69 自由なんてない空へ
「神様はね、お前らなんて全員どうでもいいんだよ。
そもそも選ぶわけないだろう?有象無象と湧いているだけの汚らしい虫けらなんて。
正直さっさと全部消してやりたいと思っているんだけど……まぁ、仕方ないね。
グランが望むなら、とりあえず残しておいてやる事にした。
ただしそれは善人だけでいいらしいから、悪人のお前はどう足掻いても消えるんだよ。
お前の『終わり』は、願いが叶いそうで良かったじゃないか。
『全てを犠牲にして歴史に名を刻んだ狂人は、最後は自分の体を実験体として使い、壮絶な苦しみと痛みの中、息絶えました。』
これから精一杯その人生を生きて消えろ、バイバ〜イ。」
俺がゆっくり足を上げると、レイケルは自分の意思に反して立ち上がり、そのまま道を引き返していく。
それを追うように兵達も同様に自分の意思無く歩いていくのだが……残念な事に意識は全員ハッキリしていて、恐怖に引きつった顔でずっと悲鳴を上げていた。
「た、助けてくださいいぃぃぃ────!!!!」
「実験体なんて、絶対嫌だぁぁぁぁ!!!」
そんな叫び声は結構長く続いていたが、やがて聞こえなくなると……俺はグランに視線を戻し、しゃがみ込む。
「グラン様……グラン様……。」
その愛おしい体を擦って、覚醒を促すと……直ぐにグラン様の目はピクピクと痙攣しゆっくりと目が開いていった。
「────グラン様っ!!!」
少々大きめな声で名前を呼ぶと、グラン様は悲鳴を上げて飛び起きたので、俺は優しくグラン様に声を掛ける。
「……???あの、グラン様……どうかされました??」
「え、えええ????!だってお前、神王……。」
「か、神王……????」
せっかく一からやり直すんだ。
俺は昔の記憶を全て封印し、知らぬフリを突き通した。
すると心の底から俺が無事で良かったと、安堵する気持ちや喜びの素直な気持ちがぶつけられ、『あぁ、幸せだな』と心は温かい気持ちで溢れる。
そのままそれらしい理由を話すと、グランは納得して、安心したのかボロボロと涙を流した。
それを綺麗だなと眺めていると、グランは俺の病気がなぜ治っているのかと不思議に思った様だ。
何故かと質問されたわけだが……俺の力はグラン様によって覚醒した様なモノ。
クスクス笑いながら頓珍漢な原因を予想したグラン様に言った。
「どうでしょうか?分かりませんが……俺はグラン様のお陰だと思ってます。
ほら、以前図書資料室に連れていってもらった時、それに似た内容の絵本があったでしょう?
傲慢な王様が神の怒りに触れて、醜いカエルにされてしまった話。
確か、貧しさに負けない心優しい少年によって、元に戻ったんですよね?」
「あ、あぁ、あったなそんな絵本。
確か、その少年の優しさに触れてなんちゃら〜って話だっけ?
まぁ貧しさに負けずに、真面目に生きてるヤツが幸せになるんだぞ〜っていう嘘っこ話だけどな。」
前に読んだ時、グランはこれをそんなに好きじゃないと言っていた事を思い出し、もう一度クスリと笑う。
どうしようもない『現実』は、欲望の神の支配されていたモノ。
大丈夫。
そいつはこの後、またすぐに消すから……これからは、この絵本の様な世の中が正しいモノになる。
俺はクスクスと笑ったままそれに答えた。
「いいえ。きっとそれはこの世の真実になりますよ。
グラン様は真面目で優しくて、人の世の醜さの全てに負けずに生きてきました。
だからこれから沢山の幸せの中で生きる事ができるでしょう。
そして元に戻った王様は……少年に感謝を捧げ、一緒に幸せになりますよ。
今度は間違えずに。」
「んん??……あ〜、絵本の最後の事か?確かに最後はそうなったかもな!」
同じ神により醜い姿に変えられていた終わりをもたらす神様は、心優しい男に拾われて……。
貧しさにも負けずに復讐に身を委ねなかったその男によって、最後は本来の力を取り戻した。
だから、これから沢山の幸せが俺達を待っている。
ワクワクした気持ちを抑えられなくて、笑顔のままグラン様を見つめると、グラン様は何かを決意した様に俺をまっすぐ見た。
「……なぁ、サン。」
グラン様は俺の名前を読んで、ニコッと笑顔を見せた。
これからどこまでも一緒にいる俺達。
俺達にはこれから輝く様な人生があって、別々であるが故に色々な願いも夢も生まれていくだろうけど……離れるなんて選択はない。
一緒にいられるならなんだっていい。
だって……それが許されないなら、全部消しちゃえばいいんだから。
人もこの世界も。
「とりあえずこれから一緒に空の先に行ってみないか?自由ってヤツを堪能してみようぜ!」
グラン様の言葉を聞き、俺は幸せで仕方なくて、思わず笑顔になった。
そして溜まらない気持ちになってグラン様に抱きつくと、絶対に離さないと言わんばかりに、その身体に腕を巻きつける。
「……それがグラン様の幸せなら喜んで。これから沢山幸せになりましょうね、グラン様。
────今度こそ。」
永遠に一緒にいましょう。
ずっとずっと。
空の先に自由なんてないけど。
グランがその事に気づかず幸せに暮らせます様にと願いながら……俺は空の先を見ようとするグランの両目を優しい手つきで隠した。




