表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/55

魔王の狙い


 さて、お目当ての物を手に入れるあてができたことで、俺にも色々と考える余裕ができた。


 アリア達は日々成長している。

 一体どこまで鍛えることになるかは別途決める必要があるだろうが、このままいけばアリアが上級魔法を実戦で使うことができるようになるのも、リエルが返済方法を変えた借金を完済するのも、あと数ヶ月もかからないだろう。


 そうなると残る問題はあと一つ。

 つまりはアリアのトラウマイベント――アリアルートで回想されることができるあのローズアイル家襲来イベントが、一体いつ起こるのかということだ。





 メインヒロインの一人であるアリアベル・フォン・ローズアイル。

 彼女はあまり自分のことを語らない。

 プレイヤーがその理由を知るのは、アリアルートに進んでからしばらくが経過し、彼女が自分の話をするほどにこちらを信頼してくれるようになってからのことになる。


『私には……兄がおりましたの。誰よりも頼れる、とても強くて優しい、貴族とはかくあるべしというほどに完璧なお兄様でしたわ……』


 そこで存在をほのめかされる兄が、俺が戦ったあのクレインだ。

 そしてアリアにとってトラウマとなっている過去が、その口から語られることになる……。


 全てが灰色に変わった回想シーンで流れてゆくのは、アリアが生まれ育った街……つまりはこのオルドの街のある風景だった。


 突如として襲来する魔物達。そして民を守るために駆り出される兵士。

 激しさを増す人と魔物の戦いの中で、街の中央で繰り広げられる激闘。


 戦う二つの影、そしてその余波で燃え盛るオルドの街。

 誰かに担がれながら、泣き叫ぶアリア。


『お兄様……お兄様ッ!』


 街の襲撃を企てた首謀者――魔王軍幹部のジャビエルと戦う彼女の兄。


 その結果がどうなったかは……オルドの街そのものが大損害を被り、兄クレインが死亡したことから推して知るべしというやつだ。


 ただどうやらクレインは相当に善戦したらしく、ジャビエルが大きな怪我を負ったことで完全に街がなくなることはなかった。

 ローズアイル家は魔物の襲撃を撃退することに成功したのだ。

 一人の俊英と引き換えに。


 アリアと一緒にジャビエルを倒した後のシーンは今でも鮮明に覚えている。


『お兄様、仇は討ちました。どうか安らかに、お眠りください……』


 万感の思いでそう呟いた彼女は一体何を思っていたんだろう。

 だがその内心を俺が知ることは永遠にないだろう。

 なぜならそんな鬱フラグは――俺が拳でぶっ壊してやるからだ。







(まず一番最初に確認しなくちゃいけないのは、一体いつ魔物の襲撃があるのかってことだ)


 ここ最近、俺はアリア達への稽古や、クレインとの命がけの模擬戦の合間を見て、街やその周囲の状況を調べていた。


 けれど魔物の襲撃が突然増えたなんてニュースもなけりゃあ、ジャビエルのジャの字も出てきやしない。

 本当に襲撃があるのかどうかすら怪しく思えてしまうほどに。


(ここまで成果がないとなると、魔物の襲撃はまだ大分先の話なんだろうか。あと一年もしないうちに来るのは間違いないんだが……)


 もし何か魔物襲撃の前触れっぽいものが出れば、クレインを俺が説得して防備態勢を整えてもらえばいいが……流石に証拠が何もない状況で信じてくれと言っても、聞く耳は持ってくれないだろう。


 ……いやまあ、あいつのことだから案外信じてくれるかもしれないが。

 クレインのやつ、『あれ、ここって乙女ゲー世界だっけ?』って思うくらい、俺に対する好感度が妙に高いからな。


 こっちの方は成果が出ないなりに情報収集を続けるしかない。

 だが調べなくちゃならないことは他にもある。


 次に優先順位が高いのは、ズバリなぜオルドの街が魔物の襲撃を受けることになるのかだ。

 ゲーム内においても魔物達の人間界への侵攻は定期的に行われていた。


 基本的にその侵攻を食い止めたり、滅ぼされた街へ向かって魔物を倒しながら物語は進んでいくからだ。


 作中では、オルドの街が襲われた理由は明記されていない。

 ひょっとするとただ不幸にもオルドの街が襲われたという可能性も十分考えられる。

 だが俺個人としては、何か理由があると考えている。


 『ソード・オブ・ファンタジア』のラスボスである魔王バルガスは、色んな策謀を弄するタイプの敵だ。


 人間側に裏切った内通者がいたり、魔王軍幹部の一人が人間を憎むようになった理由自体がそもそも魔王が仕組んだものであったりと、わりとぐう畜なところがあるクソボスである。


 魔王であるバルガスは誰よりも強いくせに非常に小心者で、それ故にとにかく自分の命を脅かしかねないものを決して看過しない。


 つまり逆説的に言うと、この街にはバルガスが魔王軍幹部を派遣しても構わないと思うほどの何かがある、ということになる。


 もっともこれは、色々調べた結果、俺なりの答えは出た。

 クレインに頼んで宝物庫の中を見せてもらったり、記憶を頼りに宝がありそうな場所を掘削したりして俺が出した結論とはこうだ。


 つまりバルガスが恐れていたのは……クレインという存在そのもの。

 そう考えるとつじつまが合うのだ。


 街を襲わせたのは、貴族家の当主という立場上逃亡を図る可能性があるクレインを逃がさないため。

 わざわざ魔王軍幹部なんていう大物を派遣したのも、将来的に己の命を脅かしかねないクレインという芽を確実に潰すため。


 この結論が出た時点で、俺は外に関する情報収集を止めた。


 狙いがクレインだとわかっているんなら、こいつの周りでおかしなことがないかどうかを確認しておけばそれで事足りるからな。


 そして俺がクレインの周囲に目を光らせるようになってからしばらくが経ったところで、ようやく動きがあった。

 領主であるクレインの下に、魔物に関するとある報告が下りてきたのだ――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ