↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/12

第1話 たい焼きとポメラニアン

 仕事帰りの宇宙船は、いつもの自動操縦に任せていた。

 航路は安定、警告もなし。

 あとは、目的地に着くのを待つだけだ。


 操縦席に座っていると、

 後ろから、小さな気配が近づいてくる。


 クリーム色のポメラニアン、くーちゃんだった。

 いつから一緒だったのかは、もう覚えていない。


 ぴょん、と軽く跳ねて、

 そのまま俺の膝の上に飛び乗る。

 くるりと丸まり、落ち着いたと思った次の瞬間――

 なぜか、俺の顔のほうにお尻を向けた。


「……いや、そっち向きか?」


 文句を言っても、意味はない。

 くーちゃんは気にした様子もなく、

 そのまま、すぅ……と寝息を立て始めた。


 時々、思い出したように頭を上げる。

 周囲を一瞬だけ確認して、

 また、伏せる。


 その重みと温かさを感じながら、

 俺の腹が、小さく鳴った。


「……あー。飯、食わないとな」


 しばらく、そうしていた。


 ぼーっとしながら、

 視線を鞄に移したときに、ふと思い出した。


***


「よかったら、これ」


 客の中年の男性が、声をかけてきた。


 やけに存在感のある、太いフレームの眼鏡。

 レンズには、ほんのり薄紫の色が入っている。

 その人は、紙袋から何かを取り出した。


「たい焼きです。

 福袋に、思ったよりたくさん入ってましてね」


 差し出されたのは、

 パックに入った、たい焼き。


「新年ですし」


 そう言われて、

 ようやく思い出す。


 ――そういえば、今日は年明けだったか。


 スペーステレビで、

 カウントダウンをやっていた気がする。

 でも、特別な実感は、なかった。


「ありがとうございます」


 そういって、受け取った。


***


 膝の上で、くーちゃんが小さく寝息を立てた。


 鞄に手を伸ばした、そのとき。


 くーちゃんが、ぴくりと耳を動かす。

 すぐに、むくっと起き上がり、

 ひょい、と膝から降りた。


 床に着くと、

 一度だけこちらを見上げてから、

 レンジの前へ向かう。


 鞄から、取り出したパックを開けると、

 中には二つ。

 定番の、クリーム入り。

 それと――お好み焼き入り、という変わり種。


 宇宙船の簡易レンジに入れて、温める。


 レンジの前。

 足元に、ちょこんと座る。


「きゅーん」


 小さく鳴いて、

 じっと、こちらを見る。


「まだだぞ」


 そう言っても、

 視線は逸らさない。


 温め終わり、

 たい焼きを取り出す。

 クリームのほうを、先にかじった。


 その瞬間、

 足元で、ぴょん、ぴょん、と跳ねる気配。


 くーちゃんが、

 必死にこちらを見上げている。

 そして、行儀よく――おすわり。


 視線が、

 たい焼きから、一ミリも離れない。


「……お前な」


 無視して食べ続けても、

 諦める様子はない。


 膝を、チョンチョン、と前足で叩く。


 お好み焼き入りのほうを食べはじめても、

 まだ、じっと待っている。


 仕方なく、

 ソースのついていない、端っこの部分をちぎる。


「これだけだぞ」


 差し出すと、

 ぱくっと咥えて、もぐもぐ。


 あっという間に食べ終えると、

 満足したのか――

 床に、べたん。


 お腹をつけて、

 そのまま動かなくなった。


「……切り替え早いな」


 くーちゃんは、もう寝ている。


 宇宙船は、静かに進む。

 外は、変わらない星の海。


 新年になったけれど、

 今日の一日は、特に変わらない一日だった。


 それでも――

 まあ、悪くはない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


くーちゃんとの宇宙船の日常を、

少しでも「いいな」と思っていただけたら、

評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。


また次のごはんの時間に、

ふらっと遊びに来てください♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お好み焼き入りのたい焼きですか。 確かにどちらも小麦粉を材料とする鉄板で焼いて作る食べ物なので、親和性は高そうですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。