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洞窟の薄明・2

 既に、チャイムは幾回をも過ぎ、寂れた交換ノート部の部室にわずかに差し込んでくる陽の光さえ、失われようとしていた。

 恐らく、この独立した空間である旧館を除いては、この学校中が自分達の行方を探しているのだろう。祐はそんな考えを、脳の奥の奥へと抱きながら、それでも隆志の言葉の一言一句を聞き逃すまいと耳を傾けていた。

「……その光のあと、三人は消えた。死神は、言った。『では、二人を還します』と。そして、消えてしまった三人について、全ての記憶や記録を消去する、と。それが決まりやから、って。抵抗する術はあらへんかった」

 祐から見て、隆志はまるで囚人のようだった。ただ、ただ、自分の罪を告白する事に、全てを抱いている、そう映った。

「祐や美樹だけやない、自分も、全部忘れてた。でも、何やろな。ほんのきっかけで、思い出して……。申し訳なかったんや。……三人を消して、しかもそれを忘れてたこと」

「どうして……私達に話を?」

 長く、聞いているだけだった美樹が、そう口を開いた。

「……知る事。それがこの世で、一番尊い事やと思ったからや。知るからこそ、友情も恋情も愛情も生まれる。逆に言えば、何も知らん関係やったら、何も生まれへん。五人と、近藤先生は、お互いに知り合えたんや。それを、自分が犯した過ちで、全部失ってしまって、相応に報いられるべき三人が知られてすらいない事が、悔しかったんや。二人が思い出さへんくても、話をして知って貰えたら、ええと思った」

 そこで隆志は初めて、儚いながらも笑顔を浮かべた。だが、それをすぐに戻して、

「ほんま、すまんかった。許してくれとは言わん。けど、消えた三人の事を、心に留めておいてくれ」

 と、椅子に座っている祐達に、立ったまま頭を下げた。

 祐と美樹はそして、立ち上がった。

「良いよ。俺達が弱かったのが、そもそもの原因だ。俺がしっかりしていたら、お前のガールフレンドも死なずに済んだんだ。ごめん。謝っても謝り切れないけど、ごめん」

「三人の事、ほんの少しだけど思い出したかも。確かに居たような、そんな気がするよ~」

 二人は、隆志の肩を叩いて、顔を上げさせた。

「一つだけ、質問があるんだ。些細な事だけどな」

「……ああ、なんや?」

「近藤先生は、スモーカーだったんじゃないか?」

 隆志の表情に驚きが走った。だが、それも一瞬で消え、崩れそうなその顔の、目にはたくさんの涙が溜まっていた。

「そうや……。その通りや、祐。ありがとうな。ほんま、ありがとうや……」

「隆志くん。良かったら、交換ノート部に、いらっしゃいだよ」

 美樹がそう、微笑む。祐もそれに従って、笑う。そして隆志も、若干の間をおいて、消えてしまった昔のように、笑った。

以上、完結です。

ここまで読んで下さったお優しい方、本当にありがとうございました!

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