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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第6章 アンナスレイヴァー編
228/230

●第139話【行方】


 匂坂道成さきさかみちなり

 六十代の元・吉祥寺研究所員。

 キリエがまだ桐沢大だった頃、彼と同じようにXENOVIAの刺客に命を狙われていた男。

 その男が、何故迷宮園ラビリンスに現れ、鷹風ナオトらと共に居るのか。


 ここは、迷宮園ラビリンスのメインフロア。

 “賢者セージ”と呼ばれる巨大な機器の端末を操作していた彼は、すぐ後ろに居るナオトに尋ねようと顔を上げた。


「凄い、日本にこれ程の設備を持つ機関があるとは!

 いったい君達“SAVE.”は、何者なんだ?」


「俺達のことは気にしないでくれ。

 それより、賢者セージへの認証登録は済んだか?」


「ああ、それは問題ないと思う。

 それで、私はこれからどうすればいいんだね?

 ただかくまう為だけに、私をここへ呼んだ訳ではあるまいし」


「あんたに色々と話を聞かせて欲しいからさ。

 吉祥寺研究所時代の話をな」


 ナオトのその言葉に、匂坂の表情が曇る。


「まぁ……そうだろうなあ。

 今の私には、それくらいの利用価値しかない」


「いや、あんたは貴重な存在だ。

 今や普通の人間として、吉祥寺研究所の知識を有しているのは、あんた一人だけだろうからな」


 ナオトのそんな一言に、匂坂はピクリと眉を動かした。


「ナオト……君は、もしかして知っているのか?」


「なんのことだ」


 質問をはぐらかすと、ナオトは彼をいつもの休憩用テーブルまで招いた。

 そこでは既に霞が、人数分の飲み物を用意して待機していた。

 カップの端に零れたコーヒーの跡が見え、ナオトは思わず苦笑する。


「まあ、いいだろうさ。

 君達にこうして命を救われているのは事実だし、もう隠しておく必要もないだろう。

 私が知っている限りの知識を、今こそ伝えよう」


「それは嬉しいかも」


 ボソリと呟く霞に、匂坂は少し戸惑いの表情を浮かべるも、目の前に差し出されたコーヒーを一啜りして気分を改める。


「じゃあまず、何から話そうか。

 君達の聞きたいことは、何かあるかい?」


「それなら、早速教えて欲しいことがある」


 少し身を乗り出すようにして、ナオトが真剣な面持ちで尋ねる。


「キリエ――いや、桐沢大が行っていた研究についてだ。

 あんた達は、あの金尾邸の地下で、いったい何をやっていたんだ?

 それも、わざわざ吉祥寺達の下を離れてまで」


 いきなり核心を突かれたのか、匂坂は思わずむせ返りそうになった。



 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第139話【行方】

 





 その頃、司は一人悩んでいた。

 先程の、高輪に言われた事が、脳裏に何度もリフレインする。


 

『あの! わ、私と一緒に、今度のお休み、お出かけしてもらえませんか?!』



(いったい、どういうつもりだ?

 なんで俺なんかと――二十歳以上も年離れてるんだぞ?)


 下手したら、親子くらいの年の差の部下。

 そんな相手に急に誘われたのだ、さすがの司も動揺せざるを得ない。

 無論、表情や態度には一切出さないように務めるが、おかげで仕事が手に付かない。


 端末の画面から顔を上げると、対角線上に居る高輪と目が合う。

 顔を赤らめてニコッと微笑むその表情に、司はつい、露骨に視線を逸らしてしまった。


(落ち着け、司十蔵。

 よく考えてみろ、二十代の女の子が、こんな年の離れたおっさんをまともに相手にするわけがないだろう。

 以前、同期の高橋が食らったパターンだろ、これは。

 デートだと思って行ってみたら、父親のプレゼント選びのアドバイスが目的だったんだったか。

 あの時のアイツの勘違いっぷりは、はたから見ていて痛々しかったからなぁ~)


「いかん、仕事に集中しなければ」


「え、課長、今何か?」


 手前に座る青葉台が、不思議そうに尋ねて来る。

 司は、思わず口許を手で押さえながら反応した。


「あ、すまない。独り言」


「面白いですね、課長♪」


「え、なんで」


「課長って、たまに面白いことするじゃないですか。

 ほら、この前もこれで」


 そう言いながら、青葉台は司の机の角に飾られている小さなフィギュアを指差す。


「これ、この前出た新作ですよね。

 待ちくたびれシリーズの」


「あ、ああ」


「置き場所を一生懸命決めてるの、凄く楽しそうでしたし」


「忘れてくれないか、頼むから」


 思わずフィギュアをふん掴み、机の引き出しに押し込む。

 ふと見上げると、無表情でこちらを眺めている高輪の姿があった。

 いやこれは、眺めているというよりは――


「課長、そろそろいいですか?」


「おわっ」


 唐突に真横から話しかけて来た金沢に、つい変な声を漏らしてしまう。

 

「科警研からの追加報告資料を、共有フォルダに置いておきました。

 追加実験の報告と、例の資料の照らし合わせは合致しているとのことですね」


「そうか、じゃあ――後の課題は“アレ”の対策か」


「そうですね、資料にもあった“XENOのテレポート”です」


 滝が寄越した資料によると、XENOは成長段階が低い状態ではテレポートがまだ行えない。

 その為、科警研で行われている各種実験に関しては、ある程度以上成長したXENOを試験体として用いることは不可能。

 万が一逃げ出されたら、大変なことになってしまうためだ。


 現在科警研では、XENO犯罪対策一課の要請に基づき、XENOの行動を抑制するための武器を開発している。

 最新のレポートによると、如何にコアの機能を停止させるかが肝要と科警研は見ている様子だ。

 しかし成長が不充分なXENOしかサンプルにない以上、開発した武器の性能はどうしても憶測で調整するしかない。


 そして実際に実用可能なのかどうかを、実践の上で判断するのは、XENO犯罪対策一課――すなわち、この中で唯一銃器を扱える司なのだ。


 司は、警察官の中で唯一XENOと対峙し、戦闘を経験した上で生存している存在だ。

 その事もあり、また島浦が根回しした事もあり、本件に関しては既に上からの承認を得てはいる。

 後は、科警研が試作品を届け、司自身がXENOと出会う必要があるわけだ。


 金沢の持って来た話題で、ようやく気分が切り替えられた事に感謝しながら、司は科警研からの資料を展開した。


 高輪の視線が、いまだに自分にちらちらと向けられている事にも気付かずに。








「おはようございます! おじさま、おばさま!」


「おはよう愛美ちゃん。

 今日も来てくれて本当にありがとう」


「お帰りなさい、愛美ちゃん♪」


「おばさま……♪」


 その日も、相変わらず愛美は朝から千葉邸を訪問していた。


 朝早く起床して迷宮園ラビリンスでナオト達の食事の準備と掃除、洗濯を済ませ、地下迷宮ダンジョンでスタッフ達に挨拶をしてお茶を振舞い、それから出かける。

 既に忙しく働いた後だというのに、愛美は全く疲労を自覚していない。

 それだけ、千葉邸を訪問するのが楽しみでしょうがないのだ。


 訪問を始めて、もうすぐ十日。

 自分を温かく迎え入れてくれる康介と晃子の優しさに、愛美はいつしか心底甘えていた。


(もし、私に両親が居るとしたら、おじさまやおばさまのような人だといいなあ……)


 二人も愛美の来訪を拒むことはなく、むしろ逆に玄関で待っている程楽しみにしている。

 愛美は、千葉邸で二人と接している時だけは、これまでの辛く悲しい想い出を忘れることが出来る気がした。


「あのね、愛美ちゃん。

 提案があるんだけどね」


 その日、昼食の準備を進めていると、手を貸していた晃子が不意に語り掛けて来た。


「はい、なんでしょう?」


「最近少しずつ温かくなって来ているし、そろそろ冬物も片付けなきゃ行けないわよね」


「そうですね、じゃあ衣替えの準備をお手伝いします!」


「ああ、そうじゃないのよ愛美ちゃん」


「?」


「あのね、良かったらなんだけど、明日あたり新しい服を買いに行かない?」


 少し照れるような仕草で、晃子が提案する。

 愛美の表情が、更に明るくなった。


「わぁ♪ 素敵ですね! 分かりました!

 では私は荷物を持――」


「買うのは、あなたの服よ?」


「え?」


 思わぬ言葉に、一瞬動きが止まる。


「あなたの新しい服を、買いに行きましょうよ。

 ね?」


「え、あ……え、ええっ?!

 わ、私の、ですか?!」


 思わず洗い物を取り落としそうになり、ぎりぎりで食い止める。

 そんなあたふたした態度に苦笑しながら、晃子は更に続けた。


「夕べね、あの後お父さんとも話をしたのよ。

 愛美ちゃん、毎日来て色んなことをしてくれるし、何か御礼をしなきゃって思って」


「あ、ありがとうございます!

 で、でも……私なんかの為に、そんな」


「何言ってるのよ。

 もう愛美ちゃんは、うちの娘みたいなものじゃない」


「え?」


 再び、愛美の動きが止まる。

 晃子も、しまったと言わんがばかりに口を押さえる。


「あ、あはは♪

 ごめんね愛美ちゃん、急にそんな事言ったらびっくりしちゃうわよね?」


「……」


「でも、本当よ。

 私もあの人も、あなたをもう一人の子供みたいに思ってるわ」


「おばさま……でも、あの、実は私は――」


 自分は“人間”じゃない。

 そう言いかけた時、晃子は笑顔で唇に人差し指を当てた。


「知ってるわ」


「え?!」


「あなたが、真莉亜の細胞から生み出された存在だっていうこと。

 匂坂さんの手紙で、もう知ってたの」


「そ、それじゃあ!!」


「でもね、聞いて愛美ちゃん。

 真莉亜の細胞なら、それは私達夫婦が産んだのと同じことじゃない?」


「……!」


 優しく微笑む晃子の顔。

 愛美は、言葉を失ってしまう。


 彼女の手を包み、晃子は、まるで子供に言い聞かせるような口調で更に続けた。


「だからね、愛美ちゃん。

 私達にとってあなたは、本当の娘も同然……いいえ、本当の娘なのよ」


「おば……さま」


 愛美の頬に、一筋の涙がつたう。

 それが、きっかけになった。

 湧き出す感情に、抗う事が出来ない。


 愛美は、晃子の胸に飛び込んだ。


「――おかえり、愛美ちゃん」


「おばさま……おばさまぁ……あああああああああぁぁぁ!」


 彼女の声に、今までずっと詰まっていた想いが、嗚咽となって溢れ出した。






「――その話は、本当なの?!」


 普段あまり露骨に感情を示さない霞が、大きく目を見開いて驚愕する。

 そしてその隣のナオトも、表情こそ変えないものの冷や汗を垂らし青ざめている。


「紛れもない事実だ。

 だからこそ、私はあの男が許せないんだ」


 匂坂はそう言うと、怒りに拳を震わせる。

 既に冷え切ったコーヒーカップを手に取ると、ナオトは飲むのを止め、更に尋ねた。


「その事を、吉祥寺達は知っているのか?」


「それはわからない。

 だが、恐らく知っているだろうな。

 あの人――いや、あの男も、恐らくもう人間ではないだろうからな」


 匂坂の独白は、二人の予想を越える程惨く陰惨な内容だった。



 匂坂が吉祥寺研究所に入所したのは、今から十三年前。

 それは、謎の爆発事故により大元の研究所が破壊され、新たな建造が行われた後のことだった。


 匂坂と同時期に入所した千葉真莉亜は、正に飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を遂げた若き研究者で、同時に所内で最も若い女性だった。

 匂坂をはじめ、それまで別な研究機関で長年働いて来た中年男性ばかりの環境の中、彼女の存在はとても目立っており、匂坂もいつしか意識せずにはいられない雰囲気に捉われていた。


 当時、匂坂は吉祥寺が始めたばかりの“とある研究”の補助を依頼され、彼の下で初めて携わるような不可思議な研究に没頭することになる。

 同時に真莉亜は、それまで吉祥寺達が行っていて、急遽取り止めた研究の継続を指示されていた。


 ――それが“人層育成生体”と呼ばれるクローン人間の生成。


 吉祥寺達は、クライアントである井村大玄の指示により、長年「不老不死」という馬鹿げた現実味のない研究を行わされて来た。

 その結果、彼が最初に辿り着いたのが、新しい肉体をクローンで生成し、そこに電気信号化させた意識を移すことで老化や病巣を取り除くというものだった。


 しかし、その研究は「あるもの」の出現により、唐突に方向転換を余儀なくされた。


「それが、XENOだ。

 どこから手に入れたのかは結局わからなかったが、吉祥寺達はXENOの幼体を育成研究し、その性質を調べた。

 その結果わかったのが――まあ、後は言わなくても君らならわかるだろう」


 吉祥寺は、XENOが餌食とした生物の外観と性質、能力や記憶までコピーし、オリジナルより強力な存在に進化する性質に着目した。

 彼はそれから、不老不死という途方もなく終わりの見えない研究から、人類そのものをXENOにより強化するという目的にシフトさせ、研究所全体の方針を切り替えたのだ。



「だったらどうして、真莉亜だけはクローン人間の研究を続けさせられたの?」


「簡単なことさ。

 XENOの生餌とするためだ」


「え……エサってこと?!」


「その通りだよ。

 XENOはより高度なDNAを求めて捕食する性質があると見られている。

 その為、最適なエサは動物よりも人間が求められた。

 しかしまさか、一般人を誘拐して与えるわけにはいかない。

 そこで、以前の研究に用いた人造育成生体に目を向けたのだ」


 霞の質問に、匂坂は無感情に恐ろしい回答を示す。


「だがね、真莉亜はただ無意味に研究を続けたわけではなかった。

 彼女なりの何か目的があったのかもしれないが――とんでもないものを生み出してしまったんだ」


「とんでもないもの?」


「そう、クローン人間でありながら永久に年を取らず、殺されない限り死ぬことがない、まさに不老不死の存在をね。

 しかもそれは、彼女自身の細胞から培養した胚から生み出した者だった」


 匂坂が、後はわかるなと言わんがばかりに二人を見つめる。

 無意識に、ナオトの喉がゴクリと鳴った。


「それが、愛美なのだな」


「そうだ。

 聞いた話によると、不老不死の条件を持つ育成生体は結局愛美一人だけしか生まれなかったそうだ。

 個人的には、幾重もの条件がたまたま重なって生まれた、偶然の産物だったんだろうと思っているよ」


 愛美の誕生は、研究所内の空気を一変させた。

 既に終わらせた筈の研究から、よもやの完成形が誕生したのだ。

 愛美と名付けられた個体は即座に吉祥寺に気に入られ、寵愛を受けると同時に様々な検査や研究に用いられた。

 その中には、拷問に近いものもあったという。


 ナオトの表情が、嫌悪に歪んだ。


「話が長くなったが、ここにもう一人、新しい研究員が加わったことで、我々の運命が大きく変化した。

 それが、桐沢という男の入所だった」


 匂坂は、眉間に深い皺を寄せて苦々しく呟く。


「奴は、真莉亜に勝るとも劣らない程の実力者でね。

 あっという間に吉祥寺の研究を理解し、それだけでなく真莉亜の研究にも興味を示した。

 そこから奴は一気に所内で地位を高めてな。

 十何歳も年上の先輩研究員達をお前呼ばわりするような傲慢な性格を表し始めた……」


 いつしか、その発言に桐沢への只ならぬ憎悪がこもって行く。

 

「ある日奴は、私に提案して来たんだ。

 吉祥寺の研究には、根本的な問題がある。

 俺達でそれを見返してやらないか、と」


 当時の匂坂は、吉祥寺やクライアントである井村大玄にも、強い不満を抱いていた。

 人の目を避けるように地下深くで行われる、終わりの見えない危険な研究。

 研究員達は、いずれ自分達は口封じの為に消されるのではないかという疑念を抱き始めてもいた。


 桐沢は、そんな彼らの心の隙間を突き、引き抜きを画策したのだ。


 当時の匂坂は、憎むべき相手からの提案にも関わらず、大きな魅力を感じた。

 あの真莉亜も同調していたという背景もあったのだが。


「私はあの時、桐沢は真莉亜と付き合っているものだと思い込んでいた。

 だからこそ、奴の誘惑に乗ったのだとね。

 だが、それはそうやら違ったようだ」


「どういうこと?」


「真莉亜は嫌悪していたんだよ。

 自身が生み出した“愛美”という存在をね。

 まあ、今ならわかる。

 本当なら、自分が研究所の中心に立ち、吉祥寺達から評価される立場になる筈だったんだ。

 それを自分のクローン人間に奪われ、しかもそれが実験に使用されている。

 私が彼女なら、そんな現場からオサラバしたくなるだろうさ」


「それは、確かにそうだな……」


 腕組みをしながら、ナオトが頷く。

 

 桐沢は、かつて研究所が爆発事故で大破した際に一次的な避難所として利用していた“金尾邸地下”に目を付け、そこに移動する事を企てた。

 はじめは真莉亜の研究を手伝うという名目で、吉祥寺からも承認を得たようだ。

 しかし彼は、移動が終わった瞬間から金尾邸の設備のセキュリティ設定を全て変更した。

 完全に、彼らだけが利用する環境に変えてしまったのだという。


「知りたいのはそこからだ。

 あんた達は、そこで一体何をしていたんだ?

 桐沢の目的は――」


「奴の目的は、吉祥寺とは違うやり方でのXENO量産化さ」


「XENOの……量産化?」


 震える声で呟く霞に、匂坂は不気味に微笑む。


「ああそうだ。

 吉祥寺達の研究は、当時行き詰っていた。

 XENOには生殖能力がないので、数を増やすことが出来ない。

 その為、実験を繰り返す度にサンプルの数が減少していく。

 それを井村に知られてしまった吉祥寺は、大急ぎでXENOの幼体を自由に生み出す何かを見つけなければならなかった」


「桐沢が、それに気付いたと?」


「そこが、奴の恐ろしい所だ。

 奴はXENOの進化態の中から、やがて幼体を生み出す能力を持つ個体が現れることを予見したんだ。

 確かに、そういったものが存在しない限り、そもそもXENOが複数体存在出来る筈がないからな」


 そして桐沢は、いったいどのような手法を取ったのか、その持論が正しい事を証明する。

 実際にXENOの幼体を生み出す「コロニー」の育成に成功し、全く新しく幼体を量産するシステムを構築した。


「あいつやあんた達が吉祥寺に追われたのは、その為だったのか」 


「そうだ、桐沢からの話を聞いて断った者、話に乗ったものの途中で脱落した者、色々だが……

 私は、情けないことにずるずると奴の目論みに従ってしまったんだ」


「千葉真莉亜は、どうしたんだ?」


 ナオトの質問に、匂坂は何故かギラリと目を光らせた。


「わからんかね?」


「ん? どういうことだ?」


「私はさっき、XENOコロニーの育成に成功したと言ったじゃないか」


「ちょっと、意味がわからないんだけど?」


 意味深に呟く匂坂に、小首を傾げながら尋ねる霞。

 だがナオトは途中で気付いたようで、短い悲鳴のような声を上げた。


「まさか……?」


「そうさ、桐沢の目論みの肝要はそこだったんだ。

 XENO の“子供”を産み出すには、当然“母体”が必要になるからな」


「え……?!

 それって、まさか?!」


 思わず椅子から立ち上がる霞に、匂坂は静かに、しっかりと頷いた。



「そうだよ。

 桐沢は、千葉真莉亜をXENOの生成コロニーにしてしまったんだ」





 その日の仕事を終え、帰宅の準備を進めていると、顔を紅潮した高輪が声を掛けて来た。

 どこかウキウキしているような仕草に、とてつもなく嫌な予感が迸る。


(あ、そうか……明日だもんなあ)


「課長♪ 明日のお話なんですけど。

 銀座でいかがですか?」


「あ、ああ、うん。

 えっと、後で詳しいメールくれるかな」


「わかりました♪

 じゃあ、LINE送りますね☆

 それじゃあ、本日はこれで失礼しま~す♪」


 はたから見ても異様なはしゃぎようで、高輪は退室していく。

 まだ端末に向かい合っている金沢が、ジト目で睨みつけて来る。


「課長、いったい何が起きてるんです?」


「あ、ああ、別に大したことじゃないよ」


「今日も高輪さんの態度が妙でしたけど……まさか……」


「ななな、何も知らないぞ私は。

 ――おっと、帰ってテレビ観なきゃならんから、これで失礼するよ」


 そう言うと、まるで逃げるように上着を引っ掴んで部屋を飛び出して行く。

 呆れた溜息を吐き出しながら、金沢は再び自身の端末に向き直る。

 先程まで開いていたアプリケーションを縮小させ、新しくブラウザを立ち上げると、Teamsを立ち上げる。


 自分とは異なる名義でログインすると、暗号のような意味不明な文字列の名義に向かってチャットを展開した。





「えっ、明日銀座に行くの? すっげぇ!」


 ここはSVアークプレイスのミーティングルーム。

 暇を持て余し、携帯ゲーム機を弄りながら反応するありさに、愛美はとても嬉しそうに答える。


「そうなんです♪

 おじさまとおばさまと、お買い物に!

 私、服を買って頂けるんです☆」


「へぇ、すげぇ!

 こんな短時間でそんなに仲良くなったのかよ、そのご夫婦と」


「ええ、はい……」


 顔を紅潮させて俯く愛美の横顔を見つめながら二人の会話をじっと聞いていた未来は、何かを言いかけて、止めた。



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