第60話 彫像
それは。
鈍い灰色をした蛇の彫像だった。
蛇は自らの尻尾を噛んでいたが、
その輪は僅かに歪んでいた。
どことなく禍々しく、
それでいて不気味だった。
大きさは掌に収まるほど。
ずっしりと重く、
ツルツルとしていて、
ひんやりと冷たかった。
それは石のようでもあり、
鉄のようでもあった。
「これが・・」
「ああ。
砧明日美が持っていた呪物だ」
「・・殺したんですか?」
わかってはいても、
聞かずにはいられなかった。
一文字が「フッ」と鼻で笑った。
「当たり前のことを聞くなよ」
私は大きく息を吸い込んで、
胃の奥から込み上げてくる不快感を
グッと堪えた。
「それより。
約束の金は用意できてるのか?」
「それは・・」
「忘れるなよ。
約束を破るってことは、
嘘を吐くことと同じだ。
それが何を意味するか、
わかってるだろ?」
一文字の目が私を真っ直ぐに捉えた。
私は目をそらして小さく頷いた。
「わかっています・・。
ですが。
お金を支払うのは、
その呪物の効果を確かめた後。
つまり。
関白の願いが叶った後です」
「何だと?」
「これは当然のことです。
関白の求めている呪物の対価として、
報酬を支払うと私は言いました」
「ククク。
可愛い顔をして、
ずいぶんと疑り深いな」
それは以前にも聞いた台詞だった。
私は小さく息を吐き出した。
「これから。
関白の許へ届けます」
「おっと。
そんなに急ぐこともないだろ。
来いよ」
そう言うと一文字は
ゆっくりと服を脱ぎ始めた。
私は呪物をバッグに入れて立ち上がった。
「待てよ。
そう警戒するなって。
この間の件は
合意の上でのことだろ?」
「合意?
あんなことをされるなんて、
聞いていませんでした」
こんな男を
一瞬でも信じた私が馬鹿だった。
平気で人を殺すような人間だ。
いくら外見が源之介に似ていようとも、
その中身はまったくの別人。
「悪かった。
それに関しては謝るよ。
だから。
これからも今まで通り、
良好な関係を続けようじゃないか」
一文字が部屋の灯りを消した。
「金輪際。
あなたに抱かれるつもりはありません」
そう吐き捨てて私は部屋を出た。




