2.星海の饗宴
展望ダイニングのきらびやかな光の中、僕は銀盆を抱えてテーブルの間を歩いていた。
ボーイとして客に仕え、グラスを満たし、笑顔で言葉を交わす。
けれど、それは僕の役目の半分にすぎない。
もう半分は――舞台に立つ演者として、この船で光を浴びること。
昼は給仕として走り回り、夜は演者として観客の視線を受け止める。
二つの立場を持つ僕の生活は慌ただしいが、そのすべてが夢の続きのように感じられた。
展望ダイニングは、まるで宝石箱をひっくり返したような光に包まれていた。
窓の向こうには地球が蒼く浮かび、その輪郭を金を散らしたように夜の大陸の灯が彩っている。
天井を横切るのはオーロラを模したライト。ゆるやかに流れる光が銀のカトラリーに映り込み、虹色の輝きを散らす。
香ばしい肉の匂い、焼きたてのパンの甘い香り、シャンパンの泡がはじける音。
五感すべてが「ここは特別だ」と告げていた。
「見て! 夜の大陸が光ってる!」
少年がテーブルの上に乗り出す。
隣の母親が慌てて肩を掴むが、目は同じように輝いていた。
「これは……宝石箱のようだ」
老紳士はワイングラスを傾け、声を詰まらせた。
隣の夫人は目頭を押さえ、微笑みながら頷いている。
「こちら追加の赤ワインです」「どうぞお楽しみくださいませ」
笑顔を浮かべ、グラスを置く。
演者として光を浴びる瞬間とは違う。けれど、この煌めく空間を支えているのも自分の役目だと、胸の奥でひそかに誇らしく思った。
ラウンジでは、AIが投影するホログラムのピアニストが旋律を紡いでいた。
人間の指は触れていないのに、音色は不思議と温かい。
客たちはグラスを傾け、目を閉じて静かに聴き入る。
プールエリアは透明なドームに包まれ、外には満天の星空。
水面が照明を受けて揺らめき、飛び込む子供たちの笑い声が弾けるたびに、水飛沫は虹の弧を描いた。
「宇宙で泳いでいるんだぞ!」
少年の叫びに、大人たちまでもが笑顔を見せていた。
そして夜が訪れると、シアターの幕が上がる。
客席を包むホログラムの星雲、舞台中央に浮かぶ銀河の映像。
歌姫イザベラの歌声が響くと、映像の星々が瞬きに合わせて光を強め、観客の頬には涙が流れた。
――僕は舞台袖に立っていた。
銀盆を下ろし、深呼吸をする。
これから自分が立つ舞台を、観客はどんな顔で見てくれるのだろう。
演者として光を浴びる瞬間が、すぐそこまで迫っていた。




