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俺の交渉のテクニック3

今、対面に座っているのは横須賀うららさんだ。

俺がこんな自然に初対面の女性と打ち解けられるとは思っていなかったが、案外と惹かれ合う相手に対しては自分を飾らずに気楽に話ができたりするものなのかもしれない。


基本的にうららさんは明るく笑顔溢れる元気な人だ。けれど時折、手持ち無沙汰というよりは無意識で意味のない行為を繰り返していたりする。要するに今現在行っているようなパフェをスプーンで食べるでもなくつついては小さく混ぜるであるとか、ふと遠くを見たかと思えば、微かに表情を変えながらじっと虚空を見つめているのだ。まさに心ここに在らずといった様子。


何か考え事だろうか。あまりつついて踏み込みすぎても申し訳ないし、彼女が本当に悩んでいるなら話してくれるのを待つのが一番だろう。無理矢理聞き出すよりかはよっぽど良い。


うららさんは微かに頷き、虚空へ笑みを投げると、ようやく意識を取り戻したかのように俺に視線を向けた。


「それではここの抹茶も堪能したところで、次の一軒でも行きますか?それともお開きにしましょうか?」


切り替えの早さに少々驚いたわけだが、それでもうららさんの提案に俺は心躍るものがあった。少なくとも彼女にとってはまだ関わりたいという欲がある、お世辞だとしても可能性はあるということだ。ほんとに関わりたくないならば、すぐに解散するだろうからな。


じゃあ、と俺から新たなルートを示そうとした矢先、ヌッと現れたのは最近姿を見せなかったあいつ。白っぽいくすんだティファー○みたいなしゃべる家電であった。


しかし何かがおかしかった。不自然であった。

今までのこいつなら、誰かがそばにいる時は必ず半透明であった。俺にはそのように見えた。しかし、今のティファー○は色が薄くなっていたり、陰や存在が薄くなっているわけではなかった。確実に、そこに存在していた。その理解のできない歪さが、俺の思考を停止させた。初動を遅らせた。


ティファー○が現れてすぐ、やつはその短い手を伸ばすと、横須賀うららさんへと伸ばすと、彼女は衝動を受けながらモヤがエフェクトとして現れ、機械じみた痙攣を3度うつと、さぞシャットダウンされたかのように、彼女は首を前方へ倒して気絶した。


おい、と俺が声をかける間もなく、ティファー○は何かよくわからない薄暗く蠢く空間へと彼女を引っ張りこみ、そのまま跡形もなく消えていった。


「...」


俺は目前で何が行われたのか理解出来なかった。いや、理解はしていた。それを言葉として表現できなかった。順を追って説明すれば容易いことで、ごくシンプルな誘拐事件なのだ。消失事件なのだ。しかし何故それが行われたのか、ティファー○の目的がわからない。


まあとにかく、今すぐ探しに走り出すことだけは愚策なのだ。どんなに慌てた状況に出くわしても、これだけは冷静であるといえる。

たった今店を出ようものなら、タダ飯喰らいの食い逃げ犯である。俺は何をするにもまず、この店のお会計を済ませなければならなかった。



正当な料金を支払い(彼女に奢ったと思えば)、ひとまずお店から出る。すると目の前に存在していたのは、光沢の入った、グラデーションのある深い赤が特徴の市販されていそうな電気炊飯器である。こいつもうちの瞬間湯沸かし器みたいなもんか、と思えば、動揺も困惑も何も湧き上がらず、ただ単純に「また何かに絡まれた」と思っただけであった。


「おい、うちのうららをどこやったんじゃボケェ!」


「いや口悪!」


「うっせぇ!こちとら一瞬目を離した隙に作戦全て台無しになるわ、要のうららも見失っとんねんぞ!」


「えぇ...目を離さなければ良かったのでは...?」


「そりゃあんたが居ったし、遠くない場所でやつの反応があったんや。行くしかないだろ。それぐらい理解しろよ」


「いや本当にそういう高圧的な態度、良くないと思いますよ!」


などと不要な問答を数回繰り返した挙句、全部俺のせいということでまとまってしまったため、うららさん探しに責任をもって付き合うと半ば強制的に決まってしまった。まあ、最初から探すつもりではいたが。


とりあえず拠点に戻ろうということで、俺たちは来た道を戻るような方面に歩いていた。


「で、あんたはやつとどんな関係だ!あと目的も言え!事と次第によっちゃあタダじゃおかねぇぞ!」


「やつってのはティファー○の事だよね...目的もなにもあいつが“最強無双の100発100中超絶怒涛のメチャウケ猛烈ドチャシコモテる必勝テクニック”を俺に伝授するっていうから...」


「...お前なぁ、そんなのある訳ないだろ!」


「ええぇ...いや分かってたけど。でも万年モテない俺にもチャンスがあるならって」


「まあいい。あんたの話は向こうでじっくり聞けば...と思っていたが、先に迎えが来たようだな」


そういったので、俺も前方に視線を向けると、何やら見慣れない車が歩道に寄せられるように停められた。運転席から出てきたのは、俺も知っているあの幼馴染のお姉さんだった。


「も、萌音華ねぇ!」


「やあやあ優士くん。久方ぶりだね。会えて嬉しいと思うと同時に、こんな再会というよりは展開という方が道理だろうが、まあそんなところだよ。とりあえずまた会えて良かったし、君が無事で本当によかったと思っている。抱きしめさせてくれ。おいおい嫌がるな。せっかくの抱擁を台無しにしてくれるなよ、これでも私はガマンをしている上に、譲歩だってしているのだ。今すぐにでも君を取って食べたい衝動に駆られているといっても過言ではないね。いいや食べよう。その前にハグを」


俺は結局抱きしめられた。

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