第72話 触らぬ神に祟りなし
僕は窓の外に目を向けた。
さっきと同じ景色のはずなのに、
どこか少しだけ様子が違って見えた。
空はさらに色を落としたみたいに
暗くなっていて、
雲の境目もわからない。
ただ重く鈍い灰色が広がっていた。
木々は相変わらず風に揺れ、
カサカサカサッと、
今度は確かに、
乾いた音が聞こえてきた。
今頃。
クラスの皆は普通に授業を受けて、
くだらないことで
笑い合っているんだろうか。
そんな想像をすると、
胸の奥が少しだけ騒ついた。
僕はベッドサイドのテーブルに
呪物を置いて、
代わりにスマホを手に取った。
ふいに。
興味深い記事のタイトルが目に入った。
『未知なるウイルスか?』
僕はその記事を読み進めた。
『宿禰市秦町の交差点で、
横断歩道を渡っていた女性が
突然全身から血を噴き出し、
その場に倒れた。
通行人の通報で救急搬送されたが、
搬送先の病院で死亡が確認された。
警察によると、
遺体には目立った外傷はなく、
身元は所持品などから
椋鳥京花さん(25)と判明した。
同様に外傷がないまま死亡した事例が
7月と8月、そして先月にも
確認されており、
警察と保健当局は感染症の可能性も
含めて慎重に調査を進めている』
心臓が早鐘を打っていた。
椋鳥京花が死んだ・・。
死体の状況からしても、
呪いと考えて間違いないだろう。
一体誰が彼女を・・。
真っ先に浮かんだ疑問だった。
確か。
彼女は呪物を探していると言っていた。
一体それはどんな呪物だったのか。
そして。
彼女はそれを見つけ出すことが
できたのだろうか。
いや。
きっと。
彼女はその過程で命を落としたのだ。
何の根拠もなく、
僕はそう思った。
『触らぬ神に祟りなし』
ふとそんな声が聞こえた・・気がした。
了




