3話
手動投稿だから投稿忘れまくる
「......エラ様......シエラ様!」
「はいっ!」
飛び起きたシエラのおでこは、ちょうど除き込んでいたクロエにクリティカルヒットした。
「つぁっ……」
「いっ……!?」
シエラとクロエの悲鳴が重なった。
「おはよーさーん」
テントに入ってきたチェイスが、額を押さえて沈黙する二人に顔をしかめる。
「お嬢さん、そろそろテント片付けるぞ?」
「……いたわりの言葉は?」
「どんまい」
「シエラ様石頭すぎません?」
それぞれ気怠げに荷物をまとめ、三人はテントをたたんだ。
「あ、みなさんおはようございます!」
滴る水滴を朝日に煌めかせたオスカーを、シエラは冷めた目で見る。
「なんで朝からそんなに元気なんですか……」
「あ、僕は人魚は眠らないんです。ハーフの僕も睡眠は殆どいらないので」
あまり朝の強い方でないシエラには羨ましき限りだったが、朝からすぐ横でハイテンションになられるのも鬱陶しい。
「さっさと行こうぜ」
チェイスが戦闘を歩き始めた。一応護衛としての仕事はしてくれるつもりらしい。
しばらく歩き、森が本格的に険しくなってきた。動きにくくなる上にモンスターもここから増えてくる。これからが本番だった。
「いぎゃぁぁぁ」
突然の悲鳴にシエラは振り向いた。
「スライム!スライム足に付いたぁぁぁ!」
オスカーが半べそをかく。森スライムは最弱のモンスターだ。冷静に考えて半狼のオスカーが倒せないはずがないのだが……性格の問題らしい。
「靴溶けてる!溶けてる!!」
「はい黙ってねー」
シエラは呆れながらスライムにナイフを突き刺す。
「うわぁぁぁぁ」
またもや悲鳴をあげるオスカーの顔を見ると、蜘蛛がついている。
「いや知らないよ……」
「とって!はやくとって!」
チェイスがため息をつきながら蜘蛛を払う。呆れ返った3人が歩き始める。
「ごめんなさい……僕迷惑ばかりかけてますね」
「今更?」
「今更だな」
「森に閉じ込められた時点で、ですね」
誰一人としてフォローを入れないため、オスカーはさらに落ち込んでしまった。
「僕、もう置いていって良いですよ」
完全にしょぼくれたオスカーに、シエラはため息をついた。
「何言ってるの、オスカーを助けるために森に入ったのに、置いてったら骨折り損でしょ?」
「……すみません」
今日何度目か分からないため息をついたシエラは、オスカーの頭を撫でる。
「ちゃんと責任はとるから、安心して?」
「はいっ!」
やっと笑顔が戻ったオスカーを見たシエラは、満足気に微笑みながら、頭撫でたら手が濡れた……と、少し後悔していた。
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
突然オスカーが本日最大の絶叫をあげる。そろそろ慣れてきた3人は苦笑した。
「今度は何?」
オスカーをみるも、スライムや蜘蛛はついていない。
「いったいどうし……」
シエラが動こうとしたところで、オスカーがどこかを指さした。そちらに振り向いた3人は、思わず身動きが取れなくなる。
「ぐるる……」
コウモリのような翼を揺らし、硬いウロコにおおわれた巨体が、鋭い目でこちらを睨んでいた。
「ワイバーン……」
恐怖の象徴、ワイバーン。凶暴で人を見れば襲いかかり、鋭い鍵爪や炎を使い一撃で殺してしまう。
「なんで、クレイフォレストにワイバーンがいるんだよ!」
チェイスが盛大な舌打ちをかまし、剣を抜いた。
「くそ!全く歯がたたねえ!」
金属同士がぶつかるかのような音が響く。ダメージを受けてるいるのは確実に剣の方だ。
「チェイス!避けてください!」
クロエが叫び、咄嗟にチェイスが飛び退く。ワイバーンが炎を吹き、チェイスたちの頬を熱風が掠めた。
「迂闊に近づけねえな……」
額には汗が滲み、生臭い匂いが鼻を突く。チェイスはもう一度剣を構えた。
「下がって」
シエラはチェイスを止め、前に歩み出た。
「火炎魔法 極の部 インペリアルキャノン」
強すぎる光に目を閉じ、次に開いた時、ワイバーンの姿はなかった。
「……は?」
クロエが唖然とする。そこにはただ、灰の山が存在したからだ。
「いや、いやいやいや!おかしいだろ!これ全員で協力しながら死闘を繰り広げる流れじゃねえの!?骨まで灰になってるぞこいつ!」
「お、落ち着いてチェイス……キャラ崩壊してるから」
がくがくと肩を揺らされシエラは目を回す。
「やっぱりもう俺いらねえだろ!」
「いや、対人戦の時はチェイスじゃないと困るから……殺しちゃうし」
もはや返す言葉すら無くなったチェイスが、力なく笑う。
そんな様子を、尻もちを着いたままのオスカーが、ぽうっと眺めていた。
「……っこいい」
「え?」
シエラが振り返る。
「シエラさん」
オスカーは立ち上がると、シエラに目を合わせる。
「みんなが貴方を狙っているって言いましたよね」
オスカーはふっと微笑んで言った。
「貴方の相手、僕じゃだめですか?」
木漏れ日を反射する水滴がやけに神秘的に見え、シエラは驚いた。この青年は、こんなにも美しかっただろうか。
「オスカー」
「はい」
シエラはひとつ、ため息をついた。
「ごめんなさい」
「えぇぇぇぇ……」
ぺこりと頭を下げるシエラに、オスカーは落胆した。
「なんでですか……」
「恋愛対象じゃないから!」
今日1番の清々しい笑顔で、シエラは言い放った。