俺の抱きのテクニック3
「じゃあ...」
そう言って俺は手を差し出し、萌音華ねぇを立ち上がらせた。手を離そうとしない俺に何かを悟ったのだろうか、怪訝な顔を見せたが、俺はそれに恐れをなして躊躇ってはいけない。このままの勢いで、やってみるしかない。どうせダメでも関係が悪化するだけ。むしろ元々が疎遠状態なのだ、失うものなど無い。流石に警察を呼ばれては困るので、逃げる素ぶりをしてきたらあっさり引くことを心得ておく。
「嫌なら嫌って言ってくれていいから...」
俺は萌音華ねぇの手を引き寄せ、その柔らかな体を自分の身で受け止めた。すかさず右手を腰へ回し、ロックするように挟み込む。右手に圧を感じたならば、それが萌音華ねぇが嫌がっている合図。そういう意味もあった。
萌音華ねぇが驚いたように目を丸くして、俺をじっと見つめている。本当に理解が追いついていないようで笑ってしまうが、俺もこの状況をはっきり理解してしまうと、羞恥心やら罪悪感やらで逃げ出してしまいそうなので早めに取り掛からんとす。
「...いつのまにか、優士くんの方が大きくなっていたんだな」
「なに、それ。...追い抜く気はなかったけど、でもどこか安心してるのも嘘じゃないかな」
俺は左手を萌音華ねぇの後頭部へまわす。少し低い身長は、俺を見上げる彼女を一層可愛らしく演出しているようだった。しかし俺の記憶にはっきりと残っているのは数年、十数年以上前のはるか昔の記憶。この柔らかな憧れの女性を見上げながら、この人に相応しい大人になろうと誓っていた懐かしいあの頃の記憶。子供心に高揚感と下心と尊敬の入り混じったふわふわした記憶。叶わず願うだけだったあの頃の俺と入れ替わってやりたいくらい、そんな貴重な体験を俺はしているのだ。
「からかわれるのは、少し困るな...恥ずかしさで消えてしまいそうだ」
「恥ずかしくなんかない、ちゃんと俺の憧れた、綺麗な女性だって思うよ」
「.........!」
萌音華ねぇが一気に下を向いてしまったので、そろそろタイムアップだろう。1発勝負のラストチャンス、あとは2ステップ踏むだけなんだ、頑張れ俺!
「萌音華...!」
名前を呼ばれた目の前の女性は、ハッと驚き俺の目を見る。その顔を俺の体全体で包み込むように抱き寄せ、俺の口を彼女の耳元へ近づけた。
「愛してる...」
の言葉とともに俺は彼女の耳に息を吹きかけた。
「も、もういいだろう!よしてくれ、恥ずかしすぎておかしくなってしまう」
俺を突き飛ばしながら萌音華ねぇは口元や耳を塞ぎながら後退りをした。
たしかに俺は彼女の耳元へ息を届けた。ステップも踏んだ、確実に。これで俺は初めてテクニックを完遂した事になる!今まで難癖つけられたようにアウト判定をくらってきたが、流石に今回はアウトの余地無し!勝ったな!
(........)
俺はただティファ◯ルから出される判定を待っていただけなのだが、萌音華ねぇは沈黙に耐えられなかったようで、髪を手櫛で溶かしつつ、手をパタパタさせて顔を仰ぎ、「いやー、困った困った弟分だこと」などと言って洗面台兼シャワー室の方へ逃げていった。
「優士くん、今日はこれで勘弁してもらっていいかな?流石の私もこれ以上は冷静さを欠いてしまうものでね、こんな状況では何をしでかすかわからない。最悪君を傷つけてしまう結果にもなりかねないから、今日は終わりにしよう。また時間がある時でいいから、顔を見せてくれると嬉しいよ、まあ“顔を見る”というのは出来ないかもしれないがね、ガハハ」
なんだかいつも通りな気がして拍子抜けだが、まあこう言われてしまった以上、足掻く理由もないため素直に引き下がっておく事にする。判定についてもティファー◯に聞かなきゃならない。
「わかった、じゃあまた来るから!」
「うむ、気をつけていくといい」
そうして俺は萌音華ねぇの部屋を出ていった。
★
「いやぁ、まいったまいった。まさかあんな手に出てくるとは、思いもしなかったよ。これは油断した。先手を打たれたというべきか、全く、機会を伺っていたのが間違いだった。さっさと会いに行って確保していればこんな事にはならなかったね。それにしても、さっきの話が本当になるとは、エスパーか何かかな。おかげて辛うじてだが冷静な対応がとれたよ」
「冷静には程遠い。故に資格保持者としては不十分」
「まあ待ちたまえよ、今日は彼にも久々に会ったんだ。そんな中でこのミッションをこなしたんだぞ?及第点どころか満点を逃したと悔やみつつ褒めて然るべきではないかね?」
「ミッション達成は認められた。故に次なる段階へ進むことができる」
「ほんと、淡々と話すね、今回のキミは。まあ聞こうじゃないか、今更引き返すのも性分に合わないし、何より私が費やした十数年が全て無駄になってしまう。それだけは、本当に避けたいんだ。まあ私の話は今はいい。次のミッションとやらを聞かせてくれ」
「次のミッションは我らと同様の形態を持った個体を確保してくること。つまるところ会話能力を持つ家電を確保してくること」
「ふーむ。まあそうなるだろうね。難しいね、全く。人様のお宅に上がり込んで調べるほかない。人間関係を絶ってきた私にどうしろというのかね。まあ泣き言を言っても仕方がない、とりあえずは身近なところからあたっていくしかないな。とりあえず、さっぱりしたい。お湯を出してもらえないか?」
「(リズミカルな音楽)〜♪ お風呂が沸きました」
「お、優秀優秀」




