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ルーク


 次の日、結局朝方までバチクソに飲んだ俺は身体強化を使って二日酔いを気合いで吹き飛ばしてから、懐かしのスラム街へと戻ってきていた。


「糞尿のアンモニア臭、そしてすれ違う人達の眼光のギラつき度合い……これを見るとやっぱり、帰ってきたって感じがするよな」


「スラムにそんな安心感を覚えるの、マスキュラーくらいなんじゃないかな……?」


 一緒にやってきているミリアとスラムの中を進んでいくと、懐かしいものが見えてくる。

 そこにあったのは、以前俺が住んでいたボロ屋だ。

 近づくと家の中から色々な声が聞こえてくる。


 ――実は俺は街の中に家をもらったタイミングで、家をルーク達スラムの孤児達にプレゼントしていた。


 どうせ今後使うこともないだろうと思いやったらめちゃくちゃ感激されたっけ。

 見た目も変わっていないので、今のところ襲撃に遭ったりすることもなく、大事に使ってくれているらしい。


 ただ以前は俺が盗みに入られないように用意していた南京錠は、新しいものに変えられていた。

 当たり前だが、この家は渡した段階で俺のものではなくなっている。

 そう告げられたようで、なんだか腹が立ってきた。


「えいっ」


「あっ、ちょっ、何やってんのマスキュラー!?」


「しまった、ついうっかり」


 なんとなく勢いで、南京錠を指で千切ってしまった。

 握力が上がっているおかげか、魔力凝集でもこれくらいのことはできるらしい。


 突然聞こえてきたバキッという物騒な音に、家の中が急に静まり帰る。

 そして数秒もしないうちに、ドアが勢いよく開かれた。


「てめぇらここを誰だと思ってやが……って、兄貴!?」


 そこから現れたのは、なんだか以前と比べて風格が出てきたように思えるルークであった……。





「いやぁ、兄貴も人が悪いっすよ。事前に連絡してくれとけば……ハッ!? もしかして俺達がきちんと襲撃に対応できるか確かめるために、わざと音を出したんすか?」


「いや、苛ついたから鍵ぶっ壊しただけだぞ」


「兄貴は相変わらず俺達のことを考えてくれてるんすねぇ……」


「なんかお前、前より人の話聞かなくなってない?」


 ルークに案内されて家の中に入る。

 どうやらミリアはやることがあるらしく、そのままどこかへ行ってしまった。


 しっかし、何人か知らないやつらもいるな。

 どうやら俺がいない間に新たに入ったやつも結構多いらしい。


「ああん、なんだお前……へぶしっ!?」


「てめぇっ、こちらにおらすお方を誰だと思っていやがる!」


 こちらにメンチを切ってきた子供が、そのままルークに思いっきりぶん殴られて地面を舐める。


「俺達『アンタッチャブル』の創設者のマスキュラー兄貴だぞ、図が高ぇ!」


「「へ、へへえ~~っっ!!」」


 ものすごい勢いで頭を下げられる。

 ……ていうか、あれ?

 なんか気付いたら、ファミリーネームみたいなのついてない?


「へへっ、どうっすか。兄貴の『不可触』にあやかってつけさせてもらったんすよ」


「いやまあ、好きにやればいいんじゃないか?」


 俺の名前を出せば動きやすくなるんなら、好きにやってくれればいいさ。

 別に減るもんでもないし。


 しっかし……ルークのやつ、なんだか随分とギャングのボスっぽい感じになったな。

 男子三日会わざれば刮目して見よって言うが、少なくとも俺がウィスクに戻ってきて一番変わったなと思うのはこいつかもしれない。


 今のルークは仕立てたらしいぴっちりとした黒服を着ていて、髪の毛も油を使ってオールバックにしている。

 話していると普通にルークのままなんだが、見た目はもう完全にマフィアの若頭って感じだ。


 とりあえず居間に座り、お互い会っていなかった期間の報告をし合うことにした。

 基本的に俺が聞く側だったんだが、ルークから出てくる話は流石に予想外の連続だった。


 ルークとミリアが色々と張り切った結果、どうやらこいつらは今のウィスクの街に居着いているギャング達をほとんど傘下に収めてしまったらしい。

 『アンタッチャブル』一強になったことで結果としてスラムの環境は劇的に向上。

 今はレグルス子爵とも対話の窓口ができるくらいに存在感が大きくなっているらしい。


 なんか気付かないうちに、めちゃくちゃデカい話になっていてびっくりである。

 俺はただガキ達に稽古つけただけなんだが……どうしてこうなった?


「兄貴……すいませんっした!」


 『どうしてこうなった? ドッシンシーン』のAAを脳裏に浮かべていると、なぜかルークにものすごい勢いで頭を下げられる。

 俺はもうパニックだよ。フランチェ○が頭の中でぐるぐる回ってるもん。


「俺、兄貴にカタギの仕事に就けって言われて魔法を教わったのに……結果として色々と、非合法なことにも足を突っ込んじまいました!」


「……なんだ、そんなことか」


 さっきから妙に真面目な顔をしてたかと思ったら、そんなことを悩んでたのか。

 まあ、スラム暮らしってのは案外ままならないものだ。

 俺自身ある程度名前が売れるまでは、クソみたいな仕事もこなしたりしたしな。

 綺麗なままで過ごすには、この場所は汚すぎるのだ。


 ルークの頭をガシガシと撫でてやる。

 油がべっとりと塗られていて、俺の手にめちゃくちゃついた。

 植物油なのか、案外べっとりとしていないのがせめてもの救いだ。


「なし崩しで想定外のことが起こるのなんて、よくあることさ。お前も部下を守ったりしているうちに気付いたらそうなってたんだろ?」


「……うす」


 俺も似たようなことはあったから、ルークの気持ちはよくわかるつもりだ。

 それにそもそもの話、俺がこいつに面倒ごとを任せたからそうなってるわけだし、その責任の一端は俺にもある。


「まあ、ここまでいっちまったらしょうがないだろ。だったらお前はこのクソみたいな場所が少しでもマシになるように、頑張ってくれ。俺の名前で良ければ、いくらでも使っていいからよ」


「兄貴……兄貴ィ!!」


 ルークが突然男泣きをし始める。

 多分、色々なことがあったのだろう。


 またすぐにここを出て行くつもりだし、今度はオルドに行った時と違っていつ帰ってくるかもわからない。

 俺にできることはそう多くはないが……とりあえず、侯爵家の家庭教師で稼いだ金はこのファミリーに置いてってやるか。

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