グレンの覚悟
【☆★おしらせ★☆】
あとがきにとても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
「私はミリア・ラングルス。『アンタッチャブル』ファミリーの初代総長にして『氷結の魔女』」
マスキュラーに師事するようになり、自分も何かしたいとそれにナージャが混ざるようになってから一週間もしないうちに、更にショックなことが起きた。
彼と一緒にやってきた、ミリアという女の子。
同い年だという彼女に、僕は手も足も出ないままけちょんけちょんにやられてしまったのだ。
「――普通じゃマスキュラーの隣にはいられないから」
マスキュラーと比べると彼女は、遠慮がなかった。
普段のマスキュラーがどれだけ手を抜いて戦ってくれているのかを、僕とマスキュラーの間にいるおかげで、知ることができた。
「現時点で魔王軍の幹部を倒した人類って、あの人だけじゃないかな」
「魔王軍の幹部を……」
「倒した……?」
そこで僕は、驚愕の事実を知る。
どうやらマスキュラーは……僕が想像していたよりもはるかに、すごい人だったらしい。
魔王という存在のことを知らない人間はこの世界にいないだろう。
この世界に混沌をもたらし、人間達を滅ぼすことを目的としている魔物の王である魔王バルガス。
その手下達も並々ならぬ実力を持ち、特に魔王軍幹部である五体の魔物達は他の魔物では及びもつかぬほどの力を持っているという。
それに……勝った?
普通であればあり得ないと一蹴するところだけど、ひょっとしたらマスキュラーなら……と思ってしまう自分もいた。
鍛えれば鍛えるほど、マスキュラーの強さがわかるようになってくる。
少なくとも多少鍛えた今の程度の僕では、逆立ちしても勝つことはできないだろう。
彼は侯爵領であるオルドという街を救い、侯爵閣下とそこに暮らす住民達を助け、なぜか侯爵本人と友人になっているのだという。
聞けば彼女がやっていたという『アンタッチャブル』というマフィアの原型を作ったのも彼で、彼のおかげで何十人何百人という子供や女性達が食い物にされることなく過ごすことができているのだとか。
普段の態度から想像はつかないけど、彼がやっていると言われれば不思議と納得してしまう自分がいた。
侯爵と友人になっているというめちゃくちゃ具合も含めて、実にマスキュラーらしいと思ってしまう。
マスキュラーはただ力が強い、腕っ節だけの男ではなかった。
彼は弱い人達を助けることができる、心も強い男だったのだ。
そんなマスキュラーのことを師匠に持つことができて、僕は幸せ者だ。
彼に教わったからこそここまで強くなることができて。
ずっと感じていたモヤモヤも振り払うことができて。
ナージャとも仲良くなれたし、同年代で僕よりも強いミリアという新たなライバルもできた。
これだけの環境を用意してくれたマスキュラーには、正直めちゃくちゃ感謝している。
それを伝えたら絶対に調子に乗るだろうから、絶対彼に直接は言わないけれど。
♢♢♢
「それじゃあな」
稽古をつけてもらってから一ヶ月弱。
時間が過ぎるのは、実にあっという間だった。
気付けば彼が去るその日になってしまっていた。
もっといて欲しい……そう思ったけれど、あれほどの力を持つ彼がやらなければならないことはきっと多いのだろう。
ぐっと我慢して、僕は彼からもらった連絡水晶を握る手に力を込める。
戦闘の基礎は習った。
ここから先に必要になってくるのはおそらく、実戦だろう。
だがその実戦は、この村にいては得ることはできない。
「ナージャ……」
「うん、わかってるよ、グレンが何を言いたいのか」
この一月という濃密な時間を過ごしたことで、僕はナージャと以前よりもずっと仲良くなったように思う。
一緒に戦うようになり、彼女の今までは見えてこなかった強い部分も見えてくるようになった。
きっとそれは向こうも同じで。
彼女は今僕が何を考えているのか、きっとわかっているのだと思う。
「グレン、私もついていくよ。強くなっておいて、損はないもん」
「そうだね、幸いにも僕達には才能があった……だったらそれを活かさないのは、もったいない」
僕も、そして驚いたことにナージャも、戦闘に関しては天賦の才があった。
僕は教えてもらった技術はすぐに習得できるようになり、今では身体強化と中級魔法までが使えるようになった。
ナージャの魔法に関する才能は僕よりも上で、教わっていない光魔法すら使えるようになり、今では戦闘中に僕のことを癒やしながら攻撃も行える強力な魔法使いに成長している。
だから僕は……この村を出る。
強くなるのは早ければ早いほどいい。
成人するまでにはまだ一年半以上時間があるけれど……可能ならなるべく早く、村を出たかった。
何も確証がなく、ただ漠然と出たいと考えていた頃とは違う。
今の僕には明確な目標がある。
僕は……強くなりたい。
いつもふざけているくせに僕達のことはしっかりと真面目に鍛えてくれた、マスキュラーのように。
父さんや母さんに何を言われても、この気持ちは変わらない。
そう確信ができたから、僕はその日の夜には、母さん達に話をすることにした。
「父さん、母さん、僕……外の世界に出たいんだ。もっともっと強くなって、誰かを助けられるような男になりたい」
「そう……まったく、困った息子ね。そう思わない、お父さん?」
「……(こくり)」
父さんは何も言わず、腕を組んで頷いていた。
そしてシズカ母さんの方は、頬に手を当てながら笑っていた。
浮かべているのは、苦笑だったけれど。
「お母さん、いつかグレンがそう言ってくると思ってたわ。まさかこんなに早いとは思わなかったけど」
「……(こくこく)」
「まったく、マスキュラー君にも困ったものね。グレンのことを、こんなに本気にさせちゃって」
「……(こくっ)」
父さんは黙って何も言わず頷き続け、母さんはあらあらまあまあと笑っていた。
俺はてっきりものすごい勢いで反対されると思っていたが、どうやらそういう感じではなさそうだ。
「……グレン、出発するのは十四になってからにしなさい(こくこく)」
「父さんが……喋った!? うん、わかったよ!」
寡黙で基本的に頷きか首振りでしか自分の意志を伝えない父さんが、口を開き俺に語りかけてくれた。
まさか父さんが普通に喋ってくれるなんて……という驚きに次いで、許可を出されたことへの喜びが上回ってくる。
こういうのは普通どこの親も十五になって成人したらというパターンが多い。
一年早く出してくれると約束してくれた父さん達は、やっぱり他の大人達よりもはるかに理解のある両親なんだと思う。
きっと今までだったら、僕はここまでものわかりがよくなかっただろう。
それも僕の常識という常識を壊してくれ、冷静になるチャンスを与えてくれたマスキュラーのおかげだ。
彼がくれたチャンスを不意にしちゃいけない。
そう思った。
「おう、頑張れよ。お前はまだまだ強くなる。お前ならきっと……世界だって救えるはずだぜ」
渡された連絡水晶をぎゅっと握る。
できるのだろうか、そんなことが。
僕は自分に自信がない。
僕のことは信じることができないけれど、僕のことを信じているマスキュラーのことは信じられる気がした。
十四になるまではここで頑張ってみよう。
僕とナージャだけでも、できることはたくさんあるはずだから――。
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