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君の名前を、私が書き換える  作者: 雪見遥
第2章 2022年4月

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幕間 あの日、彼女たちは並んで立っていた

(元の時間軸 2023年3月4日)


 高校入試当日の朝、私はいつも通り、少し早めに会場へ到着していた。空気は冷たく、空はどんよりと曇っていて、まるで灰色の霧が一枚、空に被せられているみたいだった。澄んだ空気が肌を刺すようで、校門の前には、さまざまな中学校から集まった受験生たちがすでに列を成している。周囲をきょろきょろと見回しながら、表情は皆一様に強張っていた。


 私は受験票を手に、昨夜確認した会場配置図を思い出しながら、掲示板の案内に素早く目を走らせる。


「第二試験室……一階の三番目」


 心の中でそう繰り返しながら、会場へ足を踏み入れようとした、そのときだった。肩を、軽く叩かれる。


「えっと……すみません。あの……この試験室、どこか分かりますか?」


 振り向くと、見慣れない制服を着た女の子が立っていた。髪は少し乱れ、目元は赤く腫れている。まるで一晩中泣いていたみたいだった。手には一枚の案内用紙を強く握りしめているけれど、何度も揉まれたせいでくしゃくしゃになり、文字も滲んで見えた。


 私はちらりと視線を落とす。そこには、はっきりとこう書かれていた。


「第六試験室 二階左側 二番目」


 だから私は、指で方向を示し、できるだけ感情を交えない声で言った。


「まっすぐ行って、階段を上がって、左に曲がればあります」


「あ……うん、あ……ありがとう……」


 ぎこちなく頷いた。語尾は曖昧で、言葉が舌に張りついているみたいだった。私は黙って彼女を一瞥する。視線は宙を漂い、立ち姿もどこか不自然で、この場所のすべてに馴染めていないように見えた。


 私はそのまま背を向けた。けれど、心のどこかで、こんな考えが浮かんでしまった。


 ——試験室も把握できていないような人が、本当に高校入試を受けに来たの? こんなの、最初から準備不足じゃない。


 私は振り返らなかった。彼女も、それ以上何も言わなかった。


 でも知らなかった。あのときの私の冷たさが、誰かの心に、埋めることのできない穴を残してしまったことを。その穴が、彼女を深淵へと押しやるほどの——大きな空洞だったことを。


 ***


(南條千雪)


 あの朝、校門をくぐったとき、空は重たく曇っていた。その色は、私の目の前と同じで、ただ一面がぼやけていた。


 私は案内用紙を、手の中でぎゅっと握りしめていた。そこには、受付場所、試験室の番号、休憩時間……たしかに書いてある。けれど、その文字は私の目の中では、解けない糸が絡まった塊みたいで、一画一画が影に溶けてしまっていた。


 その紙を、長いあいだ見つめていた。でも頭の中は真っ白で、何ひとつ覚えられない。早く試験室を探さなきゃいけないと分かっているのに、足は釘で打ち付けられたみたいに動かなかった。


 最後に、私は意を決して、そばに立っていた女の子に小さな声で尋ねた。彼女は一瞬だけ私を見て、口調はきつくなかったけれど、正しい方向を教えてくれた。けれど……その一瞬の心の動きが、私には分かってしまった。


 ——こんなことも分からないの?


 私は小さく礼を言い、俯いたままその場を離れた。


 案内用紙は、さらに強く握りしめられ、くしゃくしゃになっていた。指先も震えている。受付、記入、入場。みんながやっているのは分かるのに、何ひとつ頭に残らない。先生の注意も、ボランティアの案内も、ガラス越しに聞こえてくるみたいで、一言も脳裏に留まらなかった。


 筆記試験が始まると、私は問題用紙を見つめた。文字が一つ一つ浮かび上がり、跳ね、絡まり合い、私を水の中へ引きずり込もうとする。書いては消し、消しては書く。それでも、やっぱり間違っている。時間終了の合図が鳴ったとき、私の答案は、まだ半分も白いままだった。


 昼になっても、何も食べなかった。食欲も、力もなかった。私は人の流れを避け、一人で校舎の裏手へ回り、静まり返った廊下を抜けて、体育館の脇へと向かった。そこは冷たくて、静かで、笑い声も、ざわめきもなかった。


 古い倉庫の前に辿り着く。扉は重く、押し開けたとき、「ぎい」と小さな音を立てた。その音はとてもかすかだったのに、空気の中ではひどく孤独に響いた。まるで——私がこの世界に来たときも、こんなふうに音を立てたのに、誰一人、本当には気に留めてくれなかったみたいに。


 ***


 午後の二回目の筆記試験に現れなかった。点呼もなく、欠席に気づく教師もいない。誰も、気に留めなかった。周囲の目には、ただ答案を提出し、静かに早退しただけに見えていた。


 午後になり、係員が試験で使った器材を片づけようと扉を開けたとき、その場で立ち尽くした。薄暗い灯りの下、空気は異様なほど静まり返っている。木箱が一つ、床に倒れたまま残され、縄はまだ、かすかに揺れていた。そこにいた。宙に浮いたまま、身体は硬く、影のように動かずに。


 時間はとっくに、止まっていた。


 それが、彼女たちが初めて出会った日だった。そして同時に、最後に同じ陽の光の下に立った日でもあった。ただ、一人は、その意味を心に留めることがなく、もう一人は……二度と、別れを告げることすらできなかった。

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