第39話 名物おはぎの茶店
気持ちを合わせた三人は、そのまま参道の大鳥居前にあるレトロな食事処へ入店。雨脚が強まり多くの客で店内が賑わう中、作戦会議を始めていた。
そこへ、頭巾を被った中年の女性店員がお盆を運びながらやってくる。
「お待たせしました。名物の五種類のおはぎと、あんみつ、つぶあんソフトです。雨宿りがてら、うちの自慢の味を知っていってね、可愛いカップルさんたち」
「あ、どうもです」
「ありがとうございます~。凪ちゃん凪ちゃんっ、日本一のベストカップルだって! えへへ、本当のことを言われちゃうと嬉しいね~♥」
「そこまで言ってないし本当のことですらありませんが!?」
「まぁまぁ、仲が良いカップルさんなのね~。ゆっくりしていってね」
にこやかに去っていく店員をにこやかに見送る月音。凪だけがぐったりしていた。
先ほどまでは「ムムム~」と頭を悩ませていたサクラであるが、注文した甘味を口にするとすっかり笑顔を取り戻し、その様子に凪はホッと安心した。ククリを助けるためにも、サクラはこうではなくてはいけないと思えたからだ。
そこで、あんみつの白玉を頬張っていた月音が手を挙げる。
「ハーイ、凪ちゃん先生! お姉ちゃん、一つ思いついちゃったっ」
「ハイ月姉どうぞ」
「あのね、明日はお祭りでしょ。それでね、お客さんとしてだけじゃなくて、私たちもお祭りのお手伝いとかしたらどうかなぁ」
「俺たちで例大祭の手伝いを?」
「うん! ほら、お祭りはよく氏子さんたちがお手伝いしてくれるでしょ。だから私たちも協力して、一緒にお祭りを盛り上げるの! みんなが楽しむ姿を見たら、ククリ様も元気になってくれるんじゃないかなぁって。だってほら、凪ちゃんもそうだったもんっ」
「月姉……そうか!」
月音の言葉で小さい頃のことを――天乃湯神社で開かれたあの夏祭りを思い出して、凪は小さく笑った。
「うん、さすがは現役巫女。いいかもね。ただ参加するだけよりは力になれるかもしれない。明日、氏子さんたちにお願いしてみようか」
「そうしようよ! お姉ちゃん、また人気者になっちゃうよ~!」
その発案に賛同する凪。月音は嬉しそうに手を合わせた。二人とも、実家の祭事で主催側のことには慣れている身である。
これにはサクラも目を輝かせた。
「わぁ~……うんうんっ! それすっごくイイと思う! みんなでお誕生日を祝ってくれたら、ククリ、ぜったいよろこんでくれるよー!」
「誕生日? ああそっか。例大祭って祭神の誕生日なんかに行われるんだよな。前に修行で朔太郎さんに教えてもらったっけ」
「凪ちゃんよく覚えてたね、偉い偉~い。ご褒美に、一緒にお手洗いいこっ♥」
「はいはい、わかっ――って行かないよ!? ごく自然に同性のクラスメイトを誘うみたいな言い方するんじゃない! さっさと一人で行ってきなさい!」
「小さい頃は、夜になると一緒に行ってくれたのに~。凪ちゃんのいじわるぅ」
「この年齢になってそんな誘いする方がいじわるなのでは!?」
からかうように笑って席を外す月音。これにはさすがに凪の方が照れてしまい、そんな顔をサクラが愉快そうに見つめていた。
「ナギとツキネはいつも仲良しでいいなぁ。サクラもねっ、昔はイコナやククリとよく一緒に遊んでたんだよ。そのころからククリとは仲良しなの!」
「へぇ、そっか。確か同級生なんだよな?」
「うん! ククリはすっごく勉強が出来てね、いつも一番だったんだよ! だからきっとすごい神様になるって思って……だから、だからねっ」
「そうか。早く元気になってほしいよな。俺も手伝うから何でも言ってくれ。月姉だってサクラにはちょっと厳しいとこあるけどさ、きっと同じ気持ちだよ」
「ナギ……えへへっ、うん! ありがと!」
明るく微笑むサクラ。その純粋な笑顔はいつも凪に元気をくれるため、ククリもきっとサクラの気持ちをわかってくれるはずだと、凪はそう思っていた。そのためにも、なんとかククリとまた会って話をしたい。何があったのか、それを知りたかったから。
「ねぇナギ。あのね、でもどうしてそこまでがんばってくれるの?」
「ん? どうして?」
突然の質問。サクラは大きな瞳でじっと凪を見上げた。
「サクラはね、ナギに助けてもらって、だからナギに恩返しがしたくて、それで一緒にいさせてもらってるの。それじゃあ、ナギがサクラのために、ククリのためにがんばってくれるのはどうして? やっぱり、朱印がほしいから? そんなにがんばれちゃうくらい、ナギには会いたい人がいるの?」
まさかサクラからそんなことを訊かれると思っていなかった凪は多少驚きつつ、照れくさそうに笑いながら言う。
「うん、確かに俺はあの人と会うために御朱印巡りを始めた。今もその気持ちは変わらないよ。あの人との約束は……必ず守る。そのために頑張ることが出来るんだ。もちろん、みんなが支えてくれるから出来るんだけどね」
「約束……そのために、がんばれるんだね」
うなずいて応えた凪は、少々逡巡した後に続けて話す。
「あのさ、サクラにはまだ話してなかったよな、昔のこと。俺が御朱印集めを始めるきっかけの話なんだけど……ちょうど月姉もいないから、今のうちに話しておくよ。月姉に聞かれると恥ずかしいところもあるからさ」
「え? いいのっ? うんうん知りたいっ!」
興味津々に身を乗り出すサクラに、凪は、忘れられない記憶を呼び起こしていく。




