ランゲームは唐突に
「因果応報ってのはよく言ったもんだが、それにしても早すぎないか?」
視線を下に向ける。元俺の身体は上から押し潰されてぐちゃぐちゃのミンチになっていた。
製作時間五時間、俺渾身の力作になんて事しやがる……!絶対ただじゃおかねぇ!!
薄っすら頭に浮かんだ、五時間程度では力作とは言えないのでは?という疑問を怒りの感情で隅に追いやり、俺はこの惨殺事件の下手人を見咎める為辺りを見回す。
ケージ刑事!現場から殺害に使用したと思われる凶器が発見されました!
なにぃ!?それは本当か!それで、どんな凶器なんだ!
樹木です!巨大な原木が仏さんの身体ごと地面をぶち抜いています!
でかしたぞケージ捜査官!つまり犯人は!
ここのクソデカツリーをへし折る膂力を持ち!
それを俺の視認できない程遠くから投擲する強靭な肉体を持ち!
尚且つ寸分の狙いも違わず俺に直撃させる精密さを備えているというわけだな!
………こりゃ勝てんわ。撤退ィィィ!!!!
死んで初めて詳細が分かったが、アナウンスと同時に出てきたポップによると、「獣不朽」はとんでもないシロモノだ。
「獣不朽」、簡潔に言えばそれはリスポーンの仕様変更。通常プレイヤーが死亡した場合、決められた地点からデスペナルティを伴って復活する。それが仕様だ。
だがコイツはそれを撤廃する。
【スタイルPheglai】のプレイヤーが死亡した場合、その身体はリスポーン地点へは送還されない。意識は魂体としてその場に残り、決められた秒数が経った後そのまま復活するのだ。
魂体ってちょっとカッコつけてるが、ようは幽霊だ。誰からも見えず、双方の干渉を受けない、移動だけが出来る状態。復活するまでの間にフラフラ彷徨って、自分でリスポーン地点を決められる訳だな。
ゾンビアタック推奨かな?当然誰もが思うだろう。俺もそう思った。
でも違ったんだよ。「獣不朽」はけっして運営の善意じゃないし、ましてやバランス調整をミスったわけでもない。
ぶっ壊れ仕様の一つでも無きゃ、まともに歩き回る事すら出来ない。
ここはそういう場所だからだ。
この場から去ろうとした矢先。
墓標の如く地に突き刺さった丸太。そのてっぺんに突然、巨大なナニカが飛び降りた。
ぱっと見のシルエットは、片翼の猿、それも体格はゴリラに近い半ニ足歩行。
顔は牙を剥いたヒヒそのものだ。
翼と呼んでいいのか、木の枝が絡まり合い纏まったような謎の器官が一つ背中から天に向かって伸びている。
全身の毛並みは白一色。
長く伸びた光沢ある白毛で全身を覆った姿は、どこか白装束を連想させる。
両手足は関節から先が鎧のように発達した暗茶色の甲殻に覆われ、無数にある罅割れを修復した痕からは闘いが日常化していることを推測するのに十分だった。
・器仙猩々き
自らに【大深緑】の一部を招き入れることで領域に適応した魔獣。硬質化した四肢と「同居人」を使って闘う。
説明の雑さよ!いちいち曖昧な文章載せやがってぇぇ……
それよりも………奴めさっきから何をキョロキョロして……いや、何を探している?
奴の放つ威圧感か。
魂体では相手からは見えないはずなのに、俺は奴への視線を逸らせずにいた。
半透明な今の身体では何か触ろうしてもすり抜けるだけなのに、まるで物音一つ立てまいと俺はその場から動けずにいた。
自然と始まる膠着状態。突然の絶望的遭遇は、俺の頭から冷静な選択を奪っていた。
と、視界から消え失せる器仙猩々。奴がしゃがむように腰掛けていた丸太の上には誰もいない。
瞬きもせず穴が空くほど奴を凝視していた俺はパニックに陥いる。そして同時に聞こえたくぐもった悲鳴。それを聞いて首が折れる程の速さでそちらを向くと、案の定そこには奴がいた。
片手に見覚えのある小さな魔獣を鷲掴みにしながら。
リスポンした途端に捕まった哀れなルーキーはそれでもやはり生き残ることを諦めていないのか、握られた拳の中で暴れていたが、サイズ比キングコングの奴には毛程もの痛痒も与えた様子がない。
う○い棒でも食うように、名も知らぬ後輩の頭を齧りとり、咀嚼し、白装束の仙猿は咆哮をあげた。
…………なるほど、なるほど。
差し詰めつまんでも消えない一口おやつを見つけたってところか?そりゃあ必死に探すわな、わかるわかる。
『100秒経過。復活します』
で、次は俺の番と。わかるわか……るかボケェェェ!!!
マズイ、これはマズイぞ。
確かに死んでもデメリットはねぇが、それとこれとは全く関係ねぇ。
生き返るからって自ら疾走するトラックに轢かれるバカがいるだろうか、そういう話だ。
ああくそっ、こっち向きやがった。
彼我の位置関係は直線にある。器仙猩々が最短経路でこちらを捕まえるなら、自ずと正面からそのまま来るはず。
なんとか目で追って避け
られるはずもなく普通に捕らえられた。
デスヨネー、シッテマシタ。
一歩動く時間すら無い、まさに俊足。
掌に張り付いたコンクリ壁じみた剛皮の感触を確かめながら、俺は来世を憂いた。
あ、ちょ、やめて顔を近づけないで!
鼻息かかってるから!野性味溢れるフレグランスが顔にかかってるから!こんな皮と骨しかないトカゲなんて食っても美味しくないって!小骨だらけの雑魚なんか食っても美味くないでしょ?食うならもっと身の詰まった肉を食わなきゃダメだぜ!今は猿公だってグルメな時代なんだ、食べるものはちゃんと選ばないと。聞いてる?聞いてないだろ?ねぇやっぱりやめない?こういう小さな憎しみの連鎖が無くならないから、この世から争いは消えないんだと思うんだ。だから一人一人の意識を変えるだけでこの世は愛に溢れる素晴らしい世界はずなんだ!らゔあんどぴーす!いい言葉だろう?お前も心のメモ帳に書き留めておけよ?せっかく天下の人間様とクリソツなナリしてんだ、ヒューマニズムって知ってるか?愛だよ愛。愛は地球を救うってのは昔から言われてることなんだよ!!いいか!?俺の魂の叫びよく聞いとけぇ!!!!
「その手は人を殴るためでなく
人と手を繋ぐため!!!!
その口は人を差別するためでなく
人と愛を語るため!!!!
そし「SMAAAASH!!」」
『KG は 頭部をもがれて死亡 した。
復活まで残り 100秒』
劣等民族めぇ……殲滅してやる!!!
でも今は逃げる!!!!
ホーライの食卓事情は厳しい




