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9:犠牲

傷ついた世麻の前に現れた相手に、不利な状況に追い込まれた。


!注意!

血や死の表現があります。

苦手な方はおすすめできません。


――――…キンッ!キンッ!!


激しい金属音が鳴り響く。

「っ、ハァ…。」

息が切れて、体が重く思うように動かない。

「その程度かよ!?」

相手は疲れを知らず、変形した鋭い腕を振り回す。

僕は防ぐので精一杯で、攻撃に移ることが出来ない。

不利な状況が続く。



 

                   犠牲




             

「あっ…。」

後ろはもう行き止まりで、逃げることは出来ない。

「やっと捕まえた。」

笑顔で近づいてくる相手から目を離さず、

動揺する頭をフル回転させる。


どうする?

逃げることは出来ない。

このままだと殺されるのがオチだ。


手に、仕込ませているナイフに触れた。

ハッとして相手の腕をみる。

相手の腕は肘から手にかけて変形している。

変形していない肘から上は…?


相手はやられっ放しの僕に油断している。

相手は僕にどんどん近づいてくる。

そして、僕の胸倉を掴み、宙へ持ち上げた。

「くっ!」

喉が締め付けられ、思うように息ができない。

ナイフを握り締め振り上げた。

「何をする気だ?分かっているはずだろう?

お前の銃も剣も俺の腕を突き通さない!傷をつける事でさえっ…!」


相手が話しているすきに二の腕にナイフを刺した。

変形していない二の腕は思った通り、ナイフで裂けた。

「ぅわぁぁああ!」

血が噴出し、相手は痛みのあまり僕の胸倉を放した。

首が絞められていたからか、うまく着地が出来ず

そのまま地面に落ちた。


「何をっ!!」

血相を変えて相手は暴れ狂う。

相手は体中を粘土のように操り始める。

「くそっ、くそっ!」

怒りのあまり、感情的になる相手は空きだらけだった。


――――…カチッ!


火花が散る音がして相手は動きを止めた。

その途端爆発音が鳴り、爆発した。

ほぼ全ての力を使い果たした僕は倒れ込んだ。


やった…


そう思ったのもつかの間、

奇声をあげた相手が爆発でおきた煙から飛び出してきた。

「ハァァァア!!!」


もう、原型を留めていない変形した姿は恐ろしかった。

体中変形した姿は攻撃するすきがない。

なにより、体は動かず、起き上がることさえ出来ない。


「う、ごけっ!」

唇を強く噛むが、力は入らない。

相手は僕をまたぐように立ち、ナイフを構えた。

「ハハハッ!」

声を出して笑う相手は、グッと顔を近づけてきた。

息が顔にかかる。

「…死ね…!」

ナイフが僕に突き刺さろうとした途端、

銃声が聞こえた。


「っ!?」

相手は僕から離れた。

驚いて銃声が聞こえた方向を見ると、歌麻《かお》が立っていた。

「か、お?」


―――…ズキュンッズキュン!!


歌麻にいつもの笑顔はなく、

どこか遠くを見るような何も映らない目をしていた。


相手は身軽に弾を避けていく。

軽やかに着地をして見せると、歌麻に鋭い腕を向けた。

「近くにきたら!?」

落ち着きがなく、叫ぶ相手に恐怖を覚える。


歌麻?

どうしてここに?

別の場所で反組織について調べてたんじゃねぇの?


歌麻はゆっくりと歩みを進め、相手に近づいた。

相手との間にいる僕の横を通った。

そのとき、いつもの明るい笑顔を僕に向けた。


『大丈夫』


声を出さずに言い放った言葉は力強かった。


「お前、なんなの?

俺はそこの坊やと殺り合ってんの。分かる?

邪魔すんなってことだよ。」

挑発するようにくつくつと笑う。


悔しい。

あんな相手に負けるはずがない。

なに焦ってるんだ?

冷静に考えれば、僕のほうが能力《ちから》の攻撃力が高いはず。

即効性もある。

なにより、能力《ちから》を持続し続けているのに

体力がそう長く続くわけが無い。



「そうなの…。それなら選手交代って事で。」


歌麻が何かを操るように手を動かした。

「は?」

バカにしたように相手は笑ったが、一瞬でその顔は曇った。

「な、んだっ!?」

相手は歌麻の指に操られ動く。

「そう、そのまま。」

歌麻の声は凜としていて、殺気が隠れていた。


「くっ…」

負けるわけにはいかない。

そう思って僕は体に力を入れた。

能力《ちから》がすっかり抜け落ちているのに違和感を感じた。

何かが足りない。

能力《ちから》がないだけで、体はそう感じる。

なんだか悔しかった。

普通の人間にはもう戻れない、思い知らされた。


力が思うように入らず、震える。

立ち上がろうとしても、痛みや震えで立ち上がれない。

「うご、け…動けって…!」

足を殴ってみるが、麻痺しているのか何も感じない。

「は、やく!」

自分にイライラする。

言う事を聞け、殺されたくないなら、さぁ早く。

いくら思っても虚しいだけだった。



「ねぇ…?踊って?」

歌麻は腕や指を踊るように動かしていく。

相手はステップを踏む。

「やめろぉおお!」

相手は自分の体を睨みつけた。

体が勝手に踊りだす。

相手にとって屈辱だったに違いない。

歌麻は更に体を動かし、相手を操る。


これがマリオネット。

操り人形のように操る。

それが歌麻の能力《ちから》。


「やめ、て、くれっ…!」

歌麻は手で銃をつくった。

そのまま自分の頭に向けた。

相手は本物の銃を頭に向ける。

手は大げさなほど振るえ、真っ青な顔はさっきの威勢を感じられない。


「ばーん…」

歌麻はそう呟くと手でつくった銃に撃たれるふりをした。


―――…ズキュンッ!


銃声が響いた。

相手は歌麻に操られ、自分で頭を打ち抜いていた。

血が飛び散り、体だけが形を残し

頭は原型を留めていない。

もともと変形させていた体は、元の形が分からなくなった。



「はい。」

「え…?」

歌麻はいつもの笑顔で僕に手を差し出していた。

僕がその手を取ると嬉しそうに笑った。

歌麻に引っ張られながら立ち上がると、足元がふらついた。

足は震えるし、力は入らないし、立っているだけ精一杯だった。

歌麻は僕の腕を掴み、それを支えていた。


「まだ……。」

歌麻は小さく言った。

「まだ、倒れちゃダメだよ…。

字麻《じお》をちゃんと家に帰してあげなきゃ。」

歌麻は寂しそうに笑うと、傷ついた僕の腕に布を巻きつけた。

「誰一人として、いなくなっちゃ駄目。

でも、字麻はいなくなった。だから、せめて安らかに眠れるように」




戦いに犠牲はつき物だって先生は言うけど、

僕はそうは思わない。


確かに仲良くしてた能力者が帰って来ないことは何回もあった。

殺されてもおかしくないこの世界で、

生きていくには誰かを殺さなければならない。

それは相手も同じで、

その犠牲に僕の仲間が選ばれた。

たったそれだけのことなのかも知れない。


それでも、この命が尽きるまで仲間を守れば犠牲は出ない。

だから、先生…?

犠牲は絶対に出さない。

今の僕には守ることは出来ない。


強くなる。

仲間を守るために。

強くなる。

自分に勝つために。

強くなる。

過去を振り返らないために。



「音麻…、探すぞ。」

「うんっ!」


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