電撃などその他複数の攻撃が迫る。しかし。


「うん…。ここは僕一人で十分そうだ…」


 土煙に覆われたかと思えば、葉音は無傷でその場に留まっており、一方の拳陽はいつの間にか教団員達に距離を詰め、言葉の後に瞬時に数名を気絶させていた。

 残りの教団員は洗脳されていながらも危険を感じ取ったのか距離を取っている。

 

「じゃあ、私は南を足止めしに行きますね。二人が気兼ねなく対象(ターゲット)を始末できるように」


 葉音は少し焦って悠江と叶未を援護しようと考えたが、下手に班を組んでいる二人の援護に入っても連携の邪魔になることは分かっていたので南側の教団員の足止めに行く方が賢明だと考えた。

 教団の本部が爆ぜたことでバレずに始末するという作戦の根本は崩れたものの、西は美穂が完全に塞いでいるため南と東、北に僅かに残してある逃走ルートを使うしかない。

 護衛に阻まれていれば、教祖が隙を突いて教団員を壁にしながら逃げる可能性もあるため葉音が南の蓋の役割を補うことにした。

 教団地下の隠し通路はほぼ潰している上、荷物搬入用に使われていた隠し通路さえも直前に潰しているため、彼らが警戒するのは洗脳した教団員を利用した強引な逃走と僅かに残したルートのみであった。

 だからこそ、教団員の足止めと隠し通路の警戒という二つを行うために包囲する形となった。

 作戦を聞いたときに葉音は全て隠し通路を潰すか一つに絞った方が良いのではと提言したが、ある程度残してある方が警戒心を薄れさせて隠し通路を使わせることが出来ると言われ作戦に賛成した。


 当初の予定とは違ったが、叶未と悠江が依頼を遂行させると信じて葉音はすぐにフォローに回る。

 相手がどれほどの手練れでも二人なら問題ないと思いながら。

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