ラフ&スムース 第三章 ⅩⅩⅧ 初稿
とりあえず、フージョンできてるのはここまでです。
あれ、指先曲がってた?
「ラフ&スムース 第三章」
平然と普通に遅刻してきた我が女子ソフトテニス部幽霊顧問である日向日影。
颯爽と車から降りてきたかと思えば、突然
「今日は、練習試合をします」
そう、言い放った。
「いきなり、遅刻してきて何言い出してんすか? 日影……せんせー」
ちなみに、今、僕は孝志OSになっている。
「ふっふっふー! もう再来週には試合本番だしね
そろそろ実戦形式にも慣れておかないと、
肝心な時に力出しきれずに負けちゃったりしたら、
悔やんでも悔やみきれないでしょ?」
「そりゃまあ、そうですけど。
……ということは、これからレギュラー陣総当たりで試合とかするんですか?」
「ちっちっち! 甘いねー山桃くん!」
なんか知らんが人差し指を振りながら格好つけてもったいぶりながら彼女は話しだした。
さっさと言えよ!
「手の内わかってる同士で試合したところで、あまりレベルは上がんないわよ」
……いや、他のメンバーは知らんけど
少なくとも僕は身内の手の内も殆ど知らないんだけど。
昨日練習試合で対戦したひなの部長以外だと
なんとなくでわかるのは春菜とみゆきちゃんと、
あとはせいぜい羽曳野先輩くらいか……
あ、でもみゆきちゃんとは乱打だけだし
しかも僕に合わせて相手してくれてたから
真の意味での実力は、まだよくわかってないよな。
「……つまり、他校との練習試合でも組んでくれたってことですか?」
「そう! それ! なんだ、なかなかおつむ回ってるじゃないか山桃くん!」
……いや、たぶん今の会話で先を予想できなかった人って、まずいないだろ!
「……凄いね、鈴音ちゃん……よくわかったね。
私なんかおかーさんが何を言いたいのか、さっぱりわかんなかったよ」
「…………」
おい! 娘!
今日は不思議と部活に顔は出してはいるが
今まで遅刻大魔王で練習には殆ど姿を見せなかったひなの部長が
僕の横に来て何やら感心していた。
ていうか、いつの間に僕の呼び方”鈴音ちゃん”になったんだろう?
昨日までは”山桃さん”だったような気がするんだけど。
「……で? その相手って?」
「もう来てるわよー!
実はね……これがあ……私の……なんと! 母校です!」
「……えっ?」
こいつの母校って、つまりあれだよな?
「昔のよしみで、お願いしたらすんなりおっけー貰っちゃったの!
どう? 見直した? 私もやるときゃやるのよ~」
「って! 赤石中学かよっ!!」
「えっ? そうなん? 鈴音?」
春菜が会話に入ってきた。
「あ、ああ……日影先生は、赤石中学の出身なんだよ」
「へ、へー…………そうだったんや……」
でも確かこいつ、卒業直前に転校して行ったんだよな。
だから、どこの高校に行ったのかも結局わかんなくなっちまったし
本当は、確か地元の普通科高校に行くって言ってたんだが
まあそれも迷ってたようで、確定ではなかったみたいだけど……
「……あれ? 私あんたに出身校の話なんて、したことあったっけ?」
ぎくう!
「……や、やだなあ日影センセー
前にバンドの映像見たって言ったじゃない「わーーーわーーー! ナニモキコエナイーー!」」
「…………」
そんなにトラウマになってたのか? あの縞パン事件は?
ま、ごまかせたようで何よりだが。
「お、おほんっ!
それでは、気を取り直して」
パチンッ! と彼女、日向日影は軽快に指を鳴らした。
英語表記だとこれは「フィンガースナップ」という。
なかなかカッコイイ表現だ。
日本語表記だと「指ぱっちん」
……う~ん、この落差よ。
まあ、日影先生は日本人なので指ぱっちんでいいのかな?
うん、それでいいや。
「かも~ん!」
ドヤ顔で得意げにそう声を上げた。
すると、車の後部座席のドアがガチャリと開く。
「……!」
まさか、もう来ていたのか。
けど、この車は普通小型乗用車。
つまり定員は五人だ。
日影先生を除くとどう多く見積もっても4人。
試合形式だと3組と対戦するので、引率の先生も含めると最低7人は必要だ。
後から引率の先生が連れてくるのかな?
と、そう思っていたのだが、降りてきたのは二人のみ。
その内の一人は見知った顔だった。
「! ち、千里……さん! と、あとは…………誰?」
どうやら、日影の車に乗っていたのは千里さんら二人だけのようだ。
睦月さんは来ていないっぽい。
まあ、流石に仮に来ていたとしても
練習試合なんかは勝負のカウントに入らないだろうけど。
「……あれ? 山桃、もしかしてこの二人のこと、知ってんの!?」
「あ、はい。 一人は。
”スポーツショップ笹倉”の娘さん……いや、お孫さん、でしょ?
もう一人の方は…………すみません、わかりません」
「なんだ、じゃあ話が早いわね。
残念だけど大会前だしね、向こうの監督が
手の内全部見せるわけにもいかないって
この二人しか貸し出ししてくれなかったのよ。
でも、その代わり、
この二人が赤石中学女子ソフトテニス部内では中核を担っている。
つまり、手の内の大半は見せてるようなものだって、そう言っていたわ」
日影の説明に反応したのか
千里さんはこっちに寄ってきて補足? をする。
「それはちょっと買いかぶりすぎですー。 日向先生。
仁科先輩はともかく、私なんかはまだまだひよっこですー
それに、最大戦力のむ……」
「すとおっぷ! 笹倉ちゃん!」
「むむむぐっ!? むぐうー!?」
千里さんはもうひとりの選手さん(仁科先輩?)
に後ろから両手でおもくそ口を塞がれていた。
まあ、企業秘密を漏洩しそうになったから
コンプラ違反で強制ストップかけられたんだろうけど、
何を言おうとしてたのかは大体知ってるけどね。 僕だけは。
あ、いや、みゆきちゃんもか。
……いや、マテ!
良く考えたら日影もひなの部長も一緒に住んでるなら当然知ってるのか。
じゃあ企業秘密でも何でもないじゃん!
もしかしてそう思ってるのは千里さんの相方の仁科さんだけなんじゃ……?
「笹倉ちゃん、私達二人の情報は
これからたっぷりお見せすることになるんだろうけども、
ここには無い情報までは言う必要はないんだよ?
顧問の先生同士がいくら仲が良いからって言っても
一応、同じトーナメントを競い合うライバル校なんだからね!」
「むぐ! むぐむぐうううう!」
わかった! わかったからもう離して!
おそらく、そう言いたいのだろう。
残念ながらたぶん通じてないようだけど。
そしてその初見の人物。
仁科という人は千里さんの口を塞ぎつつ
丁寧に挨拶を始めた。
「本日は貴校の胸をお借りしに参りました。 どうぞよろしくお願いします。
あ! 申し遅れました。 私は赤石中学女子ソフトテニス部部長、
仁科と申します! 以後よろしくですっ!」
ぺこりと、先生を含む皆に勢いよくお辞儀をした。
千里さんも彼女の両手で無理やりお辞儀をさせられている。
「む、むむむむ、むむむむむむ!」
よ、よろしく、お願いします!
たぶんそう言っているのだろう。
あーなるほど。
一人は部長さんだったか。
そりゃそうだよな。 部長さんくらいは流石に来るか。
引率の先生はどうやらいないみたいだけれど。
……ん? いいのか? これ?
日影が全責任負うってことで話付いてるってことなんかな?
「こちらこそ、よろしく頼むわね。
確か、新部長さんだったわよね?
こんな時期に交代なんてめずらしいわねえ」
「え、えと、はい。 ちょっと、色々ありまして……」
あれ? ちょっとしどろもどろになったぞ?
そこでようやく千里さんの口が解放された。
「……ぷはあっ!
あー、そこは余計な詮索は無用にしてくださいー。
たとえ元部長がいなくなっても
御心配には及びません。 少なくとも
ウチの戦力はまったく落ちてはいませんからー」
仁科部長が言い淀んでいたところを
千里さんがそれを遮った。
あまり触れて欲しくない部分だったのだろうか?
前任の部長さんがどうなったのかとか
多少は気にはなるけどそれは他所様の内部事情だ。
チーム再編成によってより手強くなっているってのなら
それは成功しているってことで問題は無いのだろう。
こちらに取ってはより厄介になっただけではあるのだが。
「そ、……そう! むしろ睦月ちゃんと笹倉ちゃんが来てくれて
戦力は飛躍的に上がっちゃってるよねえ、私たち!」
「…………」
いや、あんた自分で気が付いてないかもしれないが
さらりと睦月さんのお名前出ちゃってるんですけど。
返答に困ってる間に他の注意点に気が回らなくなっちゃったんだね。
意外とポンコツだ、この新部長さん。
「部長、そこは睦月だけにしておいてください。
私なんかを入れられると恥ずかしいですー」
「そ、そう? 笹倉ちゃんも十分凄いと思うけどなあ……」
あー、なんかもう二人とも先刻の企業秘密漏洩の件、どうでもよくなっちゃってるよ。
まだ部長になって間もないせいもあるのだろう。
若干頼りなさを感じるところもあるみたいだが
それでもここは謙遜と受け取っておこう。
何せ二人だけでこの敵地に乗り込んできたんだ。
きっと弱い訳がない。
「あ、あ~……、うん、ま、いっか……」
日影もそこまで突っ込む気は無かったのだろう。
部長交代の件、予想外に過剰な反応をされて今は戸惑い気味に別の話題を探してるっぽい。
あ、なんか思いついたのか
くるりとこちら側に顔を向けて喋りだした。
「ほんとは睦月も誘ったんだけどねー、でもなんか
『そんなことしたら、本番が面白くないでしょう?』
とか言って拒否されたのよね?
そんなんで面白いとか面白くないとかあるんかな?
なんかよくわかんないんだけどお」
「あ、あー……」
う、うん……それたぶん僕のこと言ってるんだと思う。
とりあえず、曖昧な相槌で胡麻化すしかなかった。




