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ラフ&スムース 第三章 ⅩⅩⅩⅠ 初稿

ここでようやくⅩⅩⅦ話冒頭に戻ります。


「ラフ&スムース 第三章」






カランカラン!


とドアベルが店内に鳴り響いた。



「あ、いらっしゃいませー!」


「よ! やってるね!」


「やってるね、じゃねえよ! まったく!」


姿を現したのは日影だった。


「だってえ、しょうがないじゃない!

これでも必死になって今日のノルマ終わらせて来たんだから!

あ、もう限界……家に帰って一旦寝るわ」


「へいへい、どうせ昨日は徹夜だったんでしょ?

無理はお肌に悪いよ。 早う寝なはれ」


僕は手でしっしっと追い払う仕草を見せた。


「あーそういうこと言うんだ!?

私が無理言って笹倉のおじさんとこの子に

ダブルで頼んであげてようやく説得したっていうのに!?」


「いや、……結局千里さんは先生の言ってる意味を

すぐにはわからず後から理解できたようでしたよ?」


「うぇ? そうなの?」


「どうせカッコつかなくて恥ずかしいから

主目的をぼかして喋ってたんでしょうけど

人に頼みごとするなら体裁なんか気にせず

正面からちゃんと言わないと」


「そ、それは……なんというか……ゴメーンっ!」


「あ、あははー!

いや、ただ私の察しが悪かっただけですってー!

よく考えればすぐ気がつくことでしたしー。

それに本当は受ける気あんまなかったんですよー。

だって、一度断った身としては

そう簡単に折れちゃったら

なんだこいつ意志の弱いやっちゃなーって思われちゃうじゃんー」


「い、いや、そんなことは……

大変助かってます! ありがたやありがたやー!」


「だから私がガット張るんじゃなくて、

あくまで本人にやってもらうということで

手張りのレクチャーしてあげることにしたのでしたー」


「ありがたやーありがたやー」


僕は仏様を拝むように合掌して頭を垂れる。


「もう、冗談だよう!

教えるくらいはしてあげるよー

その代わり、なんか買って帰ってよねー?」


「はいっ! とりあえず

リストバンドとハンドグリップと

オーバーグリップテープを買わせていただきますっ!」


「お、もう買うもの決めてくれてるんだあ

殊勝な態度ですなあ、よかよか」


先日の日影たちとの練習試合での教訓だ。


グリップが汗で滑って何度か窮地に追い込まれた。

借り物ラケットのグリップが太かったせいもあるのだろうが

これを機に握力の強化と汗対策は必須だと判断した。


ファイナル形式とはいえ

たったのワンゲームで握力が衰えるようでは

今後まったくもってお話にならない。


もし公式戦で本当のファイナルゲームまで戦うことにでもなれば

一試合で5ゲーム、7ゲームと長丁場でやりあうことになる。


しかもこの前のように長いことラリーが続くような試合だと

どれだけの時間がかかるかわからない。


体力や力は付ければ付けるほど良いのだ。

当然のことなんだけど。


「ふーん、なかなかいい判断じゃん。

ま、それだけで私に勝とうなんて、まだまだだけどねえ♪」


ドヤア!


く、こいつ! 


「あ、ちゃんとフォームも見てくれてたんでしょうね~?

私、あの時念を押してそう言ったよね?」


「も、もちろんちゃんと、見てましたよ!」


忘れるはずがない。

まるで以前の自身のフォームを録画で観ている気分だったわ。

まあ、そんなもんは残ってないんだけど。

スマホも何もない時代に録画できるカメラは結構希少だったし。


「そ、ならいいわ。

期待してるわよ、我が校のホープさん!」


「たばこの銘柄かな?」


「馬鹿! ていうかよく知ってるわね?」


「あ、いやその、たまたま?」


「まあいいわ、それじゃあ、千里さん、だったっけ?」


「あ、はいそうですー」


「あとお願いします。 悪いわねライバル校なのに」


「いえいえー、大事なお客さんでもあるのでー」


「じゃーねー」



ヴォンッ! ヴォンッ!


ヴォオオオオオオオン!!


ギャキャキャキャヴォオオオオオオオンッ!



「…………」


「……あはは、飛ばすねえー」


「お恥ずかしい限りで……」


「ねえねえ! ところで、さっき言ってたフォームって、いったいどんなの?」


「い、いや、まあ……その……」


なんとなくだが、やな予感がしてちょっと言葉を濁してしまった。


「あ、やっぱ秘密兵器かなにか?

だったらそりゃ言う訳ないよねえ

失敬失敬!」


いやまあ、只のフラットサーブなんですけどね。


「ちょっとフォームの矯正を受けただけですって

まあ、単に僕の再現力が甘かっただけなんですけどね」


「ふうん、再現力……ということは、元ネタがあるんだ。

誰か、優秀な選手の真似とかー?」


「ま、まあ、そんなとこですけど」


優秀かどうかはさておき。


「私、そういうの得意ー!

毎日先輩達や睦月のフォーム盗むのが日課なんだあ」


「……! ち、千里さんは睦月さんのペア、なんですよね?」


「うん、そだよー

昨日も睦月のトリックショットを

いくつか再現してすごく褒められちゃったーえへへ!」


「…………」


…………まさか、ね。 考え過ぎか……。


もしかして、この子、相当できる子なのでは?

警戒すべきは睦月さんだと思っていたけど

どうも睦月さんだけマークしていればいいって感じじゃなさそう……

実際、練習試合で羽曳野先輩ペアも破られた訳だし

あのプレイが全力とは言ってはいたけれど

そのままその言葉を鵜呑みにしてはいけないような気がする。


「あ、ごめんねー作業が止まっちゃってたね。

んじゃさっさと横糸も張ってしまいましょー」


「あ、うん」


「横糸はねー

縦糸と交互に一個ずつ交差させて飛ばさないように気を付けてねー

そんで縦で変形したフレームを

テンションかけて修正していくんだよー」


「う、上からで、いいのかな?」


「うん、初めのうちはきつめで少しずつテンション落としていく感じー」


む、難しいな……


「こ、これって、ストリングマシンだともっと簡単にできるの?」


「うーん、そだねー

千枚通しで固定せずにクランプでガットを挟み込めるし

テンションは数値で指定できるから楽と言えば楽かもねー

でもストリングマシンと言っても色々だよー

手動式と電動式があるし、手動式でも分銅式とかクランク式とかあるしねー」


ふ、分銅? クランプ? クランク?


「ここもそうだけど、お店に置いてあるのは大体電動式だねー

お値段高めだけど、正確な仕事ができるし」


「た、高めって?」


「商売用だからねー

でもそこまでじゃないよー

軽自動車買うよりは安いかなー?」


「そ、そう……」


つまり、最低でもうん十万くらいはするってことだよな……


「部活とかで購入して使うのなら手動式が一般的だよー

ウチの部活で使ってるのも手動の分銅式だよー

最初は戸惑うかもだけど、慣れれば安定して張れるようになるよー」


「その手動式だと、どのくらい?」


そこまでの高いものじゃなければ

あわよくば顧問の日影をたぶらかして

学校から下りる部の予算から買えるかもしれない。

今後も自力でガットを張らなければならないなら

手張りよりもストリングマシンを使った方が断然良さそうだし。

それに他の部の皆も使うならショップの張り上げ代金を考えたら

すぐに元が取れるかもだし。


「うーん、それでも二桁はするかなあ?」


「じゅ、十万以上!?」


これはちょっと、厳しいかも……

学校から部に年間どのくらいの

部活動費を貰えてるかは知らないけれど

もし仮にマシンを買えたとしても残りの予算じゃ

もう新品のボールすらまともに買えなくなりそうだよなあ……


「あ! 海外メーカーの安い分銅式で良いなら安いのあるかもー?

クセ強めだけどそれでも使うのに慣れればなんとかなるしねー」


「あるよ」


「「えっ!?」」


二人、一斉に後ろを振り向くと、そこには笹倉の店主がいた。


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