1.夢の船出
初投稿なので、拙いところがあるかもしれません。
よろしくお願いします!
僕の名前は篠崎海斗。二十八歳。
日本を飛び出し、大道芸人としてアメリカの街角に立ち、拍手と笑い声を集めて生きてきた。
ジャグリングで子供を笑わせ、アクロバットで大人を驚かせ、帽子に投げ込まれる小銭で一日を締めくくる。
それはそれで、悪くはなかった。
けれど、心の奥底でずっと囁きが消えなかった。
――もっと大きな舞台に立ちたい。
――もっと遠くまで届く場所で、自分の存在を示したい。
その願いに導かれるように、僕はここまで来た。
宇宙客船セレスティアル・オデッセイ。
全長数百キロ、何万人もの人間を抱えたまま星々を巡る、浮遊する都市。
曲線を描く船体は漆黒の宇宙に溶け込み、窓の一つ一つが光を瞬かせている。
その光景はまるで夜空に散らばる星そのものが、ひとつの巨大な船の輪郭を形作っているかのようだった。
「……これが、俺の舞台」
喉の奥から自然に言葉が漏れた。
タラップを踏むと、微かな震えが足に伝わった。
心臓の鼓動と船の脈動が重なり合い、まるで僕自身がこの巨大な生き物の一部になるような錯覚を覚える。
制服姿のクルーたちが笑顔で乗客を迎え入れ、フラッシュが一斉に焚かれ、拍手が響いた。
乗客たちは興奮に頬を染め、目を潤ませながら次々に船内へ足を踏み入れていく。
僕はその列の中に混じりながら、誰にも気づかれないように深呼吸をした。
ただの乗客ではない。この船のスタッフ、そして――演者として。
エアロックを抜けた瞬間、空気の匂いが変わった。
地球の街角では嗅ぐことのなかった香水と新しい建物の匂いが混ざり、わずかに甘い。
重力が切り替わり、身体がほんの一瞬だけ浮かぶ。
次の瞬間、視界に広がったのは――
吹き抜けのロビー。
床は磨き抜かれた大理石のように光を反射し、天井には幾万もの光を散らしたクリスタルのシャンデリア。
透明な壁越しには、蒼く輝く地球が大きく浮かんでいる。
ざわめき、足音、カメラのシャッター、そしてどこからか聞こえてくる軽快な弦楽の旋律。
五感のすべてが、僕に「ここは地球じゃない」と告げていた。
「すごい……」
すぐ隣で女性客が声を漏らし、夫らしき男が「まるで夢の宮殿だな」と肩を抱き寄せた。
その顔は少年のように輝いていた。
幼い少女はスカートを翻しながら駆け出し、ガラスに張り付いて地球を見下ろしている。
年老いた夫婦は肩を寄せ合い、言葉を交わすより先に涙をこぼしていた。
僕の胸も震えていた。
大道芸人として拾った拍手は確かに僕を支えてくれた。
だが今、僕はその先に来てしまった。
宇宙に届く拍手、宇宙に響く歓声を、この場所で浴びるのだ。




