第41話 縁の糸
感嘆としていたサクラは、凪の腕をギュッと抱きしめた。
「サクラ、やっぱりナギのこと好き! これからも、もっと一緒にいたい!」
「おわっ。あはは、ありがとうサクラ。一緒に頑張っていこうな!」
「うん!」
甘えるように凪にくっつくその神様の姿が、凪の目には妹と重なるところがあった。出逢った頃から妙にサクラを気に掛けてしまうのも、もしかしたらそういう理由もあるのかもしれないと、凪はふとそんなことを思いながらまたおはぎに手を付ける。
そこで、サクラが「あれ?」と不思議そうな声を上げて首をかしげた。
「ねぇねぇナギ。ナギが思い出の子と会ったのは、ツキネの神社の夏祭りなんだよね? じゃあ、シホちゃんと行こうとしてたのは別の神社のお祭りなの? そうじゃなきゃ、連れていく~って約束はしないよね?」
「ああ、そうだよ。うちの町は神社が多いからさ、あの頃から夏にはいろんな神社でお祭りがやってたんだ。汐は縁日で好きで、いろんなところに行ったなぁ。だから俺はその日も汐を――」
そこまで言いかけて、凪の声とおはぎを持つ手が止まった。
「……あれ? 俺……汐を、どの神社の夏祭りに連れていこうとしてたっけ……」
――夕方になっても蒸し暑い日だった。
妹を置いて、天乃湯神社の鳥居を出た。走ってどこかへ向かった。やがて月音が追いかけてきて、三人の交通事故のことを知った。
しかし――どこへ行こうとしていたのか、その記憶がない。
交通事故を聞いたショックもあり、あのときのことを忘れているだけかもしれない。しかし凪は、自分の記憶がどこか不自然に塗りつぶされているような気がした。
「……俺は……汐と…………」
そこで、戻ってきた月音が慌てた声を上げる。
「こらぁ~! サクラ様ってばまた凪ちゃんにくっついて! 私のいないところで凪ちゃんとイチャイチャタイム始めないでください~!」
「うわ月姉ぇ! び、びっくりした!」
「あ、おかえりツキネー! サクラ、ツキネのことも大好きだからね♪」
「な、何の話ですかっ? もう! 早く凪ちゃんから離れてくださ~い!」
周りの迷惑にならないよう小声でサクラと格闘しつつ、凪の隣席を確保しようとする月音。端から見ればただのイチャつきカップルであり、注目を集めてしまった凪は周囲にペコペコと頭を下げていた。
そんなとき、凪は店先から中を見ている一人の少女を見つける。
「……ん? あれ、あの子ってさっき絵馬のところでお願いしてた子か」
見覚えのある少女は、先ほどククリの神社で熱心に参拝をしていた子であった。雨宿りでもしているのか、食品サンプルのデザート棚をじ~っと見つめている。
そんな少女の身体から、光る糸のようなものが伸びていた。
「――え?」
凪は自分の目をこすってもう一度見てみるが、やはり見間違いではない。糸は途中で空気に溶け込むように消えているが、確かに少女の中から生まれていた。
「あの糸……前に、俺のお守りから出てたのと似てるような」
そんな凪の視線を辿ったサクラが隣からひょこっと顔を出し、声をあげた。
「あっ! あの子の縁……切れかかってる!」
「「え?」」
「ナギ! あの子、きっとすごく困ってる! だからがんばってお願いしてたんだよ!」
「そ、そうなのか? それじゃあの光る糸みたいのが〝縁〟なのか」
「凪ちゃん? サクラ様? ど、どういうこと? お姉ちゃんには見えないよ~っ」
「ナギはイコナから力をもらったから、サクラたちに近い目を持ってるんだよ。それよりナギ、急いで声をかけてきて! あの子、もう行っちゃうかも! このままじゃあの子の大事な縁が切れちゃう! そしたらククリも悲しむよ~っ!」
「わ、わかった! あ、じゃあ月姉も一緒に来てくれ! このご時世、俺一人で声を掛けたらさすがに怪しまれちゃうし!」
「うんっ。店員さーん! 少し店先に出ますけどお勘定は後でちゃんと払いまぁす」
月音がそう声を掛けると、先ほどの女性店員が「はいはーい」とエプロン姿でこちらにやってくる。そして店員は店先の少女を見てつぶやいた。
「あら沙夜ちゃんじゃない。雨の日も毎日お参りしていて本当に偉いわぁ」
その発言に顔を見合わせる凪と月音。
どうやらあの少女は店員の顔見知りであるらしく、二人は店員から紹介を受けるような形で少女と邂逅。店員の好意もあり、店内でゆっくりと少女から話を聞くことに成功するのであった。




