本物
オルドの街を後にしてから約一日後。
ものすごい勢いで全力疾走してきた俺は、ウィスクの街へと戻ることに成功していた。
来た時はそこまで急いでいなかったとはいえ、およそ三日はかかったことを考えるとすごい進歩だ。
どうやら身体を鍛えたおかげか、魔力がより身体に馴染むようになっているらしい。
身体強化を使い続けると流石に息切れするので、魔力凝集と併用しながら突っ走ったんだが、周りの景色はものすごい勢いで変わってたからな。
イメージ的にはロマンスカーの一番前の席にいる感じだろうか。
俺はこの街に来るまでに、一陣の風になる喜びを知った。
この事実から考えるに、俺の二つ名は『韋駄天』とかにすべきではないだろうか。
『不可触』って、なんかダサいしさ。
二つ名の改名とかって、どうやったらできるんだろうか……?
とそんなアホなことを考えているうちに無事に街の中に入ることができた。
本当なら先にスラムに顔を出した方がいいのかもしれんが、まああいつらならなんとかやっているに違いない。
俺はルーク達が元気にやってくれていることを一瞬だけ祈ってから、今日食べる夜ご飯に思いを馳せることにした。
ちなみに前者はコンマ一秒以下、後者が一分くらいだ。
ルーク<<<<<<<(越えられない壁)<<<<晩ご飯
晩ご飯は大事、はっきりわかんだね。
我が家にやってきた。
そのままドアを開けようとして、いつの間にか扉に鍵がついていることに気付く。
どうやらしっかりと防犯設備を整えてくれたらしい。
普通にノックしても面白くないので、身体強化を使い一秒間に十六回ほどノックしてみた。
高○名人は何時だって青少年の憧れなのだ。
ココココココココココココココココッ!
「はぁ~い」
「新聞の勧誘です」
「マスキュラーさん、お帰りなさい」
ものすごい勢いでノックしたら、普通にドアを開けられた。
中から出てきたのは、にこにこと笑っているローズだった。
以前と比べると美人度が増しているような気がする。
こけていた頬に肉がついたことで、なんだかより高貴な感じが出るようになった。
「おう、ただいま」
中に入ると、手慣れた手つきで俺が来ている外套を脱がせてくれる。
なんだか夫にでもなった気分だ。
いつか俺も家庭を作って、酔っ払って頭にネクタイを巻きながらよくわかんない四角いお土産を買ってくるような時が来るんだろうか。
……そういえばあれって、中に何入ってるんだろうな?
「ご飯食べますか?」
「できれば食いたいが、俺の分も作れるか?」
「二人分作ってますので、そのまま食べてください。今から私達の分も追加で作りますので」
「悪いな」
「いえ、多分ミリアはまだ帰ってこないでしょうから」
どうやらミリアは相当忙しく動き回ってくれているらしい。
多分……というか間違いなく、俺がスラムに関する諸々を押しつけたのが原因なので、なんだか少し悪い気分になってくるな。
埋め合わせってわけじゃないが、前に言っていた通りに少し落ち着いたら、彼女を王都にでも連れて行ってやらないとな。
飯を食ってから軽く湯を使って身体を拭き、ローズと適当に駄弁る。
彼女の方は何不自由ない暮らしができているらしく、しきりにお礼を言っていた。
そんなに大したことをしたつもりはないんだけどな、ただ衝動的に助けただけだし。
だが話す度にこぼれる笑顔を見れば、なんとなく自分がやったことが誇らしく思えてくるから不思議だ。
「ミリアは何時ぐらいに帰ってくるんだ?」
「そうですね、時間的にはそろそろ……」
ローズが言い切るよりも早く、がちゃりとドアが開かれる。
ドアを開けるとそこには、前より少し大人びて見えるミリアの姿があった。
「お母さん、ただいま! ……はぁ、とうとう目までおかしくなっちゃったか。マスキュラーの幻影が見えるようになっちゃうとは……」
「どうも、幻影です」
「――あれ、マスキュラー(本物)!?」
幻影ですと自己紹介したのに、一発で本物と見抜かれてしまった。
マスキュラー(本物)って言葉の偽物感がすごい。
「無事に帰ってきてくれたんだね!」
「ああ、なんとかな」
想定外のガチバトルをしたり、侯爵をぶん殴ったり、女騎士のリボ払いの支払い変更手続きをしたりしたが無事に帰ってきたぞ。
お目当ての『魔の桎梏』も手に入れてきたしな。
「……おかえり、マスキュラー!」
「おう、ただいま」
お互い積もる話もあるだろうから、今日眠るのは遅くなるだろう。
だがそんな風に夜更かしをするのも悪くない。
俺はずいぶんと久しぶりに飲む気がする酒を楽しみながら、ミリアとローズとの団欒の時間を楽しむのだった……。
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